お盆休みなので『浪花』をまた見られる。NHKのロンドン五輪総集編が裏番組。
有森也実扮する母親(千枝子)が保険金目当てに男の自殺を他殺に見せかけ、息子がとばっちりを受けた。
この母親が逮捕されたとき、母親は犯行動機を「子供のため」と言っており、しのぶセンセ(演:多部未華子)が激怒。子供が盗みまでしたことをその千枝子に告げ、千枝子に対し母親失格との主旨で批判。
これに対し千枝子は「子供も産んだことがない、お金の苦労もしたことがないあんたに何がわかるか」と言い逃れして、しのぶセンセに胸ぐらをつかまれ、刑事たちが制止して連行。
これに限らず、親が犯罪を「子供のため」「苦労したから」と言いわけする例は犯罪ドラマで多く、批判されても「子供を産んだことがないあんたに何がわかる」「苦労したことないくせに」という反論を「水戸黄門の印籠」にするケースが多い。
しのぶセンセはこれに再反論できなかったが、もし言うなら「自分の犯罪を子供のせいにするバカ親の気持ちなんか一生わかりたくもないわよ」とでも言えばよかった。
しのぶセンセが千枝子の反論を防ぐには、苦労経験があって子育ても経験しながら犯罪をしていないベテランの母親たちを集めて、その犯罪者の母親に対する叱責をしてもらうことだ。日を改めて松坂慶子でも呼んで援軍になってもらったほうがよかったのではないか。
また、しのぶセンセが千枝子に言ったことは、しのぶセンセが言わなくても、ときがたてば気づいていくはずのことであるし、千枝子が言いわけにした「子供のため」についても、その子供が成長していくにつれて「自分の母親は自分のためにひどいことをした」という自責の念にかられるであろう。
ここでもし、しのぶセンセでなく、古畑任三郎(演:田村正和)や、『相棒』の杉下右京(演:水谷豊)だったら犯人にどう言うだろうか。
例えば杉下右京だったらこのように千枝子を諭したのではなかろう。
「私は男ですから子供を産んだ経験はありませんが、それでは貴女(犯人)のおっしゃるように、子供を産んでお金で苦労した女性はみんな貴女のようなインチキをしないと生きていけないんでしょうかね」「貴女のお子さんは小学生ですから、貴女の母親歴は10年とちょっとですね」「世の中にもっと苦労しながら犯罪に手を染めず子供が20歳を過ぎて大学を出るまで育てた人もたくさんいます」「そういう親御さんたちと貴女の違いはどこにあるとお考えですか」「犯罪や嘘つきを子供のせいにするのは、私には結局、齢母親のエゴとしか思えませんかね」…と、このように冷静に語っただろう。そして千枝子がしたことによる影響を事実として報告したであろう。
ついでに言うとこの千枝子は他者が自分の苦労や気持ちをわからないと言って批判するが、自分が他者の気持ちを理解しようとはしていない。自分のしたことで濡れ衣を着せられた人の気持ちは考えられない。もし立場が逆で、この母親が引ったくりなどの被害に遭い、犯人が「子供のため」「苦労したから」などという言いわけをりたら、この身勝手な母親は理解したであろうか。
それからしのぶセンセは警察ではないが、犯罪者が(学校の先生はともかく)警察官に「あんたに私の気持ちがわかるか」と何回叫んでも無駄である。警察は犯人の気持ちを理解するためにあるのではなく、犯人が犯した罪を法で罰するために逮捕するのである。だから「あんたに私の気持ちがわかるか」と叫ぶ犯人は「あんたに私の気持ちがわかってほしい」という願望の裏返しであって所詮は甘ったれ根性である。
それからこの母親は子供の気持ちをどこまで理解したか、さらにしのぶセンセの気持ちを理解しようとしたか疑問だ。相手の気持ちを理解しようとしない人が相手に理解されないのは当然だ。
親が子供のために犯罪も厭(いと)わない姿勢は珍しくない。
『はだしのゲン』でゲンの両親が戦時中、子供たちのためなら犯罪でも何でもすると言っており、戦争で金儲けをしている連中に比べれば大したことはないとのこと。ゲンが妹・友子のために闇でミルクなどを入手しようとしたのもそうである。
しかし「子持ちの母親で犯罪者になった人」の言いわけが蔓延すると、子育てで経済的に苦労した母親は犯罪をしないと生きていけないことになり、しのぶセンセのような若い女性はどんどん結婚や出産をためらう結果になるだろう。犯罪を子供のためにする人はそこをどう考えているのか。
もし杉下右京だったらそれも言うだろう。「こちらのしのぶセンセが今後、結婚してお子さんを産んだとして、しのぶさんは貴女(犯人)のような犯罪者にはならないと、私は思います」と言ったに違いない。
特に「子供」「次の世代」は前述のように「印籠」になりやすい。
がれき拒否も「子供のため」、原發反対も「子供のため」。
消費増税で苦労する人たちも「子育てが大変だ」と言って増税に反対するであろうが、野田内閣も「次の世代に負担を負わせないため」に今の世代が負担すべきだと言っている。
それから子供を持つ人の傾向として、自分が子供のころに楽しんだはずのアニメや特撮、漫画についても、親になると「子供の教育によくないのでは」という尺度で考えるようになることだ。子供がアニメや特撮などを見ているとき、別に勉強しようと思って見ているわけではあるまい。『水戸黄門』など大人の教育によくない可能性もある。
『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の監督の一人は『7PM』で、様々な深読みに対し「本当のメッセージは『楽しんでください』ということだけ」と述べていた。
そういえば『ハンチョウ5』最終回で田村亮が演じた犯人も「子供たちのため」を免罪符にしていた。
9時前のNHKは夏の甲子園のニュース。木更津総合の國廣投手は画面で非略字だった。
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2012年8/13
関連語句
浪花少年探偵団(twilog)
参照
(2012年8月29日07時58分 読売新聞)