去年10月に、ニコル・ハイウェイ駅からほど近い場所にオープンした、パークホテルグループの新ブランド、デスティネーションホテル。余分なサービスを取り除き、コンパクトでありながらアクセスの良さと便利さを併せ持ったホテルです。

そんな中に、今年7月にオープンしたシンガポール料理のレストランが、Damian D’Silvaシェフによる、Folklore(フォークロア)。

 

 

シンガポールのプラナカンの中でも少数派のユーラシア系プラナカンだというDamianシェフ。

 

大きく分けると、ユーラシア系プラナカンには、英国系、ポルトガル系、オランダ系がありますが、Damianシェフはポルトガル系だそう。

 

祖父はユーラシア人、祖母はユーラシア系プラナカン。その二人から教わった料理を中心に、生まれ育ったコミュニティの中にいたインド系やマレー系の料理なども、合わせて提供しています。

 

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プラナカン料理は家庭ごとにそれぞれオリジナルのレシピがあり、そのため代々見ながら覚えた料理。特にレシピなどはなく、このままでは消えてしまう状態でした。

 

「シンガポールは他国の文化を取り入れようとしすぎた結果、自国の文化の継承がおろそかになってしまっている」と警鐘を鳴らします。

 

そんなプラナカン料理を、形にしていこうという活動を続けています。

レストランで提供しているのは、ユーラシア料理、プラナカン料理、そしてインド系や中華系などの味が混じり合った料理の数々。Damianシェフはそれを、「ヘリテージフード」と呼んでいます。

 

価格は手頃ですが、シンガポール料理というと、どうしても一食数ドルのホーカー(屋台)料理と比べられてしまい、「高い」と言われてしまうことも。

そうではなく、手間のかかった本物の良さを理解してほしい、と語ります。

 

 

 

まずは、ロックメロンのフレッシュジュース($8)。

 

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Singgang($20)

 

 

そして、ユーラシア料理のSinggang。フィリピンにも、同じ名前のスープがありますが、それぞれの歴史の中で進化して、出来上がってきたものはまるで別のもの。

 

まず、Damianシェフの家に伝わる方法は、生の唐辛子とレモングラス、生姜の一種のガランガルとターメリックを使うこと。これらのスパイスを炒めてからココナッツミルクを加え、内臓と一緒に、wolf herring(ウルフヘアリング、オキイワシ)という魚を煮ていきます。この魚は骨が多く、その骨を取り除くだけで4人前で45分かかるほど。そのあと、もう一度鍋に戻して煮る、とても手間がかかる料理なのだと言います。

比較的骨の少ない、イワシなど別の魚で代用しているお店もあるそうですが、そうすると本来の味ではなくなってしまう、と言います。

 

 

Sambal Buah Keluak Fried Rice($22)

 

 

そして、本来煮込み料理に使うブアクルアをチャーハンに応用した、ブアクルアチャーハン。唐辛子やシャロット、キャンドルナッツや小エビのペーストで作ったサンバルに豚ひき肉を加え、2時間以上、ひき肉の形がなくなるまで炒めてココナッツミルクを加えたブアクルアペーストが元になっています。これにご飯と四角豆を加えて炒め、半熟の目玉焼きを乗せたもの。ブアクルアの濃厚な味わい、豚ひき肉と卵黄から出るコクと相まって、よりマイルドになっています。ワックと呼ばれる高温の油で焦がした香りや、ほのかなスパイシーさもあり、地元の人の一番人気。

 

4 Angled Bean Salad($12)

 

 

四角豆、パイナップル、青マンゴーのサラダ。シンガポールでは定番のライムジュースと砂糖、唐辛子、そして小エビのペースト、ブラチャンの組み合わせ。ジンジャーの花とカフィライム、ミントが、香りのアクセントになっています。

 

Peranakan Chap Chye($16)

 

 

プラナカンの伝統的な料理、チャプチャイ。春雨を、椎茸や白菜、黒きくらげ、中国の湯葉や厚揚げ、ニンニク、ユリ根などと共に、エビと豚肉の出汁で煮込んだもので、それぞれ別々に調理されることから、作るのに4時間もかかる手間のかかっったもの。スープのように提供されるところもありますが、こちらはドライタイプで、干しエビを使わず、エビの殻からスープを出しているのが特徴。えぐみがないに旨味がたっぷりのスープがしみた味は、とても気に入りました。

 

Chilled Tofu with Pidan($12)

 

 

辛いものが苦手、という方や、辛いものを食べる合間に食べてほしいと作ったのが、オリジナル料理のこちら。豆腐とピータンを、大根やレタスのピクルスと共にいただきます。日本の醤油や大根漬けを使っていて、ごま油がベース。ビールのおつまみにも良さそうな味です。

