「卒業」(下注釋)という曲で尾崎は「♪行儀よく真面目なんてできやしなかった。夜の校舎窓ガラス壊して回った」と歌ったが、本当の犯罪者なら昼でも建物のガラスを割るだろうし、今では在校生でも放課後、学校に戻ることはできない。防犯のため授業が終わると学校は閉門となることが多くなっているからだ。
日本でも東北大地震のあとに火事場泥棒があり、パトロールが強化されているが、他国ではカメラの前で群衆が建物のガラスを割るような略奪をするわけで、尾崎豊の歌ではまだ「後ろめたさ」があるということだ。

そもそも今回の被災者の中で中学生は家を破壊されながら避難所となった学校で卒業を迎えている。「学校や家に帰りたくない」人は地震で被災すればその「夢」が叶うのである。また避難所となった体育館に来ている大人、高齢者は家を津波に奪われ、学校はとっくに卒業し、学校を一時的な住み家にしている。

「15の夜」の主人公はバイクを盗んだが、闇の中の自販機を盗むことはしない。海外であればバイク盗難もあるだろうが自販機などあったらすぐ盗まれてしまう。外国人から見ると日本の自販機は飲み物と大量の金銭が入った箱が路上に放置されているような物らしい。日本はまだ治安がいいほうである。そんな日本でもATMがまるごと盗まれる事件がたまにあり、防犯カメラは何も防犯をしていない。

実際の尾崎豊は高校生のときにデビューし、中退して、卒業式の日にデビューライブをしたらしい。学校からは抜け出せたが、家がなければ生きていくにも難しかっただろう。まさか尾崎豊がネットカフェ難民だったわけでもあるまい。
彼はミュージシャンという社会人になって、テレビの歌番組にはほとんど出ず、ラジオの深夜放送やコンサートで人気を集め、昭和の末のJ-POPを支えていたわけだ。没後もファンを増やし、レコード会社に多大な利益をもたらしている。没後20年目がこれまたテレビ局にとっても商賣になっているわけだ。
しかも尾崎豊は存命ならば立派な一児の親で、「Scrap Alley」にある「♪俺がいくつになると子供はいくつになる」という話をしていただろう。妻子持ちで死後も金を稼いでいるミュージシャン・尾崎豊は確かに偉大であろう。

なお、尾崎豊は1965年生まれで尾崎裕哉は1989年生まれであるから単純に生まれた年同士で引き算すると24歳差である。2010年で尾崎豊は45歳、裕哉は21歳、2011年でそれぞれ46歳と22歳である。

ちなみに『1リットルの涙』の木藤亜也氏は尾崎豊より3歳年上の1962年生まれで、1988年に他界したあとも著作が賣れて、2005年の映画、ドラマもあって文庫化された著作も賣れ、立派に「仕事」をしていた。
ドラマ版の池内亜也は1989年生まれ、尾崎豊の息子と同い年である。

家も学校も職場も戸籍も失ったままで放り出された被災者が「自由」かどうか、考えてみる必要がある。

『金八先生』に出てくる不良は毎回必ず学校に来ていた。その意味ではまだ偉かった。
むしろ普通の大人しい子が不登校に走ることのほうが問題であろう。
ただ親が金を拂って子供を学校に通わせるのもあとになっての話で、江戸時代は寺子屋があったものの、武士や商人の子供は家を継ぐので家で学ぶこともできたはずだ。
明治時代に近代的学校制度が確立されたとき、親たちは子供を学校に取られるより家で仕事をさせるほうがいいと考えたか、学校に抗議する血税一揆をやったらしい。

今の日本では女性が妊娠、出産すると解雇されるようで、また産休後、仕事に就こうとしても断られるケースが多いようだ。子供が育っても就職できるとは限らず、何かというと内定取り消し。教育費がかかって、親も子も仕事を失うような社会では少子化は必然で、冷戦崩壊で社会主義が崩壊したようだが、資本主義もろくな制度ではない。
今の日本で共産党の赤旗が部数を増やしているようだが、これも当然だろう。
共産主義と学生運動とフォーク、ロックもこれまた縁があるだろう。

もし尾崎豊が存命であれば、むしろ10代のときとは逆に、家や職場や学校を失った人たちの悲しみを歌い、格差社会への怒りを歌詞にしたであろう。
不良少年がそのままオヤジ歌手になった一人として泉谷しげるがいる。泉谷は忌野清志郎率いるRCサクセションの『COVERS』にも参加していた。

2013年4月26日付の朝日新聞で「尾崎豊 ピンとこない」という記事。今の高校生は尾崎豊に共感しないらしい。
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2011年2/26 2月 3/26 3月

関連語句
尾崎豊 近現代 1965 尾崎豊 1983 尾崎豊 20年 尾崎豊
尾崎豊 卒業 歌(twilog)


注釋
「卒業」
これをタイトルにした歌は数多い。
尾崎がこれを出した1985年前後でも菊池桃子の「卒業-GRADUATION-」、斉藤由貴の「卒業」、倉沢淳美の「卒業」などがあって混乱した。
このほか、「BELIEVE」「JEALOUSY」「FOREVER」も同名異曲が多いが、渡辺美里と岡村孝子は「BELIEVE」と「卒業」の両方を歌っている。


参照
「卒業」というタイトルの歌
2011年3月(古代史、藤子、時代劇、近現代~未来、スポーツ、世界史)