　ホグワーツに入学するためには、それなりのケースも必要なので、本日はフェルトのソフトケースを作り、同級生たちにその価値を知らしめるため、皮とアッシュでソフトケース絞めベルトを追加した。これで、準備万端。

　昨日はデジカメが死んでいたが、今日は甦った。まだケースがなかったから不満だったのかも知れない。
　見ればわかるが、上がホグワーツ入学セットの杖で、下が生姜ナイフ。
　こうして見ると、生姜は、頭でっかちな鴨嘴かモグラに見えなくもないので驚いている。写真だと今ひとつリアルさに欠けるが、生はまさに生生姜なので大丈夫。豆助は喜ぶことだろう。

　孫グッズが完成したから、勢いで今日は老母用杖に着手した。真一文字のやつは太くて短いが、ちょっと曲がりくねったやつに使えそうなのがあり、また数年かけて杖候補を養成するのは面倒だからやっちまえ、と言う気持ちになった。もう老母は八十四歳で、杖が欲しい年頃だから。捻くれた癇癪持ちだから、ちょっと捻くれた杖がちょうど良いだろう、と。
　アッシュという木材は本当に良い質で、全般的にナイフと豆鉋で細工するが、刃の入りが良く、手応えが滑らかで心地良い。繊維が緻密なのだろう。節は固く、木質も堅牢だけど、とても削りやすい。鉋の刃が通った後はスベスベで、撫で回したくなる。前に豆ナイフを作った時も記した気がするが、象牙とか水牛の角のような味が出る。
　ネットでどんなデザインが多いか調べたら、全体に皮付きのままが多いので意外だった。この材は、木質も樹皮の味も良いが、皮付きと、べろりと皮を剥かれた白無垢とのコントラストにこそ味があるから、そういうデザインにしているのではないかと想像していたからだ。皮なしの木肌は滑らかで美しいが、それだけではアッシュとしての才能が生かされない。皮の無骨、そして、それが剥かれた清楚な白無垢という変化があってこそ、われわれの心を魅了するのである。
　しかし、杖というもののデザインを考えると、確かに、皮肌と剥き身をさり気なく料理する方法は、かなり難しいらしいと気がついた。柄の部分はなにかできそうだが、杖本体はなかなか手口が見出せない。と言って、柄の部分は素人仕事だから杖本体と違和感なく仕上げるのも難儀に思われる。というのは、柄にするのはかなり太いやつから持ち手を削りだすことが多いため、ブナとかを使う場合が多いらしい。しかし、猫額にブナはない。そもそも老母のトネリコだったから作るだけであり、基本的にトネリコだけを使いたい。細かなオプションは別として、杖の本質を形成するのは、猫額に甦ったトネリコでなければならないのである。
　そこで、今のところ、あっさり諦め、杖は皮付き、柄はちょっと剥き身にしよう、と計画している。枝だけでやるから、持ち手残った装飾など面倒臭いからである。枝を杖とし、枝を柄とする。枝だけの杖である。しかも、強度を稼ぐために、柄から本体にぶっといネジを突っこもうかとも考えているから、装飾どころではない。第一に重要なのは、強度である。見てくれなど二の次なのだ。
　が、これからの人類の高齢者が手にする杖は、やはり、いくらか洗練されている必要がある。金属や樹脂のやたらえげつない花柄などをあしらったものをツンツン突いて歩くなど、二十二世紀の人類がやるべきことではない。われわれはかつて英国貴族が発見した叡智である、アッシュによる歩行補助具をこそ見直すべきである。トネリコは成長が速く、計画的に生産すれば無限と言えるほど、良質の材を産み出せる。これほど効率のよい原料生産の方法はない。世界の高齢者人口が百億を超えたとしても、トネリコさえ健在であれば、われわれは杖に困ることはないのである。
　いや、そういうことではなかったか。

　老母用杖は別に急ぐ必要がないので、のんびり模索しよう。明日にはなにかやって、また一からやり直しになる気がするが、それも人生である。ここで、老人用の杖を一本作り上げておけば、二十年後の自分のためになる。実は、もう自分用の材は確保してあり、猫額の隅で二十年後が訪れるのを待っている。ぶっとくて、曲がりくねっていて、節がゴツゴツしたやつである。御老公さまが使っていらっしゃったやつよりも風格があって申し訳ないが、二十年後には私の相棒になる予定である。
　これが杖になり、私の手の内でコツコツと地面を突く日を夢見て、今を生きている、と言えば過言だが、そういう存在がひとつでもあるのは頼もしいことである。
　アッシュの杖を手に諸国を行脚して巡り、悪代官を懲らしめてやるのだ。エイッ、ツンツンッと。
　もちろん、杖の先っぽは局部指圧に最適な形状になっているので、悪代官どもは肩こりが解消して悔い改め、わが膝元に平伏すという流れになる。
　その日のために、今を生きている、と言うのも過言だけど、まあ、杖の一本も作れるなら、作れないよりマシだろうと思うのである。
　いや、一本目の杖は、孫一用に作っていたから、老母用のは二本目か。
　何本目でも良いか。過去にもなにか作ったような気がするし。

新・魔法の杖と生姜。