必殺シリーズでは蘭学者が弱者、被害者として描かれ、国学者や攘夷派が悪玉とされることが多い。

シーボルト事件、蛮社の獄、高野長英の脱獄もそうである。攘夷派が複数の人間を大筒の実験の的にしたことは『仕留人』と『横浜異人屋敷』で描かれている。それで開国派だった松平玄蕃頭と井伊大老も仕事の的にされているというのは、開国か攘夷かという思想だけでは判断できない幕末の思想と政治の複雑さを示している。

文政の中村主水が高橋景保の仇討ちをしたのが1829年、10年後の1839年には蛮社の獄で高野長英が捕えられ、そのほかの自殺した蘭学者の恨みを晴らそうとした「からくり人」が鳥居耀蔵暗殺に失敗しグループは壊滅。5年後の1844年、長英が脱獄し、「新からくり人」グループに参加し、直後に天保の主水が鳥居を暗殺。

10年後の1854年にはかつて長英の弟子だった糸井貢が開国派の若年寄を相手にした仕事に失敗して殉職。しかし、その前に糸井の友人が攘夷派で、大筒の試し撃ちの的に囚人たちを使っており、糸井がその男を仕事の的にした。

『暗闇仕留人』の最終回では1854年、北町奉行所同心・中村主水が当時の開国派の若年寄・松平玄蕃頭(まつだいらげんばのかみ)を暗殺。
└→『暗闇仕留人』最終回に関する疑問点

徳川家慶から家定の時代にかけて若年寄だった人物を調べると、松平忠篤が1838年から1854年まで在職している。
ネットで検索しても Wikipedia のコピーばかりで新たな情報はなかなか見つからない。

1853年の最初の黒船から10年たった1863年、幕末の主水の相手はまた攘夷派の松平主税介(演:中尾彬)で、依頼人はまたしても大筒の試し撃ちの的にされた人たちの一人・平木武兵衛(演:原田大二郎)であった。主水は1860年に開国派の大老を暗殺して3年後、今度は攘夷派の大老を暗殺したことになる。1863年は薩英戦争の時期であり、江戸時代成立から260年後のことであった。

仕事人にとっては相手が攘夷でも開国でも関係ないということであろう。

なお、黒船来航の2年前、1851年に主水が水野忠邦を暗殺しているが、この主水は小屋の爆發事故に巻き込まれており、1853年の黒船来航当時の主水とは別人であろう。

改革派_____ ←→ 反改革派
徳川吉宗/善玉_ ←→ 徳川宗春/悪玉
大岡忠相/善玉_ ←→ 山下幸内/敵役(悪玉?)
松平定信/不定_ ←→ 田沼意次/悪玉(『剣客商売』では好評価?)
________ ←→ 徳川家斉/不定
水野忠邦/悪玉_ ←→ 徳川斉昭/善玉(『江戸を斬るII』)
鳥居耀蔵/悪玉_ ←→ 遠山景元/善玉

開国派_____ ←→ 尊王攘夷派
松平玄蕃頭/悪玉 ←→ 「試して候」の攘夷派/悪玉(『暗闇仕留人』)
井伊直弼/悪玉_ ←→ 徳川斉昭/善玉
坂本龍馬/善玉_ ←→ 

新撰組は幕府側だが悪人としては描かれないことが多い。
『篤姫』では井伊直弼はそれほど悪人としては描かれず、暗殺される直前、天璋院との茶室での会談で己の信念を述べていたようだ。

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2010年10/20