江戸時代の髪型で月代を剃らないのが総髪である。

時代劇で医者が総髪でを結っている。
『大岡越前』の榊原伊織も新三郎もそうだった。
高野長英は肖像画を見るとスキンヘッドだが、『新必殺からくり人』では総髪であった。
『暗闇仕留人』に登場した糸井貢は長英の弟子で、貢も総髪だった。

Wikipedia によると、この医者の総髪は時代考証の誤りで、医者は僧侶と同様、坊主頭だったらしい。
それは戦国時代、医者が戦場に動員されたときから、戦闘員と区別するために医者(軍医に相当)が坊主頭にしていたことによる。
確かにNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』でも薬師は坊主頭だった。

すると『仕掛人藤枝梅安』で梅安が坊主頭なのは史実に忠実ということになる。

必殺シリーズでは坊主頭の医者は梅安と鉄くらいで、念仏の鉄は『新必殺仕置人』の後半から髪が伸びて正八と同じ散切り頭のような髪型になった。

一方、このシリーズで総髪の医者兼仕置人または仕事人はやいとや又右衛門、前述の高野長英(肖像画では坊主頭)、歯医者になったあとの西順之助がいる。
鳴滝忍は女医だから総髪は当然である。

こう考えると梅安と初期の鉄の坊主頭が史実に忠実ということになる。

梅安の坊主頭は鉄、大吉(『仕留人』)、印玄、左門(『仕事人』無印後期)、大吉(『渡し人』)に受けつがれた。
坊主頭の仕置人(または仕事人)の流れでは、梅安の針の技は鉄の骨外しを経由し、東洋医学と無関係の力技になった。
坊主頭のキャラクターでは『助け人』の辻平内だけが梅安と同じ坊主頭で、しかも煙管に仕込んだ針を使っていた。

もう一方で、梅安の針の技は、坊主頭の辻平内以外では、もっぱら総髪や散切り頭の仕事人に受けつがれ、この流れを受け継いだのが、糸井貢のかんざしと仕込み矢立て、おせい(『仕事屋』)のかんざし、市松の竹串、又右衛門の針、新次(『商売人』の梅宮辰夫)の櫛、唐十郎(『からくり人富嶽百景』の沖雅也)の釣り棹、秀と坂東京山のかんざし、惣太(『渡し人』の中村雅俊)の手鏡の柄、経師屋の涼次の針などである。

やいとやが使う針は火種で熱くなっており、普通に持ったら熱すぎるはず。
念仏の鉄が使うような手袋を使うのが打倒だ。

必殺シリーズは月代を剃った髷の姿は少数で、総髪や散切りが多い。このシリーズがほかの時代劇と異なる作品であることを視聴者に訴えているのだろう。
『影の軍団』で千葉真一が演じた忍者の頭(かしら)も総髪(僧に化けたときは坊主頭に近い)であった。

なお、沖雅也、三田村邦彦、京本政樹はどちらかというと総髪か散切りの役が多く、必殺では特にそうである。

『JIN-仁-』で南方仁が幕末にタイムスリップしたとき、和服に着替えて総髪にしていたが、本当にあの時代に溶け込むには坊主頭のほうがよかったことになる。

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2010年7月 7/30