▼アニメ版『侍ジャイアンツ』が描く73年の野球史
原作『侍ジャイアンツ』では、番場はこの年、大回転魔球を編み出してペナントレースに臨み、前のハイ・ジャンプ魔球との二刀流だった。

アニメではこの1シーズンだけが舞台で、番場は「侍ニッポン」の替え歌「♪球を打つのが野球屋ならば……」を愛唱歌にしており、アニメでもそれが披露されたが、アニメでは途中でハミングに変更(改竄)された。

ア二メで番場はまず、八幡太郎平考案の「ノーコン改良兵器」で制球力を改善するが、その代わり、プレートを踏む位置でコースがわかってしまい、オープン戦でロッテの金田正一監督に見抜かれ、打ち込まれてしまう(原作では71年のシーズンにヤクルトの眉月光が番場の癖を見抜いた)。

番場は、大リーガー時代のウルフ・チーフの殺人的スライディングを同じ跳び蹴りで破った。このサムライ精神は、番場の故郷の四国で土佐丸高校、室戸学習塾に受け継がれる。プロでは巨人の星飛雄馬と阪神の掛布雅之の対決で再現される。阪神はウルフが日本で入団した球団でもある。

番場のハイ・ジャンプ魔球に対し、眉月は高所から斜めに飛んで来る矢を打つ特訓をするが、実戦ではこの無理な打法により、自分の身体を痛めてしまった。最終的に眉月は、ハイ・ジャンプ後の番場の投手守備が弱いことを見抜き、バントで攻略するが、一塁まで走れずアウト。矢を打つ特訓は無駄だったように想える。

中日の大砲万作は腕力を生かし、バントの構えでボールが当たってからスイングし、スタンドまで飛ばす打法を完成させ、魔球を打った。星飛雄馬の大LB1号も3号も大砲なら打てたが、飛雄馬は球界をすでに離れていた。

番場はジャンプして身体を反らして投げるように改良し、「えび投げハイ・ジャンプ魔球」として、春の交通ゼネストのときに使い始めた。大砲は打とうとして片腕を骨折。阪神に入団したウルフ・チーフは同じ高さで跳ぶハイ・ジャンプ打法を使って攻略。理論上はベストの策だが、跳躍のタイミングが合わないとかえって打てなくなる。
番場はウルフに負けて、マウンドを降りた。八幡は「他の打者に通用する」と言ったが、川上は「プロはそれほど甘くない。第2、第3のウルフがあらわれるだけだ」と言った。これは『巨人の星』の「屈辱の〝夢の救援〟」で金田正一が言っていたことに似ている。

番場蛮は73年のオールスターを辞退し、大回転魔球を編み出す特訓をしていた。別の作品で観ると、『野球狂の詩』の原作ではこのオールスターで千藤光がセ・リーグの一員として出場。パ・リーグの捕手は南海の野村克也だった。

番場の大回転魔球に対し、ウルフは大回転打法で対抗。これでは投手と球が見えにくくなるだけだろう。結果は投飛だったが、『ドカベン』の坂田三吉の通天閣打球のような高い打球であった。この魔球を打倒したのは眉月だった。また、「回転」して投げたり打ったりする技、ジャンプして投げる技は、のちに『ドカベン』の殿馬に受け継がれた。

番場は空手家から教わった技でボールを握りつぶして投げる横分身魔球を完成。しかし、八幡は最初、捕球できず、動体視力を鍛えて捕れるようになったので、目のいい打者に打たれるのも時間の問題だった。また、空手家が出るあたりは『空手バカ一代』と共通している。

この時期、『野球狂の詩』によると、阪神タイガースの巨漢投手・力道玄馬(りきどうげんば)がメッツを苦しめていた。新聞の日付の数字が不鮮明だが、「昭和48年9月2日」に見える(9の上が欠けていて4にも見える)。岩田鉄五郎が「秘打・鬼殺し」で攻略。もっとも、一点取って玄馬の完封を破るだけで、メッツは試合では負けた。

また、1973年10月10日に(月日はネットの記述より)、『魔法の天使クリィミーマミ』の森沢優が生まれた模様。

話をアニメ版『侍ジャイアンツ』に戻すと、分身魔球を対阪神戦で披露した番場は疲労で倒れ、眉月のいるヤクルトとの試合に出場できず、巨人はヤクルトに敗北。
10月20日、中日が阪神を破って、巨人はかろうじて優勝の望みを残した。球場のそばを巨人軍選手を乗せた新幹線が通っていた。番場蛮は大砲万作が打った本塁打のボールを見届けた。

阪神のウルフは荒野で鍛えた視力を生かし、73年の10月22日におこなわれた巨人×阪神最終戦で、番場の横分身魔球を打つ。しかし、休養中の長嶋が電話で川上監督を通して番場に助言。番場は魔球を縱分身に改良。ウルフは打席でジャンプしてバットを縱に振り下ろして打ったが、投飛に終わり、巨人はセ・リーグ優勝。このとき、あの鈴木一朗ことイチローが生まれた。
しかし、巨人V9は終盤で中日が阪神を破ったことによる勝率争いの漁夫の利で得たところもあり、巨人の時代は終わりに近づいていた。番場は巨人を大きくて強い「鯨」として嫌っていたが、入団すると巨人より大きい「鯨」が周りに出現していた。

日本シリーズで南海の野村はささやき作戦で番場を苦しめたが、結果は巨人の優勝。巨人V9で番場蛮は優勝投手となる。

番場は日米ワールドシリーズに登板し、アスレティックスの強打者・ジャックスに縱分身を打たれ、一時、戦線離脱するものの、最後にミラクル・ボール(ハイ・ジャンプ・大回転・分身魔球)でジャックスを打ち取り、最優秀選手となる。八幡はミラクル・ボールを全身で受けた。

原作でも番場は大砲万作相手に「ハイ・ジャンプ・大回転魔球」を投げたが、二つの魔球の合体で球速が増大し、森捕手の左手がはれ上がっていた。

番場は商品として自動車をもらったが、土佐の海辺の漁師の家であることから考えて、ボートのほうがよかったのではなかろうか。アニメの最終回は川上監督が番場蛮に贈る言葉で終わったが、30年前後たったのち、よく似た言葉がボクシングの亀田一家のてがみで使われたという噂がネット上にある。

前後一覧
2008年2/28(1968年大リーグボール1号~1973年「よれよれ18番」)
2008年2/28(1969年消える魔球~1973年大回転魔球)
2008年2/28(1973年番場蛮~1977年~79年右投手・星飛雄馬)

関連語句
侍ジャイアンツ