mimosa de minuit ~真夜中のミモザ~その後






2023年、4月19日に25年ぶりに小説を書き、初投稿した、ベルばら創作小説

mimosa de minuit ~真夜中のミモザ~

ちょっとその後も、書いてみました。

この話を読む前に、2023年4月に書いた

mimosa de minuit ~真夜中のミモザ~

を、先に読んでね‼️

じゃないと、多分、訳わからないと思うの♥️



ラブストーリー続編です♥️





~✨~✨~✨~✨~✨~✨~✨~✨~








まだ夜は明けぬ。



アンドレがオスカルの寝台で、ゆっくり目が覚めたのは、午前4時前。

使用人達が起きる前に、アンドレは自室に戻らないといけない。


彼女との激しく愛しい情交をかわした後

2時間位しか寝ていなかった。



アンドレは寝台のサイドテーブルに置いた自分の懐中時計を開けて、時を確認する。

そして…



シーツの上と、寝台の回りに散らばっていた黄色いミモザの花びらを、予備の小さめなリネンを持ってきて
その上に集めてゆく。


「こんなの、やり過ぎだぞ、オスカル…。ミモザの香りが取れないじゃないか」
少し笑って、ひとりごちる。

4月の夜明け前は、まだ寒い。

消えかかっていた暖炉の薪をくべ、火を起こすと、ミモザをくるんだリネンを放り込んだ。

昨夜の証拠は


ボウッと燃え盛って跡形もなく消えた。




アンドレは小さくため息を付き


静かな寝息を立てているオスカルの頬に


静かに唇を寄せ。


「おはよう、オスカル。…また後でな」



部屋を静かに出ていく音。






寝台で寝ていた美しい唇が

「……やり過ぎで悪かったな。誰のせいだ?」

そう呟いた後。


白い肌を起こし、次第に灰になる証拠を静かに見つめていた。




こうして。


独り、夜明け前に取り残される己の身は…

哀しい程に、女なのだと思い知らされる。






朝8時。


オスカルとアンドレを乗せた馬車が、勤務地へと向かう。

今日は互いが向き合う形となっていた。


車内には微かに、ミモザの香りがお互いからする。


アンドレは、苦笑いしながら

「匂い…取れないな」
と、兵服を嗅いだ。

そして、オスカルの軍服にも鼻を近づける。
「なんだ?」
機嫌の悪い声。

朝早く、アンドレが寝台から離れるのを、快く思ってはいない。それも彼は判っていた。


「軍服じゃあないな。お前の髪から香る」

アンドレは、オスカルの隣に座り、黄金色の髪を撫で、嬉しそうに匂いを嗅いだ。
それだけでオスカルの身体の芯が熱くなる。

「オスカル、髪に着いてる」
アンドレがそう言って、ブロンドの髪の中に埋もれた黄色い花を探しだした。
「何だ?何が着いてた?」
「これ」

アンドレは指につまんだミモザの小さな花びらを彼女に見せた。

「よく侍女にバレなかったな。櫛を通してる時に落ちたら、怪しまれるぞ?」
彼は僅かに笑い、そのミモザの香りを嗅ぐと、自分のハンカチに納めた。
チラリと、その様子をオスカルが横目で見る。

「そのミモザをどうするつもりだ?」
声にいささか刺がある。

朝は、大抵、機嫌が悪い。
衛兵隊に移動してから、ずっとそうだ。

「どうもしないよ」

アンドレは、馭者が見える小窓を閉め

「ごめん」
と囁きながら、オスカルの腰に手を回し、ぐっと近づけると、彼女の唇を奪う。
「……なっ…」何を、と言おうとした彼女の唇は、濡れていた。

ミモザの香りが漂う密室は、甘い昨夜のいとなみを思い出させる。

「そうさせたのは、お前だ」
唇が離れた後、彼女と顔を寄せ、そう呟いた、深く蒼き瞳を覗いた。
「お前が、せっかくの非番に、私を1人にさせるからだ」
「それは…悪かった」
「次はないぞ」
「畏まりました。お嬢様」
そう囁き、彼女の白い手を握る。

オスカルの胸が締め付けられる。






お嬢様、とアンドレから言われると、顔が赤くなるのが自分でもわかる。
だが、これから隊に向かうのだ。
気持ちを切り替える時間が馬車の中だった。


それを判っていて、馬車の中に居る2人きりの時間を、楽しむ。

まるで次の時の駆け引きのように。



自身の中で、相反する感情が交差して、
消化しきれず、

オスカルは機嫌が悪くなるのだ。






その時。


馭者が、どうっと声を上げ馬車が止まった。

アンドレが慌てて、小窓を開け
「どうした?」
と聞いた。

「子供が道の真ん中に…」
「子供?」


オスカルは、あ!と昨日の事を思い出し、馬車から降りた。

「おはようございます。兵隊様」

栗色の髪を後ろに束ねた少女。
昨日、ミモザの木の傍で会った子だった。

「おはよう。昨日はありがとう。約束を守ってくれたんだね」
オスカルは優しい声色で跪いて、少女の額にキスをした。

少女の手には、風で揺れ動く朝露に濡れたミモザの花が紙で束ねてあった。

ベルサイユとパリの中間にある、この町は
貴族邸や宮殿に様々な花を納める花農家がたくさんあった。

「お約束のミモザです」
「ありがとう」
オスカルは、銀貨1枚を少女に渡した。


少女は、手を振って走り出す。






「どういう事だ?オスカル…この花…」

再び走り出した馬車の中で、アンドレは聞いた。

先ほどと違い、妙に機嫌が良くなっている。

オスカルは、横に座るアンドレにミモザの花束を渡し、向かいの空いた席にそれを置け、と指でジェスチャーし、ふふ、と微笑む。


「わからないか?……昨夜の証拠隠滅用だ」
「は?…お前、それを昨日のうちから考えていたのか?」
「1人で、暇だったからな」
嫌みの様にアンドレに言うが、楽しそうである。

「きっと、ミモザの香りが私達からするのを、誰かが確かめに来るだろう?その時、執務室にこれを飾っておくんだ」
「……お前…」

よく、そこまで考えてきたもんだ。
まるで、2人から香るミモザを、隊の者たちに知られて、原因を探りにでもきて欲しい。
そう思っているようだ。

「策士、だな」

馬車が右折する勢いで、オスカルがアンドレの胸の中に入りこむ。

彼女が見上げると、右目が優しく見つめていた。

「用意周到、だろう?」
そう言って、オスカルは自分から恋人の頬を両手で挟み、ゆっくり唇を重ねた。

次第に。
互いの舌を吸い取り、むさぼり合うように絡める。

馬車の中で


ミモザの香りがひどく香り立っていた。





fin