去年のWorld Gourmet SummitでChef’s choice賞とRestaurant of the yearに輝いた、Petrina Lohシェフのレストラン、Morselsに行ってきました。

印象的だったのは、1から手作りの醤油や豆板醤などの発酵調味料。幼い頃は体が弱く、心配した母親の手による、様々な発酵食品や中国の薬草を使ったスープなどを食べて育って来たというだけあって、中国のスパイスやハーブなどもそこここに入っています。

 

 

元々は銀行員をしていたPetrinaさんですが、リーマン・ショックを機に、考えを変えたそう。「実体のない金融の世界よりも、形のあるものを作ってそれを目の前のゲストに喜んでもらう仕事をやりたい」そこで、29歳で、7年間を過ごしたカリフォルニアの料理学校に入り、1から料理を学びます。アメリカのシェフの下で数年間過ごした後、2012年にオープンしたのが、Morsels。元々はリトルインディアにあったお店を、デンプシーに移転して1年が経ちます。

 

(Mejuと呼ばれる、韓国の発酵した大豆を乾燥させたもの。韓国に食材探しに出かけた際に自分で作り、自家製テンジャンの材料にする予定)

 

出す料理は、野菜が大好きというPetrinaシェフらしく、野菜をしっかり使い、雑穀入りのパンに乳製品を合わせるなど、健康志向の高いカリフォルニアの料理の影響も感じます。

 

 

店の外にはハーブのプランター、店の外にある、半分土に埋まった壺では、豆板醤が熟成されています。好みの仕上がりにするために自分で色を塗ったという壁、世界の料理法を知り、生産者に会うために旅した各地から持ち帰ったお土産と並んで自家製のピクルスの瓶が並びます。

 

Petrinaシェフの部屋に招かれたようなくつろぎ感のある店内。

 

 

ディナーはアミューズ1皿、前菜2皿、炭水化物系1皿、メイン1皿、デザート1皿で55ドル(メニューによって追加料金あり)からと、気軽に行ける価格帯から、125ドルのお任せコース、ベジタリアンコースまで揃っています。

 

ワインペアリングをお願いしました。

アミューズに合わせたのは、りんごのような香りの清涼感あるプロセッコ。

16 Spagnol, Col del Sas, Extra Dry, 18 DOCG Prosecco Di Valdobbiodene, Veneto, Italy Glera ($18/グラス)

 

 

スナックから、

Oyster on half(+$3)

 

 

ナッツのような香りと、しっかりとした身質から選んだという、フランス・イズニー産の生牡蠣に、ビーツのジュレとピクルス、そして苺胡椒とマスタードの葉。柚子胡椒が大好きだというPetrinaシェフ、柚子ではなく、苺と青唐辛子、オレンジとライム、グレープフルーツの果汁で作ったのだそう。フルーティーで華やかな生牡蠣に仕上がっていました。

 

Tuna Tartare

 

 

続いては、マグロのタルタル。Cincalokと呼ばれるアミエビの塩辛入りのアイオリトビコのプチプチした食感をアクセントに、煮干しとピンクペッパー、マルドンの塩で作ったという、自家製のタピオカのクラッカーに乗っています。

 

 

グルテンアレルギーやグルテンフリーの食を求める人に、小麦を使っている醤油や味噌を提供できないため、自家製で米やタピオカで代用した醤油や味噌を作っているのだとか。「自分で1から作れば、材料を全て把握できるし、こういった伝統的な手法を知るのも好き」なのだと、Petrinaシェフ。

 

 

Toast

 

 

マルチグレインのトーストはカリッと焼き上げてあり、梅干し入りのリコッタチーズを塗り、オイスターマッシュルームをプランチャで焼き上げたもの、ジュニパーベリー、花椒、などのスパイスと共に発酵させたレタス、発酵マッシュルームをキャラメリゼした玉ねぎと混ぜて作った「ケチャップ」、仕上げに砕いたピスタチオとクレソンを散らして。発酵、きのこ、野菜、ナッツを多用したヘルシーな味わいは、カリフォルニアで学んだPetrinaシェフらしい感じがします。

 

ここからの前菜に合わせたのは、マンゴーのような南国のフルーツの印象が強く、樽の印象、バニラのような後味のあるイタリアの白ワインへ。

'12 Attems, Cicinis Collio, Friuli-Venezia Giulia, Italy WE89

($20/グラス)

 

