緑に囲まれた、シンガポール西部の元兵舎、ギルマン・バラックス。最近ではたくさんの画廊などが立ち並び、緑に囲まれたアートスポットとして知られるようになって来ています。シンガポールでは、意外な経歴を持つシェフやレストランオーナーに出会うことが少なくないのですが、そんなロケーションに佇むレストラン、Naked Finnのオーナー、Ken Loonさんもその一人。

ファッションフォトグラファーとしてキャリアをスタートした後、ITエンジニアに、そしてレストランオーナーになったという異色の経歴の持ち主。

 

 

実はここにお邪魔する際に、何人もの友人のシェフからオススメをいただいたのですが、その理由は、美味しいもの、に対する真摯なアプローチをシェフたちと共有しているからではないかと感じます。「Naked(ありのままの)」という名前通り、ラベルではなく、本当に上質なものを、余分な飾りをつけずに、シンプルに提供するスタイルです。

 

物事を知りたくなると、とことん突き詰めて考えるタイプのKenさん、このレストラン自体にも、こだわりが感じられます。店内の片隅の本棚には、世界各地から取り寄せた魚に関する本。電話帳くらいの厚みがある「本」は、Kenさんがウェブサイトを見つけてダウンロードした手作り。魚介類の分類や生態に至るまで、マニアのように知り尽くしています。

 

 

そして、驚いたのは異色の従業員教育。シーフードレストランなのだから、スタッフも海のことを知らないと!と、水に恐怖感を感じるというスタッフを除き、全員に、会社負担でダイビングのライセンスを取らせたのだとか。魚を知ることに対しての、Kenさんの情熱を感じます。

 

キッチンには、浄化された海水を購入して入れている生簀があり、活けのハマグリやロブスターなどが。

 

 

メニューはアラカルトと、セットメニュー。

 

シンガポール中心部からタクシーで30分ほどの郊外にあるだけあって、お値段もリーズナブル。コースは2人で$148(2人分の料理の価格)〜と、シンガポールにしては、お財布に優しい価格。

 

それもそのはず、Kenさんはシーフードの卸売もやっていて、ミシュラン二つ星のフレンチなどに魚介類を卸しているのです。

 

食事の前に提供されたのは、シンガポール人が大好きなソース。

Kenさんもシンガポール人なのですが、「『ソースがないと味が平坦すぎる』って言われちゃうから、出しているだけなので、まずはソース無しで素材の味を味わって」とのこと。

 

 

左から、甘みのインドネシア風ケチャップマニス、酸味のタイ風甘酢ソース、辛味のマレーシア風チリソース。

 

ワインは100%フランスワイン。

 

 

まずはロワールのミュスカデをいただきます。「ミュスカデというと、カジュアルなワインというイメージがあるかもしれないけれども、土壌の味をしっかりと表現するぶどうでもあるんですよ」とKenさん。

 

いただいてみると、香りは酸がかなりしっかりしている印象で、口に含んだ最初のアタックはレモンのような酸味を感じた後、舌にまろやかな印象が残ります。

 

ちょうどレモンを絞るようなイメージで、生のシーフードとの相性が良いワインです。

 

 

一口サイズのアミューズは、表面を炙ってからポン酢ゼリーを乗せた北海道産のアブラボウズと、アラスカ産の天然の鮭。

 

 

上に乗っている自家製のイクラも、ミシュラン二つ星のオデットに卸しているのだとか。

 

シンガポール産のアイスプラントは、オデットやアンドレ、ジョエル・ロブションが使っているのと同じ品。

 

 

そのシャキシャキとした食感のアイスプラントに、果実味を感じるカラマンシー、ほんの少しの砂糖と干しエビで作ったドレッシングで和えてあります。

 

続いては、グリルにしたベビースクイッド。

 

 

塩などは加えず、自然の塩分だけ。よく火を入れることで、出てくるエキスが焦げて、カリッとした衣のようになっていて、柔らかい身との食感の対比が楽しめます。

 

甘辛い味付けにしたドライの桜エビがのったビーフン。

 

 

まるで極細のそうめんのようで、カラマンシーと米酢で味付け。しっかりと冷やされているけれども、米、まるでご飯のようなイメージでいただけます。

 

続いては、北海道のムール貝。

 

 

なかなかシンガポールで普通に美味しいムール貝は手に入らないのですが、北海道でたっぷり昆布を食べてきたというムール貝に、ほんの少しだけガーリックやタイムを入れてワイン蒸しにしてあります。臭みが全くなく、ふんわりとした身、後味に昆布の旨味が残ります。

 

続いては、「オイスターオムレツの材料を全く使わないで作ったオイスターオムレツ」と提供された一品。

 

 

なんだか当ててみてくださいね、とスタッフに言われて、いただきました。オイスターオムレツよりも脆くて、柔らかな身が詰まっています。海の旨味の雰囲気から、イカ?と聞くと、実はベビースクイッドの内臓だとか。牡蠣、卵、スターチなどを使って作るオイスターオムレツですが、こちらはなんと、100%ベビースクイッドの内臓のみ。整形して冷凍し、そのまま高温で焼き上げることで、こうしたオムレツのような状態になるのだとか。香ばしく焦げた縁の部分のおかげで臭みも全くなく、ビールなどにも合いそうな一品。塩すら使わない、素材の味をシンプルに感じてもらいたいというミニマリズム、楽しめました!

