『最後の忠臣蔵』に関するオリコン電子版12月8日付の記事によると、寺坂吉右衛門を佐藤浩市が演じ、大石良雄のむすめ・可音を桜庭ななみが演じ、佐藤によると桜庭は『忠臣蔵』を知らなかった模様。

 

個人的に『忠臣蔵』は時代劇で知ったところが多く(下注釋)、学校の日本史で教わった記憶はないので、時代劇に関心がない人は知らない可能性がある。

 

東山紀之が浅野長矩を演じた『忠臣蔵』を見ていたとき、自分の叔父、叔母、從弟と從妹の一家がやってきてその家ではこういう時代劇は観ないと言っていた記憶がある。

 

桜庭ななみは1992年10月生まれで、成海璃子と同世代であり、2010年度で高校3年生。
関心がなければ『忠臣蔵』は知らなくても無理はない。

 

『最後の忠臣蔵』は日米同時公開のようだが、47人の男が大勢で人家に押し入って老人の首を切って行進する映画など、アメリカ人がどう観るか気になる。
『忠臣蔵』は日本人の「一般教養」かも知れないが、元禄赤穂事件は浅野と大石が同じ被害者(吉良)を襲って殺した二重犯罪であり、浅野長矩は職場で同僚(または上司)である吉良上野介に刃物で切りかかった殺人未遂の犯罪者であり、大石良雄以下47名は同じ相手である吉良を殺害した殺人犯。

 

日本人が赤穂浪士を英雄視し、それを「日本人の心」などと言うようでは、日本の平和主義など世界では受け入れられないだろう。

 

討ち入りに参加して切腹した赤穂浪士は大東亜・太平洋戦争なら戦死した志願兵のようなものである。討ち入りに参加しなかった赤穂浪士が「不忠者」とされるのは、昭和の時代で言えば徴兵拒否して戦後生き残った人は「非国民」とされるようなもので、「四十七士」を美化するのは「軍国主義」である。
そうなると日本人の平和主義は昭和の戦争の否定だけであり、それ以外の時代になると戦争や玉砕を美化する傾向があるわけで完全に矛盾している。

 

もちろん討ち入りに行かなかった赤穂浪士こそ、現代の日本の価値観で言えば勇気ある平和主義者である。
その意味でビートたけしが大石良雄を演じ、緒形拳、高嶋政伸が出演した『忠臣蔵』は討ち入りから抜けた側を擁護する意見もあって、注目に値する。

 

里見浩太朗が大石を演じた『忠臣蔵』では西郷輝彦が演じた毛利小平太がぎりぎりで討ち入りに参加できず、その事情が描かれていたようだ。
大石も他の討ち入り参加組も小平太を責めてはいないようだったが、もし世間が討ち入りをした47名の殺人集団のほうを英雄視し、犯罪に参加しなかった残りの赤穂浪士を批判するのであれば、日本人には倫理も平和主義も存在しないことになる。

 

なお、田村正和も別の作品で大石を演じるようだ。
一度、吉良義央を主人公にした時代劇を大河ドラマか映画で作ってほしいものだ。

 

江戸時代は免状をもらえば仇討ちが合法だったが、赤穂浪士がやった吉良邸討ち入りは仇討ちではない。吉良義央は浅野長矩を殺しておらず、逆に浅野が吉良に刃物で斬りかかったわけで、吉良は被害者である。
浅野長矩の家臣であった大石良雄が浅野の仇を討とうとするなら浅野に切腹を命じた徳川綱吉を討つのが筋である。それが当時としては不可能なら赤穂浪士は仇討ちなどできなかったし、実際にやってもいないわけだ。

 

12月11日の『世界ふしぎ発見!』によると吉良邸のある地元では吉良義央は名君であり、赤穂浪士による討ち入りは討ち入りでなく「元禄事件」と呼ばれるらしい。「元禄赤穂事件」は47人の浪人が人家に押し入って住人を殺傷した犯罪であり、島原の乱や大塩の乱のような歴史上の政治的な意味もなく、学校の歴史で細かく教えるようなものではない。大石良雄を初めとする犯罪者による違法行為である。
それを人々に傳えるのはまさに芝居やテレビドラマ、映画の仕事ということになる。
公的には浅野長矩、大石良雄は犯罪者であり加害者、吉良義央は無実の被害者であり、犯罪者である赤穂浪士47名を英雄とする『忠臣蔵』は教室や教科書で教えるようなものではない。

 

 

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2010年6/21 12/9 12/10

 

関連語句
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注釋
時代劇で知ったところが大きく
まず『巨人の星』のKC第5巻(文庫第3巻)で星飛雄馬が巨人の入団テストを受ける場面があり、星飛雄馬のテスト生としての背番号が47番で、花形がこれを赤穂四十七士になぞらえた。そこで記者が川上監督を吉良上野介の立場だと言った。この場面が『忠臣蔵』を知った最初だと思う。
『いじわるばあさん』でも『忠臣蔵』の松の廊下をネタにした話があった。
その後、『ヤッターマン』で『忠臣蔵』のパロディーを観た記憶があり、改めて調べてみると第104話「イヤ王だコロン」で、1978年の作品であった。この前後、NHK大河ドラマでは1975年に『元禄太平記』、テレ朝で大佛次郎原作の『赤穂浪士』が1979年に放送されており、1982年にNHK大河『峠の群像』が作られた。
個人的に意識して本格的に観たのは1985年、日テレの『忠臣蔵』(吉良役が森繁久彌、浅野役が風間杜夫、大石役が里見浩太朗)で、日テレの『長七郎』『松平右近』、TBSの『水戸黄門』『大岡越前』『江戸を斬る』などの出演者が集合した豪華キャストが印象的であった。

参照
『最後の忠臣蔵』(元禄)【作品】
『最後の忠臣蔵』(討ち入りから16年後)【作品】
一般時代劇vs必殺シリーズ(2010年12月)