Les roses que nous rencontrons~


 ~巡り逢う薔薇たち~②






 🟣If...もしも…。



🟣オスカルがあの日、死ぬ事なく現代にタイムスリップしたら。



 生まれ変わっていたアンドレと再会したら…?





 とある方の言葉をヒントに物語をかいて見ました。



 何話か連載になりそうです。




 2024年6月16日 


 第2話目 書き下ろし 



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 夜が明ける。 



 2024年7月15日。



 病院のベッド近くのカーテンが少しずつ外の明るさを浮かび上がらせていた。



 「……ん……」 

 ベッドで寝ていた女が、ゆるりと瞼を上げる。



 まぶしい…。ここはどこだ?



 次第に意識がハッキリとしてきた。



 自分の腕には、見たことがない真っ白なガーゼと、手首には何か…バンドと網が巻かれていた。


 そして、見たこともない服を着ている。



 なんだ?ここは… 



女はハッキリし始めた意識で、回りをゆっくりと見た。 




 「わ…!!」


 右手が誰かに握られている。

 温かい大きな手。 



 女は身体を起こし、ベッドにうつぶせで寝ている男を見て、心底驚いた。 




 「………ア……アンドレ…?…アンドレ…なのか…?」 




 「…ん………」 


女のその声でアンドレは眼が覚めた。


 どうやら一晩中、彼女のベッドサイドで寝てしまったらしい。

 アンドレが寝ぼけた顔を上げると、ガバッと彼女の両手がアンドレの頬を包んだ。 



 「お…お目覚めですか?マドモアゼル。気がついて良かった……って……痛ッ!」 


 「お前、生きてたのか!?」 

女は震える声で叫んだ。そして、おもむろにアンドレの黒髪を抱き締める。



 「ちょっ……と。息が出来ないんですけど…」そう言っても、女はアンドレの黒髪に、肩に腕を回し、しがみつき。


 そして、涙を流した。 



 「アンドレ…アンドレ…アンドレ……」


 暫くされるがままでいたが、さすがに首が痛くなるので、彼女の巻き付いた腕をゆっくりと離して、間近で彼女を見た。


 瞳が濡れている。

 サファイアの星をちりばめたような美しい蒼い切れ長の瞳。

 絶世の美女だ。



 「……アンドレ……」 


 「あの……マドモアゼル?どうして僕の名前をご存知なのですか?」 


 その言葉の意味が理解出来ていないのか、女は訳のわからない事を口にした。 


 「お前……両目がある…。いや、その前に。お前は私を庇って、銃で撃たれて死んだ筈だ。 

…どうして…生きている?……どうして…」 



 「あの……失礼ですが。マドモアゼル。貴女のお名前は?」 



 「何を言っているんだアンドレ。私は、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ……あ、ではない。オスカル・フランソワ・グランディエだ。お前の妻だ」 



 「ジャルジェ…?」


 歴史書で読んだ事がある。

 フランス革命の時。民衆側に付き、バスティーユ牢獄への戦闘で、白旗を上げさせた、元貴族軍人であり、元女伯爵の英雄。


 フランス革命のジャンヌダルクと呼ばれた有名な女軍人。

 オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ



 その、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェが、どうしてここに? 

どうして、俺の妻? 



 涙を溜めてアンドレをじっと見つめるその美しい瞳は、嘘を言うような色ではない。


 真剣にアンドレを見つめて泣いていた。 


 「あの……オスカルさん?」 


 「何故そのような言い回しになるのだ?」 


 「聞きたい事があります。大事な事です」 


 「なんだ?」

 アンドレは、ベッドサイドに椅子を寄せ、オスカルと名乗った女に聞いた。


 「今年は何年ですか?」


 「何を馬鹿な事を。1789年7月14日だ。アンドレ」 

 真剣に言っている。 

それが、わかる。 



 アンドレは携帯を取り出した。


 「なんだ?それは。なにに使うんだ?」 


 「よく見て」 


 携帯の画面に2024年7月15日と、浮かび上がっていた。 




 「2024年……?どういう冗談だ?これは何かの細工仕掛けの玩具か?」 

 アンドレは、ひとつため息をついた。



 (もしかして……本当にこんな事ってあるんだろうか?…タイムトラベラー…) 



 「アンドレ」

 少し怒ったような、困惑したような美しい声が病室に響く。 


 「えーと…はい…」 


 「この部屋は何だ?」 


 「病院です。詳しくは病院の中にある入院病棟の部屋です」 


 「見たことがない」 


 「だと思います…今は2024年なので…。あ、あと何故、俺の名前を知っているんですか?」


 「……アンドレ・グランディエ。それがお前の名前だろう?……いや。私の知る限りアンドレは7月13日に銃で撃たれて死んだ…筈だ…」


 「それは1789年7月13日の事ですか?」 


 「そうだ。でも」 

 オスカルと名乗った女は、腕を伸ばし、アンドレの頬を両手で包んだ。 


 「生きている…アンドレ、お前が…」 


 「オ…オスカルさん!今、言いましたけど、今は2024年7月15日です。来月にはパリオリンピックもあります」 


 オスカルは、涙目のまま、キョトン?と顔を傾げた。


 「オリンピック…とは?古代ギリシャで行われたあのオリンピックの事か?」




 アンドレは携帯をオスカルに見せて、パリオリンピック公式ホームページを見せた。


 「…なっ…なんだ!?絵が動いている!!」


 「近代オリンピックは第1回はギリシャで行われました。で、第2回 パリ大会は、1900年5月20日〜10月28日まで行われました。そして、来月、またパリで開催されるんです。

