6年連続ミシュラン三ツ星獲得、東京で、予約の取れない寿司屋として有名な鮨さいとう。今からだと、来年6月にやっと予約が取れる、というような超人気店です。
そんなさいとうが、ついに海外に初出店したのが今年の4月。マレーシアの首都・クアラルンプールにSt.Regis Hotelがオープンしたのに合わせてのものとなりました。年に3回、本店から斎藤孝司さんがいらっしゃるという事で、今回、常連のお友達にご招待いただき、お邪魔してきました!
 
 
シンガポールから飛行機で約1時間、さらに成田エクスプレスのような電車、KIA expressに乗って30分ほど。クアラルンプールの玄関口のような駅、KLセントラル駅から徒歩圏にあるホテル。まだ駅前は歩道もなく開発中でしたが、これからますます勢いがでてくるのだろうな、と思わせてくれる雰囲気です。(ホテルへのシャトルバスがあります)
まだできたての雰囲気が残るホテルの3階、銀座天國と壁を隔てた隣同士の店舗が、今回お邪魔した「たか by 鮨さいとう」です。
 
 
元々は千葉県の八千代出身。今から25年前のこと、魚屋でアルバイトをしていた高校時代、「よく働いたご褒美に」店主に連れて行ってもらった寿司屋で、寿司職人のカッコよさにひかれ、寿司の道を歩み始めたのだそう。その後久兵衛で修行し、最初は兄弟子の金坂真次さんのグループ、「鮨かねさか赤坂」として出店していた斎藤さん。10年前に「さいとう」と名前を変え、つい先日六本木に移転も済ませて現在に至っているとか。6年間ミシュラン3ツ星ということもあり、海外からの出店の誘いも数多く、シンガポールへの出店の話もあったものの、「すでにかねさかが2店出店しているから」と遠慮してのクアラルンプール出店だったとか。
 
築地から週に3回届くネタは、東京店と同じもの。
 
 
まずは、イクラ。皮がとっても薄くて、プチプチのみずみずしさをそのままいただけます。生の食材を使った一皿でスタート。
 
そして、地元千葉の、蒸した黒アワビ。柔らかく、アワビの優しく上品なうまみが口に残ります。
同じお皿に、佐島のタコ。甘過ぎず、でも深い甘みのあるたれに漬けてあり、 柔らかいゼラチンの部分、噛んだ時、最初は柔らかく感じるのですが、最後の一噛みだけ、ギュッとした感じのタコらしい食感が残ります。このたれは、みりんだとコクがありすぎて口に残るという事で、香ばしさのあるザラメと醤油で作ってあって、すっきりとした甘さになるように仕上げているのだとか。
 

長崎産の、あぶったカツオは2種類。ひとつまみの生姜を添えて。手前が背で、背中は血の香りを消すために強目にあぶってあるので、皮目に焦げ目があります。その分旨味もしっかり。お腹は背中に比べると柔らかい肉質で、みずみずしくジューシー。脂がのっています。2つに折った間に細かく刻んだわけぎがはさんであって、カツオの食感を妨げない工夫がされています。
 
 
鱈の白子は、小さめの一口大に切られ、人肌に温められている温度が心地よいとろけ具合。ポン酢と紅葉おろしを添えて。
 
 
ワインのコレクターでもある友人から斎藤さんに、1990年のKrugの差し入れが。この日はお昼の2回転目。「もうずっと飲みっぱなしなんですよ」といいつつ、お酒は大好きなので、なんでも飲めるのだとか。
 

葛餡をかけた湯葉、その下には鰆。わさびをほんのひとつまみ乗せて。どんどん、メニューの温度が上がっていく構成です。
 
 
そして、壱岐のノドグロは、炭火の香りをまとい、とても薄く軽やかにパリパリに焼きあがった皮のすぐ下には、ジューシーこの上なく、じゅわっと溶け出す脂。秋の脂の乗ったベストシーズン、本当に幸せな味。
 
 
ここでつまみから寿司へ。
 
 
切りつけた後のマグロ。今は大間が冬であまり獲れないので、ボストン産のものを使っているとか。
 
 
そして、握り。
「"金坂の兄貴"は、手とり足とり教えるタイプじゃなかった。それでも、自分はいろいろ教えてもらったと思います。掃除にしても、何にしても、とにかく、綺麗に、早く。ということですね。」と語る斎藤さん。とにかく、握りの所作に入ると、早い。一つのリズムに乗って、流れるように作業が進んでいきます。
 
 
まずは、2日間寝かせたという鯛。滑らかでまったりとした肉質、ほのかにまな板のヒノキの香りの余韻が移った鯛でした。そして、特筆すべきはシャリ。やや硬めの粒感を残して、口の中ではらりとほどけます。「クアラルンプールでは一番苦労したのはシャリ。今はあきたこまちを使っていますが、実は米は、粒がそろっていて水分が少なければ、僕は何でもいいと思っているんです。1年たった古米を使うことで、あえて粘りを出さないようにしています。」確かに、米の香りも控えめで奥ゆかしい。かみしめるとその奥にやっと、米の香りを見つけるような、そんなお米です。それに、赤酢と塩、赤酢ですが、うちのはそんなに強くないんです、という通り、色も味も穏やか。「シャリに使う水はやはり軟水がいいけれど、クアラルンプールの水は硬い」という事で、今は浄水器を使っておいしい水で米を炊いているのだとか。
 
