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野球漫画は「野球の学習漫画」なのかI、〃II、〃III


水島新司は野球チームを持ち、自ら野球をやって、それで野球漫画を「野球の学習漫画」と見てしまうのだろう。それで野球漫画によって野球をする子供が増えるかどうか、子供に野球の魅力やルールが正確につたわるかどうかを重視するのだろう。

しかし、野球漫画を読む側は、別にそれで野球を勉強しようと想っているとは限らない。
そもそも、野球漫画を描く人が野球の経験者でないといけない理由はない。例えば山田太郎がやった柔道について水島新司氏は実際に経験があるのだろうか。梶原一騎は柔道の経験があったようだ。
それに『男どアホウ甲子園』と『ドカベン』を学園漫画として観た場合、あのような高校生が実際にいるかどうか疑問である。

例えば『ゴルゴ13』や『必殺仕事人』を観るファンは、決して殺し屋になろうとしているわけではない。
戦国の武将を扱った作品を読む人は、別に戦争をしようとしているのではない。戦争はしないが、戦国の武将が戦った姿を今の仕事や趣味などに置き換えて参考にするのである。昔、『徳川家康』がビジネスマン必読の書と言われ、昔、雑誌『プレジデント』で戦国時代の歴史を盛んに扱ったのも、その意味である。

すると、野球漫画も、野球をまったくやらない人が読んでも何か参考や教訓になるものがあっていいはずだ。
梶原一騎の『巨人の星』は『あしたのジョー』と比較され、もはや、特定のスポーツの種目に留まらないところが評価されている。つまり、『巨人の星』の星一徹、星飛雄馬の生き方は、野球をする人だけでなく、野球を観るだけ、あるいはまったく興味のない人にも参考(または反面教師)になるところが大きいようだ。

一方、水島新司の『ドカベン』はあくまで野球をする側が野球をする側のために描いた漫画のようである。そこで山田太郎や里中智がやることは、野球をする上では役に立つ。清原が山田から四番打者の心得を教わったというように。しかし、『ドカベン』という作品の場合、野球をまったくやらない人にとっても参考になるものがほとんどない。作者が野球漫画を野球をやる人のための野球の手引書と考えているからだろう。

『ドカベン』を読んで参考になるのは野球のルールや技術だけであるが、それは野球をやらない側にとっては単なる知識にすぎない。漫画としての楽しみは岩鬼、殿馬のキャラクターくらいである。しかし、それ以外には得るものはない。

のちに、ちばあきおの『キャプテン』『プレイボール』、あだち充の『ナイン』『タッチ』など、野球を扱った漫画がリアルになるにつれて、私はこういった漫画を読まなくなった。野球をやらない人間が観て面白い野球漫画は『ドカベン』までである。『キャプテン』『プレイボール』『ナイン』『タッチ』では普通の青少年の野球が描かれているのだろうが、そんなものは町のグラウンドを観ればやっていることで、別に漫画で観る必要はない。

漫画は漫画でしかできない虚構が魅力である。