la recherche de l'amour ~愛を探すひと~①







原作無視の、現代版オスカル、アンドレたちの物語です。
2023年1月から○○年以上ぶりに絵の復帰をした時に、
前々から描きたかった
オスカルがスーパーモデルだったら…

あちこちの女性誌の表紙を飾り、ヨーロッパだけでなく、世界中にファンがいるようなスーパーモデルだったら…と、描きためたオスカルの絵をモチーフに、春前から少しずつ構想をしていました。

そして
アンドレの職業は…
実は、私の個人事業の内容です(笑)

一番今、私が詳しく知っている職業であり、大好きな作業、夢のある事業だと確信しているから。

アンドレに、この仕事をやってもらおうと思いました。
なので、アンドレが仕事の説明をしているセリフは、私が言っている事と全く同じです(笑)

私も、石鹸のオリンピックと呼ばれる
ソーパーズ カップで、2度優勝しています。
ただ、コロナ禍になってから出店を控えて、tweetでオーダーを受けています。

石鹸の他に、ハンドメイドアクセサリーを作ったり、客寄せの為に占い師もしているトコは小説のアンドレとは違うかな(笑)

長編連載になりますが、ご一読戴けましたら幸いです♥️♥️


この小説は2023年4月から半年間連載致しました。

反響がかなりあった小説です♥️


こちらでは、pixivでは出来なかった
イメージ写真や、未発表の
描き下ろしイラストも同時に掲載致しますので、よろしくお願いいたします♥️











~✨~✨~✨~✨~✨~✨~✨~✨







2023年

5月某日



本日、快晴。

サントゥアン蚤の市(クリニャンクール蚤の市)

は、人がごった返している。

ヴィンテージなアクセサリーや、帽子、アンティークな洋服や、生地。
他にも魅力的な品々が豊富に揃っている。

食べ物や飲み物も豊富だ。



5月の気持ちのいい日曜日。




パリで一番大きな蚤の市が朝から始まっている。


その一番端に、移動式店舗のキャンピングカーのドアを開け、作品を並べながら、顧客が来れば、オーダーされた商品を渡す。

チョークアートの看板を飾り、丸テーブルを2つ店の前に置き、椅子は丸椅子4つ。

テーブルは綺麗なイエローと、パープルの布を敷き、少し品物をディスプレイする。

そうこうするうちに、時間がきた。

「あ、お湯沸かさなきゃ」

アンドレは、慌てて電気ケトルを着けた。

彼の店は、昼から忙しくなる。

顧客は結構、遠方からも、待ちに待って来て下さるのだ。

ありがたい。
と、沸騰したケトルを止めて、ハーブティーを作る。


パリの一角に、いつか自分の店を構えたいと夢を抱いて、蚤の市で少しずつ顧客を増やしている。

彼の名は、アンドレ・グランディエ

元々は、南仏 プロヴァンス生まれだが、パリの某大学を卒業し、IT関係の仕事をしていた。

それが、大学時代にマルセイユサボンに出会い、何故か興味を持ってしまい、IT会社で仕事をしながらも、ハンドメイドのsavonを作っては、蚤の市で売ったりしていた。



28歳の時に、蚤の市の開放的な雰囲気と、出店仲間の助言もあり、会社を辞めSABON職人として
蚤の市や、あちこちのフリーマーケット、そして、
委託販売してくれているショップも少なくない。



販売としては5年だが、大学時代からSABONを作っているので、職人歴は8年目になる。

先日も、ヨーロッパ中のsavon職人の大会があり、アンドレのsavon商品が3度目の優勝をした。


彼の作るsavonは、全て口に入れられる安心材料ばかりで作られている。

無農薬栽培のハーブ。また、そのオイル。

食材用に育てられた世界各国の様々な花。

厳選したオリーブオイル、胡麻オイル、海外から取り寄せるライスオイル、シアバターなど、オイルも20種類はある。



今日は、この一番有名な蚤の市で、雑誌の取材も朝早くからあったので、緊張して、今頃になって眠気がきていた。

「おはようございます。アンドレさん」

呼び掛けられ、丸テーブルの椅子に腰掛け、新聞を読んでいたアンドレは、立ち上がり
顧客の女性に笑顔で挨拶した。

「この前ご注文頂いたsavon、何種類か出来ましたよ。この中で、気に入ったものがあれば、それを次回からオーダーしてくださいね」

紙袋の中に、綺麗に1つ1つ梱包されたsavonを入れて、女性に渡した。



「ありがとう!また今度もオーダーするわ!」

女性はお金を払うと、袋を抱き抱え店を去った。

「ありがとうございました」

時計を見ると、そろそろ11時。
早めに昼食を買って、食べておかないと、午後から忙しくなるな…。



アンドレは、商品を一旦キャンピングカーの中に入れて、チョークアートの看板に、
休憩中
の、プレートをぶらさげると、蚤の市で食べ物を出店している馴染みの店に向かった。