貴女は、1789年から、何故か2024年に飛んできたんだと思います。

信じられないでしょうが…と言うか、

俺も信じられない」 


アンドレはそう言って笑うと、ベッドで半身を起こして呆然としている、オスカルに横になるよう促した。



 「貴女がこの時代に来る直前の事は覚えてますか?」


 「覚えている。バスティーユ牢獄をシトワイヤン達と共に攻撃していた。牢獄に閉じ込められていた市民を救いだす為に…」 


 アンドレはすかさず、携帯でフランス革命の歴史の文面を見せた。


 黙ってオスカルはその画面を読む。 

 スクロールは、アンドレがしてあげた。



 「…私が…フランス革命のジャンヌダルク…?…そう呼ばれていたのか?」 


 「そう。これは紛れもない歴史。いまから235年前の話です」



 オスカルは頭を抱えた。 

 すると額のガーゼが外れて落ちた。






 と、その時。

 失礼します、と個室の病室の自動ドアが開いた。 


 「あれ?アンドレ、居るのか?……もしかしてずっと?」


 外科医アランが入ってきた。

 ベッドを取り囲むカーテンを開けたアランは


 「あ、起きてた」と、オスカルを見た。 


 オスカルの方は、驚いた顔でまた上半身を上げた。 


 「アラン!?アランじゃないか!?」


 「え…?どういう事?アンドレ。何でこの患者、俺の名前を知ってるんだ?アンドレ、教えた?」 


 「まさか。と言うか、俺の名前も正確に言われた」 


 アランとアンドレが彼女をじっと見つめる。


 「わ、私が間違った事を言ったのか?」


 いや、とアランが手を上げて、オスカルの言葉を制した。 



 「ちょっと落ち着きましょう。いまからまた点滴をします。針が腕に刺さりますからね。動いたらいけませんよ?」


 「嫌だ!もうあんなものは必要ない!アンドレ、バスティーユに行きたい」


 「オスカルさん。貴女が235年後に来たのは納得しましたか?」 

アンドレは静かに聞いた。 

 「何故未来に来たのかはわからない。…わからないが、私が生きていた1789年に、このような部屋…と言うか…私が着ている服も、頭の網みたいなものも、アンドレが持っている長方形の、色々な画面や音が出る機械仕掛けの玩具はなかった。…認めざるを得ない」 

 オスカルがゆっくりとうなだれる。


 「私は……、本物の私の夫のアンドレと遠く離れてしまったのだな……」 


 ああ。このフランス革命のジャンヌダルクと呼ばれた女軍人に、アンドレと言う夫がいたんだな…。 


どうやったら235年前に戻してあげる事が出来るだろうか…。 


例え戦禍で夫が先に亡くなってしまっていても、彼女の愛する夫の亡骸はフランス革命最中(さなか)に取り残されたままだ。


 オスカルはベッドの掛布を頭まで被り、小さく嗚咽が聞こえてきた。 



 科学者でも専門家でもないアンドレには、どうする事も出来ない。 



 出来る事は、バスティーユ牢獄があった場所に連れて行く事位だ。 


 そこで、もし彼女がタイムトラベラーとして、235年前に戻れるかも知れない。



 「オスカルさん。身体を治したら、バスティーユ牢獄があった場所に行ってみましょうか。もう当時の面影もないんですけど…」


 「行ってどうなるんだ?私が生きていた時代に帰れるとでも言うのか?」 


 「それは…わかりません」


 2人の会話を聞いていたアランが、ナースと共に点滴の準備を終えていた。




 「お二人さん。話しはそれまで。兎に角、炎症を抑える点滴をしますから。今度は反対の腕を出して下さいね。…そうそう。じゃあ、看護師に任せて、俺は外来患者を見る時間になるから、行くわ」 



 「アラン」 


 「はい?」 


 「アラン・ド・ソワソン。君の名前だろう?」

 アランは、オスカルを凝視した。 


 「何で知ってるんですか?」 


 「私が率いる衛兵隊員。私の部下だ」 


 「俺は、外科医ですけどね」 


 「顔も声も瓜二つだ。アンドレ、お前もだ…頭が混乱しているのは私だ」 



 アランはアンドレに外に出るように促すと、「点滴は腕を動かしたら、針が血管を突き抜けて、大変痛くなりますからね。絶対動かないように」 


 「ああ。わかった…宜しく頼む。薬を体内に入れるのだな?点滴というのは」


 「そうです。宜しくお願いします」 


 「わかった」


 オスカルは看護師に腕を差し出した。

 それを見届けると、アンドレとアランは病室から出た。





 「アンドレ。彼女の名前、わかったか?」 


 「ああ。オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェと言っていた」 


 「……は?…ジャルジェって…あの、バスティーユの?フランス革命のジャンヌダルクと呼ばれた女軍人って事か?」 


 「そうみたいだ。そして、俺の事を夫だとも言った。彼女の話によると、7月13日に戦死したらしい。だから俺を見て、生きていたのか!?と涙をこぼしていたよ…名前も俺と全く一緒だった」


 「で、名前も同じな、俺のそっくりさんがフランス革命の時の、オスカル・フランソワの部下って事か。何か調べたらホントかどうかは判りそうだな」 


 「アラン。もし本当だったらどうする?どう彼女を…」 


 「お前、身元引き受け人になるんだろ?お前の不動産会社で何処かのアパルトマンを探して、当面住んで貰うしかないよな」 


 「1人で住まわせるのか?もし、未来に来た事に絶望して、自殺したらどうするんだよ」


 「あ…そうか。じゃあお前の広いアパルトマンに住んでもらえよ。んで、色々1から教えれば?」 



 アンドレは考えた。 

それしか、今の彼女を守る方法はない。

 生活は次第に慣れていくだろう。



 だが。

 235年前に残していった彼女の夫。 


 自分と同じ名前の、アンドレ・グランディエ





 彼女の想いやツラさを考えてみて、

ため息を着いた。 









 続く