日本食材の輸出促進と、日本食の普及を考えて始まった、日本産食材サポーター店制度。シンガポールでも、飲食店を対象にしたセミナーが行われました。

 

 

会場は、インターコンチネンタルホテル内の和食店で、すでにサポーター店として加入している竹葉亭。海外でも活躍する京都・木乃婦の三代目、高橋拓児さんが料理を披露しました。

 

 

日本産食材サポーター店は、日本産食材を常に使用・販売していること、メニューや店頭に日本産食材を使っていることを表示していること、接客などの際にも日本産食材の魅力や特徴をPRしていることが条件で、認定に費用はかかりません。

 

イベントに先立って、JETROの安井裕太郎さんから、現在世界で約2000店が参加しており、2018年末までに3000店に増やしたい、またシンガポールでは現在50店程度が加入していると説明がありました。

 

 

また、加入店には、日本食材を使っているという安心感やブランドだけでなく、食材の情報などの提供がある他、Taste of JapanというJETROのウェブサイトによって、PR効果も期待できるということです。

 

また、日本大使館で農産物を担当している那須さんは、「私が集計したところ、シンガポールには1000の日本食レストランがある。人口580万人(うち在留日本人が3万8000人)の国にしては非常に数が多く、競争が激しい。創設して2年ほどのサポーター制度だが、この状況の中、他店との差別化に役立つのではないかと思う」と話します。

 

 

これまで20カ国以上で料理を教えてきたという高橋さん、例えばスリランカでは、高級レストランのエグゼクティブシェフやマネージャーを対象に、120時間もの日本料理の講習を行い、料理だけでなく、着物の着付けから生け花まで教えてきたのだそうです。全てを含めた知識を持った上でのもてなしが日本料理、というのを、改めて感じます。

 

ちなみに、スリランカでは日本食材が手に入らず、全部現地の食材で料理を作ったという高橋さんに、海外で料理される際には、どんなことを工夫されるのかについて伺うと、旨味のボリュームを上げるように心がけているとのことでした。また、例えば味が薄いなら塩や昆布で締める、匂いがあるなら湯がくなど、食材の状態や持ち味に合わせたあらかじめの仕事の大切さも、合わせて強調されていらっしゃいました。

 

 

さて、日本から遠く離れたシンガポール、しかも日本料理のシェフが対象ということで、高橋さんが提供するのは、「今京都で流行しているスタイルの日本料理」。

 

 

菊菜の茎を半分にスライスしていらっしゃったので、理由をお聞きしてみると、「菊菜は茎が甘いのです、口に入れた時に、甘みがより感じられるように半分に切っているのです」と教えていただきました。菊菜本来の味が濃く、柔らかい葉の部分はしっかりと出汁に浸けますが、自然な甘みそのものを味わって欲しいと、茎の部分は軽く出汁に浸すだけ。葉と茎の持ち味をそれぞれの方向性で生かし、一緒にいただくことで、菊菜の全体の味を楽しんでほしいという考え方です。

 

 

あん肝は塩水につけてから、たっぷりの酒で臭みを取り、黄色のザラメと濃口醤油を入れた出汁でゆっくりたいて柔らかく仕上げています。その食感との対比で使っているのが奈良漬け。「もう少し塩分を減らして炊いた場合は、奈良漬けを間に挟んでも良いですね」と高橋さん。

日本の大根を使った大根おろしには、ゆずの皮を擦って混ぜ込み、ゆずの果汁と米酢などで作った八方酢を混ぜ込み、果実感の溢れる大根おろしに。

 

カツオと昆布の出汁のゼリーは、鰹節の中でも、血合いのついた酸味の強い部分を使っていて、骨格のある味わい。あん肝のコクに旨味と酸味を加えています。たたいた木の芽が甘い香りを添え、まるで和のフォワグラとゲヴェルツトラミネールのようなコンビネーションだと感じました。香り酵母を使った日本酒とも合いそうです。

 

 

赤甘鯛は一塩して揚げたものに、からすみをおろしてかけたもの。

 

 

脂が乗っていない場合は昆布締めにしたりもするそうですが、こちらは、その必要のない脂ののったもの。朝皮を引いて、三枚におろし、塩をしてから4時間置いてあるそうです。

 