「おや、アンドレ。もうお腹がすいたのかい?」

「ああ、マダム。おはようございます。もうペコペコだよ。朝から取材とかあったから、緊張してさ」

アンドレは笑いながら、馴染みのサンドイッチの店で、3酒類と、炭酸水1本を購入した。

「昼からが忙しいから、早く食べないとね。ありがとうマダム」

「優勝してから忙しくなって良かったね。じゃあまたね」

恰幅のいい店主がアンドレに手を振る。

アンドレも、にこやかに手を上げた。




さあ、これ食べないと俺の蚤の市は始まらないから。ここのサンドイッチ、絶品だからな。

新鮮な野菜や、生ハム、色んな酒類のチーズを溢れるくらい挟んだ、いかにも美味しそうな見た目。

このサンドイッチも、昼にはすっかり売り切れる人気商品だった。

アンドレは毎回同じ物を買うので、マダムはアンドレ用に確保してくれている。

蚤の市に出店し出して、人懐っこいアンドレは
蚤の市での古株のメンバーに大層可愛がられていた。


サンドイッチと炭酸水を抱え、自分の店に戻ると、



太陽の光を吸い込んで輝くようなブロンドの女性が丸テーブルに後ろ姿で座っていた。




「あ!すみません!ちょっとサンドイッチを買いに抜けてたので…すぐ開けますね」

アンドレがそう言うと、背中を向けて座っていた女性が立ち上がり、アンドレを見て



「いや…待ってたんではない。知人からsavonの話を少し聞いたので、たまたま来ただけです。お構いなく」



絶世の美人。

それもとびきりの。



ルーブル美術館に展示されている、宗教絵画から抜け出たような気品と気高さを漂わせる女神のような。




太陽に輝く、少し巻き毛のブロンド。

瞳は切れ長で、深い海と、田舎の海を思わせるような、蒼い色。

睫毛が緩やかにカーブし、潤むような瞳をより一層、輝かせていた。

スレンダーなパンツスタイル。

手足が、その辺に居る女性とは違い、長くて細く、身長もかなり高い。

アンドレは、ボーッと、見惚れてしまった。


「店主…と呼んだ方がいいのか?」

美しいアルトの声が、立ちすくむアンドレに尋ねた。

「あ、店主でも、なんでも構いません」

静観していた女の口元が笑った。

「なんでも、か。ムッシュ。面白いな」

笑うと、もっと美しい。



「俺は、アンドレ。…アンドレ・グランディエと言います。この店のオーナー兼、savon職人です」


「私は……、オスカル・フランソワ。よろしく。ああ、サンドイッチが固くなるから、先にランチを召し上がって下さい。私は今日は、休みだから…蚤の市でゆっくりしようと思って」


「いや、savonの話ならしますよ。大丈夫です」

「いいんだ。それより、そのサンドイッチ。
何処で売ってる?私もお腹が空いてきた…」

「じゃあ、俺、買いに行ってきますから、店番頼んでいいですか?」
言い終えないうちに、アンドレは走って行った。

「あ、ちょっと!店主!」

オスカル・フランソワと名乗った女性は、呆気に取られた。

サンドイッチくらいで走って行くなんて、変わった店主だな。

人手が増えた蚤の市の道を見つめながら、オスカルは丸テーブルに座りなおした。

新聞が風で一枚ペラっとめくれる。

其処には見開きで某ブランドのカラー広告があり、
ブロンドの髪と、様々な蒼い色が混ざりあった魅惑的な瞳のモデルが、美しく妖艶なポージングで撮されていた。

オスカルは、ちらりとそれを見やるが、すぐ目を反らした。


そうしてるうちに、店主が走って帰ってきた。

ハアハアと息が上がっている。

「お待たせしました。…これがラスト2個…はあ…焦ったぁ!」

「サンドイッチの為にわざわざ走って。面白いな」

「ここのサンドイッチは絶品でね。すぐ売り切れるんですよ。間に合って良かった」

ハアハア言いながら、サンドイッチが入る紙袋を、オスカルに渡した。

「ありがとう。幾らだ?」

「ああ、お金はいらないです」

「何故?あんなに走らせてしまって、わざわざ買いに行ってくれたのに?払うのは当たり前だろう?」

「俺の店にわざわざ来てくれたんでしょう?友達の紹介で。だから、はじめましてのお礼の代わりです」

何を言ってるんだ?