 

 

Small Plates

Hokkaido Scallop

 

 

北海道産のホタテは、出汁の香りが効いていると思ったら、昆布締めにしてあるのだそう。ブラウンバターと米で作った生地の中にコールラビを2〜3週間漬け込み、発酵させたコールラビが添えてあります。ホタテにはレモンオイルとアマランサスとシラントロの芽、コールラビのピュレには塩漬け卵黄を削りかけてあります。

昆布締めで旨味が増したホタテに、コールラビの甘みに卵黄のコクを加えた、シンガポールらしい一皿。

 

Burrata

 

 

ブッラータは、質の良いCaseificio Artigiana 社のものを使い、パプリカや日本のきゅうり、インドのボリジ、ミント、オリーブオイルなどを使って作った緑のガスパチョと共に。こちらも、マルチグレインパンのトーストと、生のバクチョイ、瓜のような食感のチャヨーテと共に。あっさりした野菜のサラダのようなスープと軽いクリーム感のあるブッラータの旨味を合わせて。

 

五百万石を使った佐賀県・鍋島の純米吟醸($138/ボトル)

 

 

香りのバランスの取れた、中汲みの部分。香りのボリューム感が高く、すっきりとしていて、暑いシンガポールでも飲みやすいタイプの日本酒。

 

Wild Sri-Lankan Tiger Prawns(+$5)

 

 

プランチャで焼いて、スモーキーな香りをまとわせた、スリランカ産のタイガープラウンとターニっぷを、小さな米粒のようなパスタ、オゾの上にのせ、フォワグラのフォーム、カリカリに揚げたものと酢でピクルスにした二種類の海藻、豆苗を飾って。

中国の甘いスパイス、五香粉を使ってアジアのニュアンスが、フォワグラのフォームと合っていました。

 

 

 

Boiled Pork Belly

 

 

7月に1ヶ月間韓国に行き、キムチなどの発酵食品について学んだというPetrinaシェフ。こちらは、韓国の茹でた豚肉の料理、ポッサムをアレンジした料理。デュロック種の豚バラ肉をレタスの上に乗せ、大根を使ったトンチミと呼ばれるキムチをベースに、代わりにりんごを使ったもの。つけ汁をジェルに仕立て、赤と白のキヌア、ポッサムにつきものの塩漬けの小海老の代わりに、桜えびをかけて。

 

 

Truffle Braised Korean Abalone(+$10)

 

 

かなり強めに出したカツオ昆布の出汁に日本の味噌と中国の豆腐餻、トリュフを混ぜた液で韓国産のアワビを低温調理し、卵黄が液体状態になったうずらの味付け卵、ポップコーンのように香ばしい大麦のリゾット、ピクルスにしたキクラゲと、マスタードの葉を添えて。スペインのコンテストに出品したという一皿。

 

 

Steamed Venus Clams

 

 

シグネチャーディッシュだという、蒸したベトナム産のハマグリ。乾燥イチジクと鳥のスープ、自家製のキムチとワカメのピクルス、バゲットと共に提供されます。ほんのりキムチの唐辛子が効いた、クリームたっぷりのスープをバゲットにつけながらいただきます。

 

 

ワイン好きなPetrinaシェフが特にお気に入りだという、ネッビオーロ。

 

 

'16 G.D. Vajra, Clare J.C., Nebbiolo, Piedmont, Italy WS90($20/グラス)

 

Carbs

 

House-poached Octopus

 

 

炭水化物は、こちらもシグネチャーだという、タコのリゾット。出汁と共に丸ごと低温調理したというタコは最後にグリルで表面に焦げ目をつけ、あきたこまちで作ったイカ墨のリゾットの上に乗せて。上にはトビコとアルファルファ、そして自家製の塩漬け卵黄と共に。シンガポールの人が大好きな塩漬け卵黄も、旨味の構成要素として多く使われています。

 

 

 

Mains

 

 

Silky Fowl

 

 

トウモロコシを食べて育った烏骨鶏は低温調理して、ジャガイモで巻いたルーラード風。肉に残るトウモロコシの甘みと合わせたベビーコーン、そして発酵にんにくオイル。

サイドのソースは、ang chowと呼ばれる赤米に、酒粕のような香りの、nan ruと呼ばれる、赤い豆腐餻を混ぜ込んだソース。赤米は中国の文化では、体をいやす効果があるとされ、産後の女性が食べるものだったとか。

