~いつくもの苦しみを超えて③









フランス革命

バスティーユ戦争の後の、2人を

(もしオスカル、アンドレが生き残ったとして)


私なりの物語を妄想してみました。

当時のフランス社会は無視してください。
オスカルの結核も、アンドレの右目が見えないのも、この際無し(笑)
で、行きます(._.)

ごめんなさい!

パラレルです(笑)

日本人医師は、あのドラマから来て頂きました!





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「吐き気がする…」
と、青い顔をしてアンドレに必死に捕まっていた。






「とにかく、オスカル様をベッドへ運びます」
jinは、軽々とオスカルを抱き上げ、ベッドへと運んだ。


アンドレは、何がなんだか判らず

ただオロオロとするばかりであった。




聴診器を当てながら、jinはオスカルの顔色を見て
脈を計り
「ちょっと失礼」
と、オスカルのお腹に聴診器を当てた。

まだ分かりにくいが、微かに異音がする。
定期的なその音。
その音を数えてみる。




「オスカル様、生理…ここ最近ありましたか?」

「生理…?」
「あ…じゃなくて。月のものです」
生理は通じないよな。と慌て言い直した。

「7月の始めにあったのが最後です…。その後はもう13日からの戦闘で、14日に撃たれましたし…。あれからは月のものは一切…」
「そうですね。精神的なショック状態でもありましたから、月のものは止まっていたと思います。
では、吐き気はいつ頃からですか?」
アンドレが心配そうに、ベッドの側に立つ。

「先週辺りから…酷くはないですが、急に吐きそうになったりしました」
「匂いに過敏になったとか」
「それは…多少…あの…私は…何か病気なのでしょうか…」


jinは立ち上がり、にこりと笑った。
「あんな大怪我をしたのに…。貴女は運が強い」

「え…?…どういう事ですか?」
アンドレも固唾を飲んでjinを見つめた。

「オスカル様。ご懐妊おめでとうございます。妊娠3ヶ月です」

え…?

私が…妊娠…?

「順調に行けば5月には赤ちゃんが産まれますよ」

「オスカルに…赤ちゃん…」
アンドレは、オスカルの手を握り、ベッドに座り込んだ。

「余程、この世に産まれたかったのでしょう。母体が大怪我をしておられたのに、お腹の赤ちゃんは、必死に産まれようと逃げなかったんです。オスカル様、貴女に似たのでしょうかね?」

「本当に?…先生、本当ですか!?私のお腹に赤ちゃんが…」
「オスカル…」
「…ア…アンドレ……。お前の赤ちゃんだ…。お前と私の…」

「おめでとうございます。オスカル様。でも今からはもっと体調に気をつけて下さい。漢方薬も赤ちゃんに合わないものもあるので、今日から中止にします。まずはこちらの民間療法などを取り入れたり、色々考えていきましょう。
栄養もしっかり取って。あ、ロザリーさんも妊娠されているから、もうこちらに来てもらうような無理はさせず、近くに住んでいる方々に、私からお二人の事を頼んでおきます。大丈夫、心配しないで……ああ!でも!こんな奇跡、あるんだなあ!」
jinは嬉しそうに一気に喋る。

「先生…」
オスカルの頬に涙が伝っていた。

「私はね、(神様は、乗り越えられない試練は与えない)と常に思っています。オスカル様も、絶対にそうです」
「神様は乗り越えられない試練は与えない…と…」
「はい。来年、春にまたこちらに来たいなあ。お二人の赤ちゃんを見たいです」
jinは、心から嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして笑った。




夜。

1つのベッドで、2人が横になる。
アンドレは動かせる右腕でオスカルを抱き寄せた。

「アンドレ…」
「うん?」
「あの日の赤ちゃんだな…。7月12日…」
「ああ」
「……私たち、あんな大怪我をしたのに……神様は私たちにギフトを下さったんだ…」
「そうだな…。俺たちの赤ちゃんだ。まだ信じられないよ」
「アンドレ…触ってみる?」
オスカルはアンドレの手を持ち、自分のお腹に添えた。
「まだわかんないよ。ぺったんこなお腹だし」
アンドレは笑い、オスカルにキスをする。
「オスカル…それよりどうする?」
「ああ。母上の手紙に書いていた、パリから遠くへ、だろう?」

まだパリのアパルトマンに居た時、
母上の手紙の通り、パリに支店をもつ銀行の支配人がオスカルに会いに来た。

銀行はまだ機能していて、オスカルの預金全額と、ジャルジェ家の総預金額の半分を後継者オスカル・フランソワへと用意されていた。

もう暫くすると銀行も、貴族の資産は凍結されるだろう。その前に、と支配人は急いで用意してくれたのだ。


「冬がくる前に…。アンドレの故郷の南プロバンスに行こう。明日ロザリーが来るから、父上、母上に手紙を書いて渡してもらう」
「それが賢明だな」
「でも、お前の傷口は11月終わりにならないと治らないんだ…。それまで待とうか?」
「そんな事を言ってたら、すぐ真冬になるよ。オスカルは妊婦なんだから、身体を冷やしてはいけないって先生から言われてるだろう?」
「だが…」
「大丈夫だ。そうだ。馬一頭と、中古の辻馬車を早急に買って、お前のつわりが軽いうちに南プロバンスに行こう」
「うん…では、馬と辻馬車は屋敷から持って来てもらうようにする。辻馬車は装飾を全て外してボロにしてもらって…」
「誰がここまで持ってくるんだ?」
「アンドレの弟分の厩番のネロが、たしかこの辺りが故居なんだ。母上にはネロに退職金を沢山渡して貰って、二頭馬で辻馬車を引き、一頭はネロに渡す」
「あはは!考えたなあ。それならすぐにでもネロは来るな」
「今夜、屋敷宛に手紙を書く」


