先月15日に、2人の若手シェフが「アジアン・ファインダイニング」というテーマを掲げてオープンしたばかりの新しいレストラン、「ards(アーズ)」。

 

 

 

マリーナベイサンズ近くの植物園、Gardens by the Bay内にあるレストラン、Pollenで出会ったという、Ace Tanシェフ(36、写真左)と David Leeシェフ(24、同右)の二人がオーナーシェフを務める店です。

 

 

Pollenの前にも、Aceシェフは、Bacchanalia、Les Amis、そしてDavidシェフはStellar at 1-AltitudeやオーストラリアのAtticaなどの有名レストランでのキャリアを経てきています。

 

アジアの食材を使ってアジアらしさを、ファインダイニングのレベルで表現したい。そんな思いから、食材は、日本、韓国、香港、台湾、カンボジア、マレーシアなどの生産者と直接取引しているものを使っているのだとか。


デグスタシオンコース、“PIQUANT ILLUSTRATION” MENU($188)を、ジュースとティーのペアリング($75)と共にいただきました。

まず、アミューズは小さな箱に入った日本のピーナッツ。

 

 

殻に入った大粒のピーナッツを取り出して、茹でてからマサラスパイスと一緒に炒め合わせたものを、再度殻の上にのせています。中華料理店に行くとお通し感覚で出てくるピーナッツを新しい解釈で提供しています。

 

Touch of Asia

 

 

人参の皮を桂剝きにしてから丸くくり抜き、豚肉とヤム芋などで作ったフィリングを詰めて上から菊の花と白と黒のゴマのパウダーをかけたもの。

 

50年ほど前のシンガポールでは主食だった餃子を再構築。イメージとしては、低糖質ダイエットなどをする人が増えてシンガポールでも多く見かけるようになった、野菜を使ったパスタの餃子版のような感じがします。

 

フィリングがしっかりと伝統的な中華の味わい、そこに人参と相性の良い柑橘の香りの生のレモンバームを入れてモダンなアクセントに。

 

 

ジュースは自家製の5種類のりんごのジュース。グラニースミス、フジ、その他にも数種類のマレーシア産のリンゴを使っているそうです。酸味と甘みのバランスのとれたりんごジュースでした。

 

Soy Bean Skewer

 

 

シンガポールでは、地下鉄の駅に豆乳スタンドがあったり、豆乳ゼリーの屋台を見かけたりと、生活に深く溶け込んでいる豆乳。Davidシェフが香りと味わいの深さで選んだというオーガニックの大豆から豆乳を作り、酢を加えるという伝統的な手法で作った自家製の豆腐。それにほんの少しだけトウモロコシの粉をまぶし、表面が少しクリスピーになり、ほんのり色づく程度まで焼き上げたもの。キャラメリゼさせた醤油と豆乳を煮詰めたものにごま油を混ぜて、乾燥させた髪菜という海藻を飾っています。

温かい木綿豆腐のような豆腐は、味付けが素材の味を殺すことなく、大豆本来の優しい甘さが染み出してきます。噛めば噛むほど味わいが増すような、滋味深い味わい。若いシェフなのに、こんな渋い引き算の一皿を出してくることに驚きます。

 

マレーシア出身のDavidシェフは、子どもの頃、家がとても貧しく、朝食は1マレーシアリンギット(約26円)のフライドヌードルに、0.5リンギットの豆腐をのせるのが贅沢だったのだとか。今も豆腐が大好きだそうで、その時に感じた豆腐の甘みや美味しさが、この一皿に表現されているような気がしました。

 

ちなみに、Aceシェフの子どもの頃のお気に入りの味はポークチョップを入れ、チャーシューのソースをかけたハイナニーズ・カレーライスなのだそう。

 

 

Origin Pickle

 

 

カボチャのピクルスは、米酢と陳皮、発泡性のリンゴ酒、生姜の花と氷砂糖に5日間漬け込んだもの。小さなミントとディルの芽を飾っています。

噛むと食感がキュッ、キュッとする面白いテクスチャーです。甘酸っぱい味で体がすっきりとします。

 

 

Fragrance Osmanthus

 

 