 

 

Primrose Farms St. Louis Pork Ribs

 

 

カナダのPrimrose Farmsから届いたポークリブは、ベトナムのハニーポークチョップにインスピレーションを得たもの。豚の出汁と生のターメリックで煮込んだ後、オレンジのグレーズをかけて香ばしく焼き上げてあります。通常、ベトナムでハニーポークチョップと共に食べられているcom tamという砕いた米を炊いたものをアレンジして、バスマティライスをスターアニス、クローブ、シナモンなどで炊き上げ、カリフラワーとパイナップルの漬物、acharと、カイランをあわせて。

 

 

ペアリングは南アフリカの赤ワイン、

'14 Radford Dale, Blackrock, Swartland, South Africa

($22/グラス)濃厚なダークベリーのニュアンスを感じるワインです。

 

 

Toriyama Wagyu Chuck Roll (+$20)

 

 

こちらには、鳥山和牛のIron Steakを。Iron Steakとは肩の肉の部位で、プランチャで焼いてステーキに。揚げたケイパー、ケイパーのエマルジョン、そしてカリッと表面を焼き上げたジャガイモと一緒に。

 

 

甘いものはあまり食べない、というPetrina シェフ、デザートはどれもワインに合うものばかり。

’13 Maculan, Madoro Vino Dolce, Veneto IGT, Italy (375ml)

Marzemino(マルツェミーノ) というイタリアの品種と、カベルネ・ソーヴィニョンのブレンドで、ダークフルーツのジャムのような濃厚なフルーツの味わいがある、遅摘みの甘口ワインです。($18/グラス)

 

 

 

Desserts

Galangal Panna Cotta

 

 

生姜の仲間、ガランガルを使ったパンナコッタ。ガランガルをクリームとミルクに漬け込み、ゼラチンがわりに、ベジタリアンの人でも食べられるカラギナン(海藻から抽出したゲル化剤)を加えて固めてあります。杏とコチュジャンを加えた、ココナッツミルクで作ったキャラメルソースと、焦がしバターで作ったグラノーラを添えて。

 

Parsnip Banana Cake

 

 

こちらも、甘い香りの野菜、パースニップを使ったバナナケーキ。ゴルゴンゾーラとくるみ、パースニップという伝統的なサラダの組み合わせを、デザートにアレンジ。パースニップ、バナナとレーズンで作ったケーキに、ホワイトチョコレートとゴルンゴンゾーラ、カフィライムのシロップで飴がけした胡桃、ゆずの香りを纏った洋梨のシロップ煮は軽く表面を炙って。甘口の赤ワインとの相性が特に良かったです。

 

 

Morsels’ Signature Tiramiso(+$5)

 

 

さらに、ティラミスはマスカルポーネチーズに白味噌を混ぜ込み、塩気を塩キャラメルのようなアクセントに。さらに、シンガポールらしいアレンジも。

シンガポールで好まれるミロ、数あるローカルドリンクの中でもインパクト抜群なのが、ミロの上にミロの粉を山盛りにかけた、milo dinosaurをイメージして、カカオパウダーの代わりにミロをかけてあります。

 

 

 

 

女性がトップを務める会社も多く、性別を問わず社会で活躍できるイメージがあるシンガポールでも、女性シェフの数はあまり多くありません。

 

Petrinaシェフのお気に入りのジン、 すっきりとしたミントが香る、Skin Ginを飲みながら、遅くまでおしゃべり。

 

「今日も50キロの牛肉をさばいたわ。女性でシェフでいる、ということは、求人の際もデメリットが多い、口先で指示を出すだけではだめ。自分ができる、というのを見せてこそ、人がついてくるもの」と語ります。

 

 

Petrinaシェフと話して、男性シェフ、という言葉を耳にしないように、「女性」シェフ、という言葉がない時代がいずれは来るのかもしれない、そんなことを思ったひと時でした。

 

<DATA>
■Morsels(モーセルス) 
営業時間:ランチ 12:00 〜15:00(火曜〜土曜、日曜はサンデーブランチで11:00〜)、ディナー 18:00〜22:00(火曜〜木曜)〜22:30(金曜、土曜) 、日曜のディナー、月曜休

住所:25 dempsey rd, #01-04, s249670

電話: +65 6266 3822
アクセス:MRTオーチャード駅からタクシーで10分程度、Samy’s curryの裏手