2人は、自分達の未来の話を

眠くなるまで語り合った。




ロザリーから手紙を受け取ったジャルジェ婦人は、大急ぎで夫に2人の現状を話して、辻馬車の装飾を全て外し、パリの市民が使うようなくすんだ色に塗り替え、馬も健康で頭のいい馬二頭を用意した。

オスカルの愛馬は、あの戦闘中にオスカルとはぐれ、行方がわからなくなっていた。

ネロは、執事から「これは密命だ」と言い、
「ジャルジェ家からの退職金だ。必ずオスカル様の元へ1日も早く着くように」と念をおされ、
緊張しながら返事をした。

ボロに改装された辻馬車の中は、両親からの荷物がギッシリと詰まっていた。

「あのオスカルが…子供を産むのか…」
遠くなる辻馬車を婦人と見つめながら、将軍は感慨深く呟いた。
「アンドレと幸せになるなら、もうそれ以上の望みはございませんわ、あなた」
「そうだな…。美しい末娘だった。凛として、正義感が強くて」
「あなたに似て頑固で」

将軍は苦笑いをし、婦人の肩を抱いた。

「オスカル。アンドレ…。もう、身分違いという世ではなくなった…遠慮などいらぬ。…幸せになれ」

夫婦の目には光るものがあった。






ネロがオスカルのいる村までたどり着いたのは、手紙をロザリーに渡してから10日後の事だった。
11月の始めになっていた。

久しぶりに合ったネロに、アンドレは嬉しそうに言う。
「ありがとう。ネロ。ベルサイユはどうなんだ?」
「貴族はもう国外に逃げている。残ったジャルジェ家の事が俺は心配だよ。でもオスカル様がバスティーユで民衆の味方をされて撃たれて行方不明になっているのを、パリ市民はみな知ってるから、ジャルジェ家はパリ市民からは今は狙われていないよ。オスカル様は市民の英雄扱いになってるんだ。ジャルジェ家に被害がないのはオスカル様のおかげだ」

「そうか…屋敷は無事なんだな、ネロ」
小さな家から、女性の姿をしたオスカルが出てきて、ネロはビックリした。

「久しぶりだ。あと、今回の件、ネロには感謝しきれない。ありがとう」
「とんでもないです!俺も実家に帰れて、馬一頭と、信じられない位の退職金を頂いたんです!オスカル様、ありがとうございます!」
「感謝しているのは私の方だよ…ん?馬車の中の荷物はなんだ?」

馬車の窓から、箱やらトランクやらがギッシリと詰められていた。
「俺も知らないんです。旦那様や、奥様がお二人にと御用意されたものを積んだまでで」



ひとしきり、三人は懐かしい話をすると、馬車から一頭馬を外し、ネロは実家へと帰って行った。


「オスカル、暖炉に火を入れた。部屋に戻って。俺は荷物を部屋に入れる作業をするから」
「わかった。アンドレ気をつけて」
「うん。ありがとう」



アンドレの傷はほとんど治っていた。
先生のリハビリが効いたのだ。

明後日にでも、南プロバンスに行けるようにしたい。

しかし、旦那様からの荷物がとても多くて、少しまとめないといけないようだな。

部屋に荷物全てを入れると、オスカルは呆れていた。
「なんなのだ?これは」
「さあ…。ひとつひとつ開けてみるか」


開けてみてわかった。

産まれてくる赤ちゃんへの膨大なプレゼント。

お金に返れるようにと、母や姉上達から託された宝飾品。

父上からは、代々の家宝である紋章が刻印された立派な剣。

そして。

オスカルの誕生日、ノエルに結婚式を挙げる旨を手紙に書いたので、
ウエディングドレス一式と、アンドレには豪華な刺繍を施した、ア・ビ・アラ・フランセーズの衣装一式。

「これは…参ったなあ…」

苦笑いしているアンドレに、オスカルが近づき
「一生に一度だ。義理親の望みを叶えてやれ」

美しい笑顔で笑うオスカルに、アンドレは

そうだな…。
と、抱き寄せて妻の額に口づけた。

「だが。荷物が多すぎるな。普段着は南プロバンスで買うようにして、この中にある私のドレスは、余りにも貴族っぽいから、近所でお世話になった方々にお譲りして、お金に替えれば潤うだろう?そうしよう」

沢山のトランクの中を物色して、不必要、使わないものをオスカルはどんどんと選別していった。


2人で、ああだこうだと言いながら、終わったのは深夜2時だった。



翌朝。

早くに辻馬車の音がして

現れたのはjin先生だった。

「一昨日、パリでロザリーさんと会いました。お二人が南プロバンスに向かわれると聞いたので、ご挨拶に伺いました」

「先生…」
アンドレとオスカルは、1人ずつ先生に握手を交わし、オスカルは先生の頬に感謝のキスをした。


「貴方がおられなければ、私たちはとっくに死んでいました。私たちが今、こうして新しい人生に旅立てるのも、全て先生のお陰です。そして、子供まで出来ました。私たちの幸せを必死に守って下さり、感謝致します」
オスカルは、凛とした声でまるで軍人のように礼を述べた。

「私は、お二人が幸せなら、それで私も幸せです。私ももうすぐパリを立ちます」
「今度はどちらへ?」
「イタリアです」







jinを乗せた馬車が遠く走ってゆく。






2人は、寄り添ってずっとずっと見送っていた。






④へ続く