紀州の塩分のが強くないカラスミは皮をとってからすりおろしてあります。逆に塩分の強いカラスミであれば、甘鯛を炭火で焼いてから、卵白をつけて角切りにし、カラスミを炙るというやり方もするそうですが、こちらはシンプルにおろして、上品な味わいを楽しみます。

 

ふっくらと仕上がった甘鯛は、ほんのりと甲殻類のような香ばしい香りがあり、添えられた聖護院蕪を使った千枚漬けともよく合います。真空パックに入れたので、表面が艶が出ていますが、本当は入れないで蕪の中に空気が残っているとパリパリとしてもっと食感が良いのですよ、と高橋さん。

 

 

カラスミ大根、というのはよくありますが、カブもカラスミと良い相性。

 

 

鳥取県との県境にある、兵庫県浜坂の活けの蟹。

 

 

「今回は活けの生の蟹ですが、冷凍だったらどんなことができるかも合わせて考えながら食べてみてください。『蟹はいらんことをするな』というのが、昔からの言われていることなんです」

と、甲羅を使ったお鍋。合わせ出汁に、酒を入れ、たっぷりアルコールの残った状態でカニミソを入れた出汁。あっさりしているけれど、煮詰まってきて濃い味になってもちょうどよくいただける塩味に調整してあるとのこと。個人的にも、和食のお出汁は、全部飲み終わった時にちょうど良い後味になっているのが好きで、この心遣いは嬉しかったです。

蟹の脚は、ベルベットのような食感で、プリプリ感もある、程よい火の入り方。

 

 

たっぷりと生姜が使われているので、臭みのない活けの蟹なのにどうして?と思いお聞きすると、「蟹は体を冷やす食材なので、生姜で温めるのですよ」と教えていただきました。中国由来の食材の陰陽の考え方が、日本料理にも息づいているのだと改めて感じました。

 

海老芋は、通常はスティームコンベクションオーブンで鰹節と砂糖と酒、薄口醤油などと一緒に火を入れるそうですが、こちらでは、皮をむいて水で晒し、さらに湯がいで晒し、鍋で時間をかけて、味が染み込むように3回に分けて炊き上げた後、串にさして炭火で焼いたというもの。

 

みりんを使うと固くなってしまうので、砂糖を使う、というのも新しい発見でした。醤油は香りづけ程度、味は酒と塩で決める、というのも京都らしい。

 

お米は新潟のコシヒカリ、カツオ昆布の出汁だけでなく、海老芋を晒した時の水を混ぜてあるので、もっちり、ねっちりした仕上がりになっています。

 

その上に、表面を香ばしく仕上げた海老芋と、竹葉亭の自慢の鰻を乗せて、ハッとするような鮮烈な香りの山椒をかけて。

 

 

滑らかでねっちりとした食感の海老芋、そして付け合わせは、京都・大原特産の柴漬け。乳酸発酵の香りが苦手な人もいるかも、と煮切り酒、薄口醤油、みりんを入れて調整しているということで、そんな心配りも、特に海外では必要になりそう。

赤だしは少し粉山椒を入れた清涼感のあるもので、柴漬けの酸味と合いました。

 

 

日本料理の根幹を大切にしながらも、海外に積極的に出かけ、数週間フランス料理の厨房で働いたこともあるという高橋さん。

 

また、海外での経験で仲良くなった人との繋がりも大切にしていて、親しくなったブラジル人の若者が、7年ほど毎年ブラジルナッツを送ってきてくれているということで、和三盆で包んでイチゴと一緒にデザートとして提供するなど、人との繋がりで生まれた料理もあるのだとか。「日本料理は融通のきく料理、フランス、イタリア、中国料理、いろいろな料理に応用がきく」のだと言います。

 

(右は竹葉亭の前友料理長)

 

伝統を自分流に加工して表現している大切さも、強調されていました。

プロを対象にしたセミナーだけに、詳しく料理のできた過程や考え方まで説明していただけたのは、私もとても勉強になりました。

海外で生きていく未来の日本食がどうなっていくのか、これからとても楽しみです。

 

■日本産食材サポーター店認定制度セミナー

日時:2018年1月24日(終了)

URL: http://www.maff.go.jp/j/shokusan/syokubun/suppo.html

 

会場:竹葉亭シンガポール(Intercontinental Hotel店)

 

住所:80 MIDDLE ROAD, SINGAPORE 188966

 

TEL:+65 6338 7600