黒髪の人懐っこい笑顔をしげしげと見つめながら、オスカルは、ふふっと笑った。

「では…奢られるかな。ありがとう店主」

「アンドレでいいです」

「では…アンドレ」

「どうぞ。マドモアゼル。…あ!飲み物買うの忘れた!ちょっと待ってもらったら、ハーブティーを作りますよ。そこに掛けて下さい」

「………ありがとう」



オスカルは、丸テーブルにある新聞を少し端に寄せ、その上に、バッグと脱いだジャケットを置き、見開きのブロンド女性の写真を隠した。


「お待たせしました。ローズヒップティーにプロヴァンスの百科花の蜂蜜を入れたものと、人気のサンドイッチ2種類です」


アンティークなトレイに、透明なティーポットの中で、美しい赤の色が踊っている。
サンドイッチも、具だくさんで盛りつけも美しい。これは人気がある筈だとオスカルは思った。

「カップ…ここの蚤の市で売ってたアンティークしかなくて。これに注いでもいいですか?」

可笑しな事をわざわざ聞く店主だなと思いながら、
メルシー、とカップ&ソーサーを受け取った。

アンドレがティーポットからカップに美しい赤を注いでくれる。

「さ、どうぞ。召し上がって下さい」

「ここはハーブティーも売ってるのか?」

オスカルは、ローズヒップティーを少し飲んで尋ねた。

「ええ。顧客にだけですけど」

「ローズヒップティーと蜂蜜の他に、何か入っている?」

「よく判りましたね!飲用のローズ水も入れて、香りをより豊かにしてるんです。すごいな。ひとくち飲んで、わかった人は初めてですよ」

「ああ。そうか…。仕事柄、香りには敏感なんだ」

オスカルは、目を反らしてサンドイッチを食べた。

「美味しい!」

アンドレが、少し接客して、キャンピングカーから出てきて、丸テーブルの椅子に座って爽やかに笑う。

「でしょ?あっちにマダムが出店しているんですけど、昼前にはすぐ売り切れるんですよ」

5月の爽やかな風が、目の前の女性の輝く美しいブロンドをゆっくりと揺らしてゆく。

よく見れば、ノーメイクだった。



それでも、オスカルと名乗った彼女は、
少女と、しなやかで強さを兼ね備えた美貌の間を行き来しているような素顔だ。



「ああ。忘れていた。私…アンドレ…さんのsavonを買いに来たんです。仕事柄、色々試しているんですが、決定的なこれ、と言うのが見付からなくて。乾燥しやすいから、何かないですか?」

「そんなに肌がツヤツヤしているのに?」

アンドレは思わず本音を漏らした。

「そうか…な?でも、新しい自分になりたくて、アンドレさんのsavonの話を聞いて、今日来たんだ」

「ありがとう。あ、さん付けはやめて下さい。お客さんは皆、アンドレと呼んでくれてるし」

「あ…じゃあ、アンドレ」

「了解です。ハイビスカスの花と、ローズウォーター、シアバター、EXバージンオリーブオイルを入れたsavonを試しに使ってみて下さい。
それなら今、在庫はあります。
普段はオーダーが8割、店頭に色々レギュラーものを並べて販売しているんです。
それからお客さんの好みにあったブレンドを話し合いながら決めて作ってるんです」



サンドイッチを食べ終えたオスカルは、ずっとアンドレの目を見つめながら聞いていた。

アンドレの胸が、見つめられて早鐘のようにドキドキしている。

オスカルは、ローズヒップティーをゆっくり飲みながら、

「じゃあ、そのsavonを1つ欲しい」


オスカルも、アンドレの瞳を見つめ、美しい色だな。まるで黒曜石のようだと。
自分にはない色だと思い、話を聞いていた。


アンドレが、可愛いラッピングのsavonを持ってくると、
「うちはエコバッグを持ってきて頂くシステムなんですが、バッグに入りますか?」

「あ、ああ。大丈夫。…ありがとう」

と、お金を払い、savonを大きなバッグに入れた。

「これ。俺の名刺です。出店するマルシェが週ごとに書いてます。委託先も。あと、電話番号もね」

「あ、ああ。ありがとう」

「何かあったら、連絡下さい」


後ろのキャンピングカーの方から、
アンドレ、例のsavon買いに来たわよ、と顧客が声を掛けてきた。

「いつもありがとう!今行く!」

と返事をすると、
「気に入ったら、また気軽に来て下さいね。じゃあまた」

と、手を上げオスカルに挨拶をすると、キャンピングカーに戻って行った。

オスカルは、その背中をちらりと見ながら、テーブルに乗せていたバッグとジャケットを手に取り、
少し暖かくなった空を見上げ、ジャケットを手に持ち、高そうなブーツを石畳に鳴らして、人混みの中に消えて行った。




ひとしきり接客を終えたアンドレが、オスカルが飲んだカップ&ソーサーを片付ける為に丸テーブルに戻ってきた。



広がった新聞が目に留まる。



あ…

一面いっぱいに撮された、妖艶なブロンドのモデルが、ブランドの
背中がレースで、下半身は美しく透き通る衣装を身に纏い、素肌が見えそうなヴィーナスのようにこちらを見ている。
強い眼差し。不適な笑み。






彼女だ…。

このモデル…あの人……。オスカル・フランソワだ…。

その世界に疎いアンドレは、この、よく見かける美しいモデルが、オスカル・フランソワと言う名前なのを知った。

素顔で笑うと少女みたいな彼女が…?
このモデル…?


風でページがめくれそうになるのを押さえながら、


アンドレは、彼女が立ち去った人混みの方を見上げた。




長閑な5月のとある日曜日だった。








②に続く