北海道産の上質な大粒の牡蠣に、フランスのクリームチーズ、金木犀のビネグレットのゼリー、シーローズマリーを合わせたもの。シーローズマリーはシーアスパラガスと同じように、シャキシャキした食感と海水のような旨味が感じられます。金木犀とジャスミンティーのスモークで仕上げた一皿で、上質な牡蠣のコクのあるミルキーな味が楽しめました。

 

 

21st Egg Tart

 

 

21世紀の新しいエッグタルトをイメージして作られたメニュー。バターのタルト生地の中に、明太子で作ったカスタードに巣に漬け込んだ生のコーン、コーンのクラッカー、タイバジル、生っぽさを残しながら少しディハイドレーターで乾燥させた台湾のカラスミを飾って。卵の代わりに、様々な魚卵を使ってエッグタルトに仕上げています。

 

スイーツではなく、塩味のアミューズとして変身させました。

 

Mum’s Chicken Soup

 

 

とても手の込んだ一品。トウモロコシで肥育した鶏のお腹の中に様々な中華ハーブを詰め込み、スティームジュースの手法で12時間蒸しあげてそのエッセンスを間接的に抽出したもの。スープには、鶏のスープで炊いた冬瓜、魚の浮き袋、鶏肉と、ケール、コリアンダー、タイバジル、レモンとライムのような野菜で作った緑のフロス。丸鶏1羽で4人分のスープしか取れないという貴重なエッセンスは、澄んだ中にも旨味を感じる味わい。

 

 

Tea Mantou and Ginseng Butter

 

 

中華蒸しパンのマントウは、玄米茶を使っていてちょうど玄米蒸しパンのような味わい。そこに、自家製の朝鮮人参と蜂蜜を加えてバターを添えて。バターから自家製で、とても口どけが良いのが印象的。その上から、生地に抹茶を混ぜた天かすを振りかけて。

 

次のペアリングはすっきりとした味わいの白茶。

 

 

Ear of the Sea

 

 

海の耳、というのはアワビの別名。昆布と鰹節、中国白茶で作った出汁で50度で18時間じっくりと加熱して柔らかく仕上げています。柚子の香りをほのかにまとわせ、独特のもちもちとした食感のタピオカ粉と小麦粉で作った自家製の麺にも柚子を使って、まるでひんやりとした柚子の求肥の麺を食べているような面白い食感。酸味の使い方がとても上手で、すっきり、さっぱりといただけました。サイドには、こくたっぷりのマッシュルーム・グラノーラ、しめじ、えのき、シイタケなどのきのこをディハイドレータで乾燥させたものに、ポップコーン、コリアンダーとシャロットを混ぜたものを加えています。

 

次の皿に合わせるのは、メロンとグレープフルーツ、ジャスミンティを混ぜたジュース。甘みと苦みを添えるのが目的とか。

33 Ingredients

 

 

20種類以上の穀物と干しエビ、銀杏、栗、緑豆、小豆、バンブーマッシュルーム、しめじ、シイタケ、エノキ、舞茸と様々な食材を使ったもち米のルーラードは、小さく一口サイズに仕上げて中国の伝統的なおこわと同じように蓮の葉に包んで。

 

 

(蓮の葉に包まれたおこわ。これが蓮根の下に入っています)

蓮の葉を取ったおこわに、蓮根の天ぷらを乗せ、ナマコとおろし大根のソースをかけていただきます。

酢の入ったダークソヤソースで煮たナマコが程よい甘みと酸味のアクセントになっています。

 

Fish on Fish?

 

 

遊び心ある料理のネーミングは魚の形の皿の上に魚が乗っていることから。

中華の蒸し魚のイメージで仕上げたというハタの一種、グルッパは、ホタテのエキスの入った澄ましバターと、海水と同じ濃度の塩水とともに真空パックにしてから2日間冷蔵庫で寝かせ、45度から50度で低温調理してから表面をフライパンで焼き上げています。

 

筋肉のしっかりしているグルッパの肉質を生かしたかったということで、プリプリとした食感が生きていました。

 

横には日本の抹茶が添えられています。

 

 

250度に熱した石の上に、フラワークラムと呼ばれるあさりのような貝を置いてから、石の部分だけに醤油と紹興酒を混ぜたものをかけて、焦がし醤油と紹興酒のまるで酒蒸しのような香りを移し、サイドに添えてあります。

 

 

