『ミナミの帝王』というドラマがあるようで私はまったく知らなかった。
それで今まで竹内力が演じていた主人公を千原ジュニアが演じることになったようで、自分は竹内力についても千原ジュニアについても、この記事で名前を初めて知った。

大阪市内の会見で千原ジュニアが「違和感しかないです……大変なんですよ~」「ドラえもんの声が変わってもうだいぶ経ちますけど、まだ慣れないですから。もともとあったものなので、多くの方がそういう違和感を持たれるでしょうから」とコメント。
ここでどうして『ドラえもん』の名前が出るのかまことに不思議であるが、要するに『ドラえもん』の2005年の声優交代で前から観ていた人が違和感を感じたようで、それと同様、『ミナミの帝王』の主演交代でも前から観ていた人が違和感を持つだろうということだろう。
それなら前のを観たことがない人をファンに取り込んで増やしていけばいい話だ。

また、この場合、千原ジュニアは竹内力が演じてきた役を継承した側で、千原の使った比喩で言えば、ドラえもんの声を大山のぶ代から受け継いだ水田わさびと同じような立場である。
そうなると千原ジュニアは『ドラえもん』の声優交代を批判しているのか、それとも今の声優陣に同情しているのか。そこは記事でははっきりしない。

ここで重要なのは竹内力と千原ジュニアの生まれた年である。
竹内力は1964年生まれであるから、てんコミ第2巻『ドラえもん』の「ぼくの生まれた日」におけるのび太と同い年であり、真矢みき、温水洋一(ぬくみず~)も1964年生まれだ。
一方、千原ジュニアは10歳年下で1974年生まれであるから、水田わさびと「同い年」である。

大山のぶ代と水田わさびは40歳近く離れてるのに対し、竹内力と千原ジュニアは10歳差。大山のぶ代は2001年ごろから病気がちになって降板したが、竹内力はまだ現役の役者だろう。
また『ミナミの帝王』は大人向けに近く、子供が対象の『ドラえもん』とは性質が違い、『ドラえもん』は前の声優の時の視聴者が離れても問題ない。

千原ジュニアは1973年の日本テレビ版『ドラえもん』のときは生まれていなかったので日テレ版を知らない世代である。しかも6歳のときに『ドラえもん』のテレビ朝日版が始まったので、完全の大山のぶ代の声のドラえもんで育った世代。だから彼が「もともとあったもの」と言うのは子供のころからドラえもんが大山バージョンだったことによる世代的な理由であろう。

そうすると水田わさび、大原めぐみ(1975~)、かかずゆみ(1973~)、関智一(1972~)は千原ジュニアとほぼ同世代で、1979年4月から2005年3月までの『ドラえもん』の影響力をよく知っており、その意味では先代から声優を引き継いで、前からのファンから「違和感がある」と言われるのは百も承知、覚悟の上だっただろう。
しかし、前の『ドラえもん』をまったく観たことがない人が今後、映画やテレビの『ドラえもん』を観ていけばいいので、前から観ていた人が観なくなっても気にすることはない。
この世代は日テレ版の記憶がないだろう。

一方、林原めぐみ(『ワンニャン時空伝』イチ)と三石琴乃(2005年春以降、野比玉子の声)は1967年生まれで、6歳のころに日テレ版を観たかどうかという世代であるが、1979年当時は12歳だったので、およそ6歳から12歳までの小学生時代はほとんどアニメ抜きの原作『ドラえもん』で育った世代になる。

日テレ版の時代から観たファンはむしろ1979年当時に大山のぶ代の声に違和感を感じた分、2005年の交代を冷静に受け止めている。

日本テレビでは最初が富田耕生の声で、後半でいきなりドラえもんの声が野沢雅子に変更し、ドラえもんの性格も変わった。富田ドラえもんは猫であって猫でない葛藤をかかえていたが、野沢ドラえもんは楽天的で少し意地悪であった。さらに日本テレビ版を観た世代にとって、テレ朝、シンエイ動画のドラえもんが大山のぶ代の声で話したときにも違和感を感じたわけだが、すでに日テレ版から6年が経過しており、日テレ版を観た世代はテレ朝版開始と前後して中学、高校へ進んでいった。

こういった時代を目の当たりにしていた世代にとっては、32年後の声優交代など大した問題ではない。
一方、千原ジュニアはその日テレ『ドラえもん』を知らない世代なので、この世代にとって2005年のリニューアルが、生まれて初めて経験する『ドラえもん』の改変であったわけだ。
だから免疫ができていない。
この世代にとって違和感がなくなるにはあと10年は必要かも知れないが、そんな「大人」が児童アニメ『ドラえもん』をまだ観るかどうかを考えれば、違和感はさして重要ではない。

例えば2000年生まれの濱田龍臣は2005年当時5歳、2001年生まれの加藤清史郎は2005年で4歳、2004年生まれの芦田愛菜は2005年当時1歳。
彼等の世代が今の『ドラえもん』を観るとき、果たして2005年春以前の大山のぶ代の声のドラえもんを記憶しているかどうか疑問である。
今の『ドラえもん』の声優もスタッフも今後はこの2000年代生まれの世代を相手にしていけばいいのである。

『江~姫たちの戦国~』について「『のだめ』のイメージが抜けない」という意見がネットにあるが、『のだめカンタービレ』をまったく観ていない人には関係ない話で、むしろ10歳の少女である江を24歳の上野樹里が演じ、その江姫が信長や光秀に意見を言ったり、家康の伊賀越えに参加したりするなどの脚色が目につくだけである。この場合は秀吉の晩年までは3姉妹を芦田愛菜や大橋のぞみのような子役に任せてもよかったところである。3姉妹が子役であれば、例えば伊賀越えや清洲会議などあちこちに江が顔を出す描写もなくてもよかったわけだ。