テレ朝では松方弘樹版で『名奉行遠山の金さん』、北大路欣也版で『名奉行!大岡越前』でいずれも「名奉行」がついていました。

吉宗の享保の改革の時代___家慶の天保の改革の時代(時代設定)
『大岡越前』_________『江戸を斬るII』______ TBS
『暴れん坊将軍』____________________ テレ朝
『名奉行!大岡越前』______『名奉行遠山の金さん』___ テレ朝

●「史実」の場合●
史実の大岡忠相と遠山景元の場合、どのような裁きをしたかよくわからない限り、甲乙つけられません。
大岡忠相の場合、1717年に41歳という当時としては若い年齢で町奉行になり、これも当時34歳の吉宗による大抜擢。忠相は町奉行を1736年まで約20年つとめ、寺社奉行になりました。

遠山景元が町奉行だったのは徳川家慶の時代で、北町奉行を3年(1840~1843年)、大目付になったあと、南町奉行を7年(1845~1852年)つとめました。テレビで見られるような活動はすべてフィクションであり、彫り物も桜のデザインだったとは限りません。

井口朝生『徳川吉宗』(成美堂出版)を見るとわかるように、時代劇で馴染みのある設定は他の奉行の話を流用したのが多いようです。

吉宗による享保の改革は肯定的に評価されることが多く、忠相はそれをサポートしたわけですが、家慶の時代の水野忠邦と鳥居耀蔵による天保の改革は悪政とされており、その反動で景元が英雄化されたようです。
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●時代劇の設定の場合●
時代劇の設定では普通の裁きをした大岡忠相が名奉行でしょう。

遠山景元はの場合、あの桜吹雪を何度も見せるやり方は奉行として失格です。つまり裁判官が目撃者を兼ねていたということであって、逆に奉行がいつも町人姿で現場に行かないと何も解決できない。与力、同心、岡っ引き以下、役立たずだったことになります。

それに公務員である奉行が桜の彫り物をし賭場に出入りするなど、本来は恥ずべき行為です。これが当時ならどういう懲罰に値するかわかりませんか、切腹に近いかよくて謹慎処分を受ける失態かも知れません。も今なら懲戒免職ものです。
それにうしろで記録していた役人はいつも何を書いていたのでしょうか?

『新必殺仕事人』の中村主水は同心の立場でバクチをして田中様から猛烈に怒られていました(スペシャル版『秘拳三日殺し軍団』の主水は平気で賭場に入っていましたが、パラレルワールドか何かの別人とも考えられます)。

「奉行による隠密捜査」の世界は「警視総監」が身分を偽ってテロリスト組織や振り込め詐欺組織、麻薬密輸組織に入り込み、内部情報をようやくつかむようなもので、一種のおとり捜査であり、それも通常の方法が破綻したときに国家がやむを得ず選ぶ超法規的措置でしょう。

したがって奉行が町人に化けて捜査をし、桜の彫り物を下手人に見せるのは、奉行の職を賭けた一世一代の大バクチであり、人生に一度あるかないか、奉行所や火盗改めや大目付などではどうにもならない恐怖の犯罪集団を相手にするときの非常手段であるべきです。

通常、裁きだけなら与力がやってもいいし、賭場の探索は岡っ引きの仕事でしょう。『オトコマエ!』で柴田恭兵が景元を演じていますが、事件の捜査をするのは与力以下、若い部下たちでした。

その意味でTBS『大岡越前』で加藤剛が演じた忠相は普通の裁きをした名奉行と言えます。
テレ朝『暴れん坊将軍』で横内正や田村亮が演じた忠相もまあ細かい疑問を除けば普通の奉行でしょう。
テレ朝で北大路欣也が演じた忠相は名奉行というより、人事ミスによる悲劇の奉行でした。

●テレ朝『名奉行!大岡越前』(北大路版)●
北大路版の忠相の場合、自ら管轄する南町奉行所で誤認逮捕が相次ぎ、奉行自身が身分を隠して市内を探索し、事件の真相を探っていました。現場の警察官が逮捕した容疑者がいつも犯人かどうか疑わしく、そのたびに警察署長が自ら身分を隠して町で聞き込みをするなど、警察にろくな人材がいない場合だけでしょう。組織全体の改革が必要で、こんな警察署(奉行所)に首都(江戸)の治安は任せられません。

北大路版『越前』で奉行所の人事決定権が奉行にあったのかか幕府にあったのか不明ですが、もし幕府が決めた部下であれば、北大路版の忠相はプロ野球の監督で言えば、親会社によって決められた各コーチが役に立たずにチームが負け続けるような苦悩を抱えていたことでしょう。

『越前』に『金さん』の要素を入れた結果、中途半端な作品になってしまったのが北大路版『越前』の難点です。

補足
ところで、最近、裁判官が判決のあと、余計な説教をするようになったのは『大岡越前』や『遠山の金さん』の悪影響だろうか。場合によってはその余計な付け足しが判決と勘違いされることもある。もし私が裁判員に選ばれたら、余計な説教や感想文は排除し、扱われている案件だけに対し冷静に法律だけによって判断したいものだ。

参考になるHP(間違いもあり)
遠山の金さんはなぜ廃れたか?

このHPによると『ダウンタウンDX』で「大岡越前と遠山の金さんはどちらが名奉行か」という意識調査で大岡越前を推す声が多数だったらしく、これは納得できる。ただ、このHPで「松方弘樹の金さんが評判が悪かった」としているのはこのHPの解説者の勝手な憶測であり、松方弘樹の『金さん』が長期シリーズになっていることから人気番組だったことは明らか。またこのHPの主は松方弘樹の『金さん』をほとんど観ていないようなので、観ていない人の意見は疑わしいものである。特に「松方弘樹が演じる金さんの町人姿のときと奉行のときで言葉遣いがそれほど変わらない」としているのは大間違いで、むしろ松方弘樹は町人姿と武士の金四郎で話し方を明確に使い分けていた。

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2009年12/10