私の隣のこちらの女性、誰だと思いますか?実は山梨にとてもゆかりの深い方。
そして、今をときめくシンガポールのフレンチのシェフのお母さまなのです。

そのシェフとは、Asia's 50 Best Restaurantで、シンガポール勢としてトップの3位を受賞、ニューヨークタイムズ紙で、「この店で食事をするためだけに飛行機に乗る価値のある10のレストラン」
に選ばれるなど、シンガポールを代表するシェフの一人である、Andre Chiangシェフ。先日行われたWorld Gourmet Summitでも、Chef of the Yearに選ばれ、40歳という節目を迎えた今月、初めての本を出版したということで、お披露目のパーティーにお邪魔してきました。


(左がAndreシェフ)

シンガポールのナショナルモニュメントにも選定されている歴史ある建物、Goodwood Parkホテルで行われたパーティーには、出版にかかわった人々や多くのメディア関係者、シェフの友人たちが詰めかけて大賑わい、中にはセイシェルやスウェーデンから訪れた友人もいたそうです。

本の名前は、シェフの料理のテーマそのものである、「Octaphilosophy」、8つの哲学。
Restaurant Andreでの料理も、この哲学に基づいて、一皿ずつにこのテーマが冠されて提供されています。



そして、この本の素晴らしいところは、2015年1月1日から12月31日までの365日のRestaurant Andreのすべてが詰まっていること。
「ただ、きれいな本を作るというのは簡単だし、これまでもたくさんのオファーがあった。自分の夢の一つであった、初めての本を出版するのは、とても大きなことで、適切なタイミングで、こだわったものを作りたかったから、断り続けてきた。せっかく作るなら、10年後に見ても、いい本だと思えるような、長く見てもらえる本にしたかった。どんな質の紙を使うかに始まり、重さ、サイズ、レイアウト。本の全部にこだわった。」新しいメニューを出す度に、週末ごとに写真を撮り、記録をし続けた本。「1年間休みはなかった」と笑います。

「本の前文は、通常は誰か良いシェフに書いてもらうものだけれども、僕は、母よりも良いシェフを見たことがない。だから、母に僕への手紙という形で書いてもらったんだ」のだそう。


今月16日に40歳の誕生日を迎えたAndreシェフ。
Restaurant Andreのチームから、サプライズでケーキが登場しました。
ろうそくを吹き消す際に、「40年前のこの日は、僕にとっても大切な日であるのと同時に、この人にとっても大切な日であったから」と、母のTinaさんを呼んで、一緒にろうそくを吹き消す、心温まるシーンも。



奥様の Pamさんとのケーキカットも


AndreのAl Martinペストリーシェフが作ったケーキは、本の表紙と同じ8角形のデザイン、そしてなんとこの哲学を8つの味で表したもの。


(ちなみに、この哲学をどう味で表現するかまでこだわりぬいたそうで、オーナーのPengさんが冗談めかして「じゃあ、(8つの哲学のうちの)"Pure"は?」と質問すると、Alシェフは「アールグレイ味です」と即座に返事が返ってくるあたり、さすがです。)

さて、冒頭のTinaさんが山梨とどうかかわっているのか。
実は、Andreシェフは、フランスに渡る直前、13歳から15歳までを、山梨県の甲府市で過ごしています。母のTinaさんは英語より日本語が得意、ということで日本語でお話をお聞きしました。
Andreシェフは上に姉、兄がおり、三人兄弟の末っ子。兄は台湾で「江宏恩」という名前で台湾で俳優をされているのだそうです。

兄弟のうち唯一料理に興味があったというAndreシェフは、母のTinaさんが甲府で経営していた台湾料理の店、”ティナ”で、2年ほど、料理を手伝っていたそう。お店を継ぐはずだったAndreシェフが、フランスに渡ると聞いて、どうでしたか?とお聞きすると、「ホームシックにならないかだけ心配だった」のだそう。時々、フランスから甲府に里帰りするのを心待ちにしていたのだとか。

Tinaさんは15年前に甲府の店をたたんで、故郷の台北に戻ったそうです。68歳という年齢もあり、もうお店は経営していないそうですが、愛息子の活躍を「本当にうれしい、誇りに思う」と話していました。

この「Octaphilosophy」の本の話に戻ると、中国の竹でできた特別なケースがついた限定50セットのバージョンもあり、もはや本というよりアートの域。この本にかける思いが感じられます。


会場ではサイン会もやっていたのですが、日本語版が近く出ると聞いていたので、待とうと思ってこの時は買わなかったのですが、そのうち待ちきれなくて買ってしまうかも・・・。



今年は間もなくミシュランが上陸するシンガポール、本当に楽しみです!