 

Babi Assam($22)

 

 

こちらも辛くない料理、豚肉のタマリンド煮。シナモンやスターアニスを入れたタマリンドウォーターでじっくり塊のまま煮込んだ豚のバラ肉は、水分が少なくなってきたら、両面を5分ごとに裏返す作業を、水分がなくなるまで1時間続けて、表面に旨味を染み込ませます。さらに、サーブする直前に表面を焼き上げて提供しています。タマリンドの酸味の効いた、豚角煮のような印象。表面にしっかりとタマリンドの甘酸っぱい味が染み込んでいます。

 

Ngoh Hiang($14)

 

 

伝統的な、湯葉で包んだソーセージのような料理。豚ひき肉とエビを五香粉に漬け込んで、クワイやシャロットと一緒にフィリングを作ります。湯葉に巻いてから蒸して、オーダーが入る度に揚げています。

 

 

クワイのシャキシャキした食感と、豚肉とエビの旨味が楽しめる、シンガポール風のソーセージ。Damianシェフは、油と赤身のバランスを取るために、豚ひき肉を作るところから自分で行なっています。

 

Beef Cheek Rendang($32)

 

 

マレー由来の伝統的な煮込み料理で、ビーフレンダン。ニュージーランド産の牛の頬肉を使い、コリアンダーやフェンネル、クミンなど15種類以上のハーブとスパイスを使って煮込んでいます。そして、煮込むために使うのは、水ではなく、ココナッツウォーターのみ。7時間ほど煮込んで完成します。他のお店のレンダンより、少し薄味な印象でした。

 

 

Masak Lemak($14)

 

 

ここで、野菜の一皿。

地元産のほうれん草と、サツマイモの葉は乾燥唐辛子、シャロット、小エビのペースト、キャンドルナッツなどで作ったルンパと呼ばれるスパイスミックスを先に作り、小エビとサツマイモを加えて煮込んでから、エビの出汁と、フレッシュなココナッツミルク、野菜を加えて完成します。さっぱりとしたココナッツ味のスパイシーなスープとともに、たっぷり葉野菜がいただける一品。あっさりとした水分の多いスープながら、深い旨味があるのが特徴です。

 

 

Sambal Juliana with Fried Brinjal($14)

 

 

そして、私が料理の中で一番好きだったのがこちら、サンバルで炒めたエビと揚げたナス。ニンニクと一緒にシャロットや小エビのペーストで作ったサンバルペーストを炒め、ライムジュースやパームシュガー、エビの出汁を加えたところに、エビと揚げた茄子を加えて煮込んでいます。Damianシェフが、ユーラシア人の祖父から聞いた話では、長い航海の中、インドのゴアでオクラのスパイス煮込みを食べた船長が、似た料理が食べたいと言ったことから生まれた料理なのだとか。

 

 

ここからがデザート。見た目はフォトジェニックではないのですが、是非試していただきたいのが、このKueh Kosui($6)

 

 

グラマラカと呼ばれるパームシュガーを使ったタピオカ餅なのですが、とても柔らかいのが特徴。パンダンリーフを加えたシロップを加えて生地を作ってから、8時間以上寝かせ、85度の低温で蒸し揚げているのがこの食感の秘訣とか。パームシュガーの素朴な味わいと、周りにまぶしたココナッツと塩が、味のポイントになっています。

 

 

Kueh Bengkah with Ice Cream($10)

 

 

焼いたタピオカケーキのアイスクリーム添え。

タピオカの粉に、卵やココナッツミルク、バターなどを加えて作ったケーキで、もっちりとした食感が特徴。本来はココナッツミルクとともに提供されますが、今はちょっと西洋風にアレンジした方が人気がある、ということで、アイスクリームとともに提供し、温かいケーキと冷たいアイスクリームの対比を楽しめるようにしています。

 

 

民族や家庭ごとに多様に進化してきたシンガポール料理の文化は、このままだと昔話になってしまう。きちんとその味を伝えたい、と考えているDamianシェフ。Kueh Kosuiが美味しいですね、というと、サラサラとレシピを書いて手渡してくれました。

 

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シンガポールの味を伝える「ヘリテージフード」、是非味わってみてくださいね!

 

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■Folklore(フォークロア)
営業時間:ランチ 12:00~14:30、ディナー 18:00~21:30、無休
住所:Destination Singapore Beach Road, 700 Beach Road, Level 2, Singapore 199598

電話:+65 6679 2900
アクセス:MRTニコル・ハイウェイ駅徒歩10分