中国の漢族と「少数民族」 

旧ソ連でもアフリカでも民族の区別は政治的に作られたようなところがある。アフリカの「ツチ族」と「フツ族」の区別も昔はなかったらしい(昔、『SAPIO』でアフリカ人が言っていた)。ソ連と中国にまたがるトルコ系のウズベク、カザフ、タジク(タヂク)などの諸民族もその気になれば一つの民族を名乗れるはずだ。支配する側としては少数民族を故意に細かく分裂させることで、反体制で団結されるのを防ぐ効果があるのだろう。

 

また、チベットは民族分布から考えると西蔵自治区だけでなく、青海省や四川の西半分も含まれるので、もし、チベットが独立しようとしても、西蔵自治区だけが独立すると別の分断が生じる。日本でも多くのメディアでは「チベット」というと西蔵自治区だけを地図で強調し、その外側を排除してしまっている。
日本の例で言えば、もし、沖縄が琉球王国時代に戻って独立しようとした場合、鹿児島県に編入されている奄美大島はどうするかが問題になるだろう。
分割して統治するのは国家の常套手段であろう。

 

中国の「少数民族」の中でも少数であるのは3万人、2万人、1万人、あるいは数千単位の人口であるが、日本と比較するとアイヌが2万5000人、在日朝鮮人は60万くらいのようである。
在日朝鮮人が日本に帰化して朝鮮系日本人になるのが、あたかも大事件のように報道されることがあるが、中国の朝鮮族は中国籍で、朝鮮民族であり、中国人としてのアイデンティティーを持っている。
在日朝鮮人は朝鮮や韓国の国籍と民族性を混同しているようである。

 

中国の民族グループは Nationarity と表現されることがあるが、これは「国籍」も意味するので不便である。この場合、「朝鮮族」は Korea Nationarity になる。むしろ、Ethnos、Ethnic Group と呼ぶのが妥当であろう。
英語の Wikipedia では「朝鮮族」は Koreans in China、「トンシャン(ドンシャン)族」は Dongxiang people になっている。

 

朝鮮族と韓国人
南朝鮮の人は「朝鮮」[t∫osʌn] という単語を嫌うようだが、中国の朝鮮族は「朝鮮」Chaoxian という民族名に誇りを持っており、南朝鮮人が中国の朝鮮人を「韓国人」と呼んだら、それは誤りである。そして、これは朝鮮民族内部の対立である。「韓民族」Han-minjok は「漢民族」と同音なので、朝鮮とシナを区別するためには、同音語はよろしくない。

 

南北統一について南が相変わらず「韓民族」に執着しているのに対し、北は「高麗」Koryeo という名称を提案している点では、北の方が世界に対して配慮がある。
ロシアやカザフスタンなど旧ソ連の朝鮮人は「高麗人」Koryeo-in、Koryeo-saram を名乗る。
これはロシア語で「朝鮮」がКорея(=Koreja、j は半母音)、「朝鮮人」がкореец(=korejets)であることの影響もあるだろう。
└→中国の朝鮮族にとっての「朝鮮」

 

名前の日本語読み
漢字論原点回帰IIでも触れたが、在日朝鮮人は名前の漢字を日本語音読みされることを嫌う傾向があり、これは在日朝鮮人だけの特殊な例であり、朝鮮民族全体がそんなことを言っているわけではない。

 

中国の「少数民族」には朝鮮人、モンゴル人、ロシア人もいる
「中華民族」とは中国国内の56の民族の總称であるが、その中には中国籍の朝鮮人、モンゴル人、そして旧ソビエトの国々に同族がいるはずのロシア人、カザフ人、キルギス人、ウズベク人、タタール人もいる。それらの民族は、国籍が中国であれば「中華民族」で、国籍が朝鮮、モンゴル、ロシアのような別の国であれば「中華民族」ではないらしい。
こうなると「中華民族」とは「中国国民」の言い換えのようであるが、昔から文化的、歴史的に同胞となるよう運命づけられたように想わせる効果が「中華民族」にあるのかも知れない。

 

日本で「中華料理」を「中華」と略して「中華を食べる」などと言うが、これは原義からいうとおかしい(可笑より奇怪に近い意味か)。

 

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