『ドラえもん』における1970年代

1974年『小三』3月号に掲載された「さようなら、ドラえもん」はてんコミ第6巻末に掲載されている。
これは何度も観たのだが、のび太がジャイアンに喧嘩をいどみ、何度殴られても立ち上がる姿を最近、改めて観て、『あしたのジョー』で矢吹丈が力石やホセと闘った場面を思い出した。

『ドラえもん』は1970年代初めに設定の基礎が固まった作品である。
レジ袋もなかった時代、買い物は買い物カゴ、おなじみのタイムふろしきは野比家の白黒テレビを新品にするためのものであった。
土管が3本ほど置かれた空き地も70年代の風景だったのだろう。
『巨人の星』『あしたのジョー』『タイガーマスク』『空手バカ一代』『侍ジャイアンツ』『柔道讃歌』といった梶原スポ根漫画と同時代の作品が『ドラえもん』であった。
『帰ってウルトラマン』以降のウルトラシリーズ、さらに『仮面ライダー』も『ストロンガー』まで続いた。

水島新司の『男どアホウ甲子園』は1970年前後の学園紛争時代をそのまま野球漫画に取り入れたようなもので、1972年スタートの『ドカベン』も初めはガキ大将の喧嘩を描いた漫画に近かった。

『ドラえもん』はそういう時代の中で他のスポーツものやヒーローものと闘ってきた漫画である。
アンチテーゼではあっても、周りの作品の影響を受けないわけがない。
1973年の日テレ版のアニメでは、ドラえもんは異型の存在で、しかも秘密道具を武器にしてのび太を助けるヒーローに近い描かれ方であった。それは日テレ版のエンディング主題歌に現れていた。

このような時期、藤子・F・不二雄は1974年春に『ドラえもん』を終わらせながらも、この作品から離れられず、1974年4月号の『小四』掲載の「帰ってきたドラえもん」で復活。
小学館学習雑誌で『バケルくん』『みきおとミキオ』も始まり、他社の『こどもの光』で『キテレツ大百科』も始まった。
また、小学館学習雑誌も『コロコロコミック』創刊と前後してウルトラシリーズのコミカライズなどを掲載、『ドラえもん』もその中で掲載されていた。『ゴレンジャー』が始まったときも番組の特集と漫画版が掲載されていた。
そうなると1970年代の『ドラえもん』が当時の漫画界、あるいは子供文化の影響を受けていたことがわかる。
「糸なし糸電話」は携帯電話がなかったころの「秘密道具」であった。

つまり西暦何年生まれかという点で言えば、1980年代ののび太は原作初期の1970年代ののび太とは「別人」である。
原作第1話ではのび太は1979年に大学受験、1988年に会社を初め、1995年にはジャイ子と夫婦で借金苦をかかえ、妻が静香に変更されたあとは2002年に息子ノビスケと3人でアパートに住んでいるはずだった。
テレビ朝日のアニメはこういった近未来に放送され続けた番組である。

『ドラえもん』が1980年代になってヒット作となって続いていったとき、正直なところ「いつまで続くのか」という気がしていた。
てんコミ第2巻で1964年生まれと定められたのび太は1982年で18歳、1984年で20歳のはずだ。
すると1980年代の『ドラえもん』は1970年代半ばを描いているのか。
しかし、のび太の少年時代は「竜宮城の八日間」で1982年になり、『のび太のワンニャン時空伝』で21世紀になっている。

『ドラえもん』のアニメは原作回帰と時代への適応という相反する流れの中にある。
のび太の町に空き地と土管があり、コンビニも携帯メールを使う人も余りいないが、のび太の母親が7代だったのは1980年代で、また1910年は100年前で、明らかに時代設定は21世紀初めである。
今は昭和ののび太が大人になり、ノビスケ少年が小学校高学年か中学生、高校生になっても不思議ではない時代である。

もし、『ドラえもん』が時代設定を1970年から1975年までの5年間に戻してリメイクされたら、それはそれなりに説得力を持つ作品になったであろう。
21世紀初め、大人になったのび太が35年前を回想するという形の『ドラえもん』であれば時代設定の矛盾も生じなくてすむだろう。

@FujikoF_bot 「ドラえもん」は基本的に1970年代の小学生の日常を描いているが、空き地の土管、買い物カゴなどがそのままで、時代設定が1980年代、90年代に移行していた。作者没後、今のアニメ「ドラえもん」の時代設定は21世紀。
12:15 - 2014年12月15日
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