クコの実のピクルス、生と乾燥の牡蠣で作ったソースに辛味を加えるワサビのオイルを垂らして。自家製のXO醤と旨味たっぷりのふりかけとタピオカ粉、ワサビのパウダー。Pollenでも海苔やゴマ、鰹節などでできたふりかけを混ぜたパウダーを添えていましたが、それに近い印象です。

 

 

 

Art of Beef

 

 

フライパンで焼き上げたA4の鹿児島和牛は、竹炭の粉とマントウを砕いた粉、焦がしたニンニクの油を混ぜたものをまぶして、山芋のピュレと黒ニンニクのオイル、シナモン、クローブ、スターアニスを加えた牛肉のジュとスパイス、タピオカの粉を混ぜたものと共に。

 

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上にあるのはトリムした部分を鍋に入れて加熱し、出た牛脂を使った甘いクランブル。大体6.5kgのトリムから1.5kgほどの脂が取れるそうで、臭みもなく、和牛ならではのまろやかな脂の味は、和牛の魅力の一つ、まるでバタースコッチのような印象。地元産のパープルマスタードリーフ、そしてサイドにはプーアル茶を合わせて、しっかりと脂ののった和牛をすっきりといただけるようになっています。

 

 

Coconut Kaffir Lime

 

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5種類のココナッツを層にした一皿。ココナッツのカスタード、ココナッツクッキーのクランブル、ココナッツの身の部分をリンゴ酢に漬け込んだもの、ココナッツクリームにレモン汁を加えて二週間置いて発酵させたクリーミーで優しい酸味のクリーム、ココナッツアイスクリーム、さらにはカフィライムの皮とココナッツオイルをかけてあります。

 

 

Desserts’ Heritage

 

アジアの甘いスープデザートをイメージした一皿。シロップに漬け込んだ桃、スモークをかけた伝統的なタイプのロンガンのピクルス、ウォーターチェスナッツ、大麦のシロップ煮などをほぼ同じ大きさに揃えて、食感や味わいの違いを楽しみます。

 

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ツバメの巣や冬虫夏草などを、やはり健康に良いアーモンドのオイルと、削ったアーモンドをかけ、最後にフルーツビネガーをかけて仕上げます。ボリュームのあるコースですが、合間に挟む酸味の使い方が上手で、飽きずに食べられます。

 

 

Tropical Fruits Basket

 

 

パパイヤ、パイナップル、スイカをバルサミコ酢とその汁に漬け込み、自家製ヨーグルト、ヨーグルトアイスクリーム、凍らせたポメロ、フリーズドライにしたパイナップル、豆乳で作ったチップなどを合わせたもの。

 

添えているのは、新鮮な四川花椒の花と蜂蜜。少しジャスミンの花のような、シャキシャキとした食感と香りがあります。

 

 

はちみつは現在はニュージーランドのもの。

 

 

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将来的にはアジアのものに変えていきたいと考えているのだとか。

 

 

 

Our Childhood Memories’

 

 

2人のシェフのそれぞれの子供の頃のお気に入りの味を再現したもの。

 

Ace シェフはマンゴープリンにポメロが乗ったデザートが大好きだったということで、ゼラチンを使ったマンゴーとパッションフルーツのゼリーにライムの皮を散らしたもの。

Davidシェフはティラミスが大好きということで、こんにゃく粉を使った、ローカルのコーヒーロースターのコーヒー豆で作ったコーヒーゼリーの間に、塩気のあるクリームチーズを挟んだもの。

 

たまたまかもしれませんが、西洋的な、そして万人受けするチョコレートやバニラなどを全く使っていないのが印象的。アジアの昔からある味を再現しようとしているデザートで、2人のシェフの挑戦心が現れているように感じました。

 

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また、全般に、手数はかけても、同じ食材を違った調理方法にしたりと、繊細なレイヤーを重ねるものが多く、味わいとして盛り込みすぎずに作っていて、構成がすっきりとしています。素材の良さを生かした魚と肉の火入れの仕方も好みでした。これからますます楽しみなレストランです!

 

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ards(アーズ)
営業時間:ランチ12:00〜14:30(火曜〜金曜)、ディナー18:00〜23:00、日曜休
住所:76 Duxton Road, Singapore 089535 
TEL:+65 6913 7258 
URL: www.restaurantards.com
アクセス:MRTタンジョン・パガー駅から徒歩約4分