公式の史料では水戸黄門こと徳川光圀は関東からほとんど出ていない。
ドラマの全国行脚は虚構であるが、あれは「越後のちりめん問屋の隠居・光右衛門(光衛門)」の旅と言うのが建前で、從って公式には記録されていなかったのかも知れない。

しかし、その代わり、水戸老公の気まぐれな旅に使われた路銀は計り知れない。
綱條公の時代に水戸の財政が逼迫し、破綻寸前になったとすれば、それは極秘におこなわれた光圀の漫遊のせいであろう。

なお、ドラマにあるように訪れる先々で光圀が印籠をひけらかしたのでは身元が日本全国にばれてしまう。
本来は身分を隠したまま通り過ぎ、不正を見つけたらさりげなく現地の藩主に報告するか、江戸に戻ってから綱吉に報告するのが得策である。

『必殺仕置人』における仕置人の存在を証明する記録、古文書の類は一切残っていない。
鳥居耀蔵は1844年に失脚して四国の丸亀藩に送られて明治維新以降まで生きたことになっているが、「本当」は仕事人によって暗殺された。井伊直弼は1860年に桜田門外で水戸や薩摩の浪士隊によって暗殺されたことになっているが「本当」は中村主水によって暗殺された。これが必殺シリーズが想像(創造)する裏の歴史である。
鼠小僧(ねずみ小僧)次郎吉は1832年に処刑された建前だが、極秘に助けられて奉行の密偵になったという解釋が『八百八町夢日記』の世界である。

ところで、印籠や駕籠の「籠」は「竹+龍」だが、ネットで見かけた朝日新聞の記事の「灯篭」はなぜか「竹+竜」であった。では「印篭」や「灯籠」では間違いか。
「灯籠」の場合、中国では「燈籠」または「灯笼」であろう。