 

ワインが後味に丸みを感じるものだったので、イカを焦がすと生まれる独特の味がえぐみや苦味に感じず、一緒に楽しめました。

 

そして、ここからワインをモンラッシェに。樽の香りがしっかりとある、バターや乳製品のニュアンスを感じる白。

 

そこに合わせていただいたのは、フランス産のバター、ワインなどと一緒に蒸しあげたコック貝。もちろん、モンラッシェとの相性も抜群でした。

 

 

素揚げにしたキンキ。頭や中骨も食べられる小ぶりのサイズのものを選んでいるそう。皮は鱗の部分が松笠焼きのようにカリッと、そして中の身はふっくらと仕上がっていて、そのコントラストも楽しいです。

 

 

ポン酢にカツオ昆布出汁とみりんに、焼いた肝を入れて。まるで天ぷらのつゆのような甘みと出汁感のあるこのタレに、表面に油をまとったキンキが合います。また、カリッと上がったキンキのヒレなどは、甲殻類のニュアンスもあり、モンラッシェとよく合いました。

 

たまたま下関からいらした方がお土産で持ってきてくれたという、のどぐろの干物。

 

 

3%の塩で5時間干したということで、干すというよりも、塩で軽く身の中の水分を抜いたような仕上がり。甘くてとろりとした、のどぐろ本来の脂の味わいがさらに強く感じられます。

 

さらに、モザンビーク産のその名もモザンビーク・ロブスター。

 

 

海の上でブラスト冷凍をかけたというエビは、日本の赤座エビに近い形をしています。メスは淡いオレンジ色の卵を抱いていて、みそと一緒にいただきます。

 

もう一つは、同じくモザンビーク産の、ガンバ・カラビネーロ(赤海老、カラビネーロ海老)と呼ばれるエビ。

 

 

こちらは170gある大ぶりのメスで、卵まで真っ赤。しっかりと甘みのある卵、そして鉄板で殻を焼いてから、バターの上で軽く身に火を入れただけというしっとりとした食感。

 

 

もちろん、エビとモンラッシェの相性も抜群でした!

 

そして、ここからは歩いて数分の場所にある姉妹店Nekkidへ。Naked Finnがシーフードなら、こちらは、炭火で焼いた肉料理などがメインのお店。

 

魚だけでなく、牛肉にもこだわりがあるというKenさん。「ハイランドビーフ」と呼ばれる牛肉、そして北海道・十勝産の和牛とホルスタインの交雑種、2種類のハンバーガーを提供している、ということで、わがままを言ってパティだけ食べ比べさせていただきました。

 

 

同じ大きさ、同じ調理方法で焼いたにもかかわらず、見た目からして、ハイランドビーフの方が、赤身が多い分、しっかりと身が詰まったパティに、

 

 

交雑和牛の方は、ややホロホロと崩れやすい感じになっているのがわかります。

 

ナイフを入れると、やはりハイランドビーフの方が切っている感覚があります。脂が多い交雑和牛は、火の入りも良いのでしょうか、内側は茶色、ハイランドビーフは鮮やかな赤色です。

食べてみると、ハイランドビーフは赤身の甘みを感じる味わい、そして交雑和牛は、コーンのような脂の甘みがあるのが印象的でした。

 

そして、青森産のホルスタインのステーキも。こちらも霜降りはあまりなく、赤身の旨味を楽しむ肉でした、

 

 

さらに、Ken さんと仲の良いシェフたちが、特別にメニューを開発してレシピを提供した料理が食べられるのも特徴。

 

例えば、ミシュラン二つ星、オデットのジュリアンシェフが作ったのは、鶏肉をにんにくたっぷりのタレに漬け込んで焼き上げ、松の実の入ったチャツネを添えた一皿。

 

 

その他にも、スペイン料理、FOCのジョルディシェフが作った、マンガリッツァ豚を使ったポーク・チョップなど。

 

 

どちらも、素材の味をそのまま楽しむレストラン、ぜひ訪れてみてくださいね。

 

 


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■ The Naked Finn(ザ・ネイキッド・フィン)
営業時間:ランチ 12:00~15:00、ディナー 18:30~22:00(火曜〜木曜)、〜22:30(金曜、土曜)、日曜・月曜休
住所:39 Malan Road, Gillman Barracks, 109442
電話: +65 6694 0807

 

■ Nekkid(ネイキッド)
営業時間:ディナー 17:00~23:00(火曜〜木曜)、〜26:00(金曜、土曜)、日曜・月曜休
住所:41 Malan Rd, Singapore 109454
電話: +65 6694 0940
 

アクセス:共にMRTラブラドル・ネイチャー・リザーブ駅から徒歩5分ほど