 
続いては北海道・余市の鰤。鰤本来の脂の香りが漂い、スダチの酸味を利かせています。気づいたのは、魚のとろけるような肉質の奥に、シャキシャキした感じの食感も感じられること。お聞きすると、「この、噛んだ時の食感も、味のうちだと思っています」とのこと。
 
 
熊本県天草のコハダ。酢はそんなに強くなく、塩を強めに使っている印象。酸が強くないので、コハダの魚の香りがパッと広がります。この後、どの寿司にも共通する、と感じたのですが、魚の個性を生かした味わい。個性をそいで、甘く、柔らかく、誰にでも食べやすく、とするのではなく、野性味のある魚は野性味を生かして、本来の味や香りを楽しんでもらおうとするアプローチ。お聞きすると、「寿司は料理じゃないんで、素材の味がするのが一番」と、ちょっと温度を高めにして、魚の香りを生かすようにしているのだとか。
 
 
そして、ここからが、さらに見事なマグロ3セット。
まずは赤身。マグロ本来の香り、程よくねっとりとしたテクスチャー。
 
 
そして、トロはまずは、筋の部分の中トロ。一つ前の赤身の印象とのコントラストもあるせいで、とても甘く感じられます。たれを変えて甘いものにしているのかも?と感じたほど。実は、マグロのたれは全部同じで、一番甘い筋のある部分、本来の甘味が出ているからなのだとか。そして、皿に残ったたれを味見してみると、思っていたよりも全く甘くない!つまり、マグロの身そのものの甘味をいただいていたのだ、と実感。
 
 
そして、大トロはきめが細かく、筋の部分よりもマグロ本来の香りが感じられるみずみずしい印象。筋のあるマグロを食べた後だからか、甘味はひとつ前の方が強く感じましたが、味のバランスはこちらの方が繊細かもしれません。
 
 
続いてイカ。スダチのみずみずしさ、イカの程よい歯ごたえ、まったり感、コク。すべてにおいてパーフェクトでした。
塩はちなみに、ミネラル分の多い、沖縄粟国の塩を使っているのだそう。
 
 
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そして、もうひとつ、斎藤さんの寿司の特徴は、ただ沈む、というだけでなく、握りがひらりと舞い降りるように沈むこと。鹿児島産の車海老は、柔らかくてひとはだに温かく、エビの食感がありながらも、とっても滑らか。
 
 
アサツキと生姜すりつぶしたものを乗せた鯵。こちらも、まったりとした食感の中に、どこかこりっとした新鮮な鯵の食感が残ります。
 
 
そして、大好きなウニ。この日は厚岸のウニだそう。ウニ独特の、ウリのようなスイカのようなみずみずしい香りがあり、当然ながら、臭みもえぐみもゼロ。クリーミーさを堪能しました。
 
 
対馬からのアナゴは、塩とツメ両方で。
 
 
まず、塩は焼き魚のような、炭火焼きの香ばしさ、表面はごく薄く、張りを持たせて、中は柔らかくてトロトロに溶けるコントラストも素晴らしかったです。そして、アナゴの香りもふんわり。
柔らかいアナゴの肉質に合わせて、特にアナゴはシャリを柔らかく、崩れるギリギリで握っている印象です。
 
 
続いてはツメのアナゴ。ツメは想像よりも甘くなく、その奥にあるアナゴの甘味を味わってもらうようなバランス。お聞きすると、「安定した品質が得られるのと、エイジングした甘さを出したくないので」、継ぎ足しではなく、毎回新しく作っているそうです。アナゴそのものの甘味についてお聞きすると、ツメを甘さ控えめにしている分、アナゴ自体に甘い下味つけてるそう。納得です。

そして、トロトロで滑らかなすき身を巻いた巻物、合わせ出汁で、やや鰹出汁の酸味のある赤だしの味噌汁。
 
 
でも、何よりも印象的だったのが、焼きプリンのような、とろりともっちり、二つの食感が共存する卵焼き。一口の中に、食感のグラデーションがある、見事な一品でした。
 

甘みとまろやかさを求める、というのではなく、素材本来の持っている「その魚らしい個性」を更に増幅させて提供している。魚臭さとは違う、魚本来の持っている香りが、きちんとある。だからこそ、余韻が長く、その素材を食べたという印象が残る、そんな寿司。
だからこそ、調味料は控えめ。漬けのタレは、漬け込んだ後のトロを食べると、そのまろやかな甘みに驚くが、ひとしずく皿に残ったタレだけを味わってみると、想像以上に甘くない。
 
そして、食感。卵焼きもそうでしたが、一つの寿司のネタの中に、これだけの食感のグラデーションが隠れている。

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個性を生かす寿司だからこそ、「素材が良くなかったらどうにもならない」と、語る斎藤さん。
 
魚を主役に、米もたれも、それを引き立たせるためにある。江戸前の丁寧な仕事の上で、引き算で際立った魚の味、そのものが楽しめるお店だと感じました。次回はぜひ東京のお店にもお邪魔してみたいです。
 
<DATA>
■たか by 鮨さいとう
営業時間:ランチ 12:00~15:00、ディナー 18:00~24:00、月曜休
住所:No 6 Jalan Stesen Sentral 2, Kuala Lumpur Sentral, Kuala Lumpur, 50470, Malaysia  
電話:+60 12 330 3600
アクセス:KLセントラル駅徒歩10分ほど