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『空想科学読本』

著者個人の趣味による研究対象の偏り
(プロレスの話題のしつこさ、梶原作品が多く水島作品が少ない点など)
『空想科学読本』は確かに面白いのだが、それでも柳田理科雄氏個人の趣味が大きく反映されており、円谷作品を扱った内容が非常に多い点、さらにプロレスなど、格闘技の話が多すぎて、格闘技に関心のない読者としては、しつこすぎるように想えるところが目立つ。
また、野球漫画に関しては『巨人の星』を盛んに取り上げながら、『ドカベン』に関しては2010年9月までの時点で2回だけ(『空想科学[漫画]読本』『空想科学読本9』)という状況で、梶原作品を重視する一方で、水島新司作品を軽視しているように見える。

柳田氏が水島作品に触れたのは『[漫画]読本』で岩鬼の打球の威力について計算した回だけのように見える。そのあとは『科学読本9』で岩鬼の葉っぱに触れた程度。
柳田氏は『新巨人の星』の“ビッグ”ビル・サンダーの巨大な手でバットを握ったら打ちにくいということを『空想科学[漫画]読本2』で実証しているが、一方で、『ドカベン』の雲竜が同様の巨体であることに触れていない。雲竜も片手でバットの4分の1~3分の1を占領してしまう。

また、大リーグボール3号に関してバットの風圧について検証しているが、『ドカベン』でも中学時代の山田が長島の直球を空振りしたとき、バットの下をくぐったボールが風圧に押されて、本塁真上で停止し、そこから真下に落下したことがある。これは柳田氏が欄外で書いていた「ボールがバットの風圧を最も強く受けるのは、放っておいても空振りする場合だけ」ということを実証するのもだが、柳田氏はまったく触れていない。

さらに、昔の漫画のヒーローの前髪が長かったことについて、柳田氏は『科学読本5』で矢吹丈と花形満という梶原一騎の2大ヒーローを取り上げ、松本零士の『キャプテンハーロック』も取り上げたが、『ドカベン』の影丸、牙(火浦健とそっくり)、赤一郎、青次郎、黄三郎、猛司、渚圭一、香車、『野球狂の詩』の火浦健のような水島新司キャラクターを無視している。『大甲子園』の明訓×白新戦で香車が負傷退場したあと、渚に交代。どちらも前髪が長い男であった。

大リーグボール3号に関して、柳田氏は『巨人の星』最終回で「伴宙太が星飛雄馬を野球地獄から解放した」ということを書いているが、飛雄馬が野球から離れたのは左腕の破壊によるものであって、伴に打たれたからではない。また『[漫画]読本』で伴宙太を「伴忠太」とする誤記も見られた。
└→『空想科学読本』の問題点、疑問点

虚実歴史研究家 @kyojitsurekishi
柳田理科雄さんの場合、質問に応じて「ONE PIECE」や「鋼の錬金術師」も扱っているようですが柳田さんが進んで取り上げた題材はゴジラ・ガメラ等怪獣物や円谷・東映特撮に集中していて、漫画やアニメでは梶原一騎・松本零士作品が多い反面、水島新司・藤子不二雄作品は少ないようです。
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┌2009年1月30日追加

『こんなにヘンだぞ!空想科学読本』
山本弘による『こんなにヘンだぞ!空想科学読本』をBOOK OFFで立ち読みした。柳田氏の論が柳田氏自身の勝手な假定の積み重ねであることは、『空想科学読本』を読めば誰でもわかることだが、それを大發見のように書いているのは余計か、当然か、見方が分かれるだろう。
柳田氏は怪獣の血液の量を体重から計算している。山本氏は『こんなに~』の中でこれを批判しており、これは同感である。ウルトラセブンが巨大化するのにかかる時間も「重すぎる」体重から考えるのはおかしい。

ただ、柳田氏がSF世界を尊重し、自らファンであることは柳田氏の著作を読めばわかるにもかかわらず、柳田氏がSFに対してどういうスタンスの人か、山本氏はよく理解していないようだ。

柳田氏は少なくともSFそのものや作者を批判してはいない。
普通だったら、こういう本のようなことを書く人は、例えば『ウルトラマン』を作った円谷プロのスタッフの科学知識を疑問視したり、『マジンガーZ』の設定を作った永井豪とダイナミックプロを批判したり、『暴れん坊将軍』で西川如見が描いた彗星の軌道を考えたスタッフの科学知識の甘さを批判してもおかしくないが、柳田氏は一切、そういうことをしていない。柳田氏はフィクションの世界に入って、作品の中の人物になりきって、フィクションの中の博士や将軍、学者などを批判している。
そして『空想科学読本』は表紙カバーや前書き、後(あと)書きでも、「こういう空想科学の夢を見ることはいいことだ」というスタンスでいるわけで、決して「こういうSFは嘘の世界だからこんなもの観るな。ちゃんと勉強しろ」などという説教をしているわけではない。

山本氏の書いた『こんなに~』は結局、柳田氏の真意を理解できない作者が表面的な部分を批判しているだけである。その意図は有名になった柳田氏を批判して注目を集めようとしているだけであろう。言わば、山本氏が柳田氏のSFへのスタンスを非難している内容が、そのまま山本氏の『空想科学読本』への態度にもつながるわけだ。

山本氏が描いたような突っ込みは『空想科学読本』の読者ならやっていることで、山本氏は『空想科学読本』の読者が柳田氏の結論をすべて鵜呑みにするかのような前提で、それを防ごうとしているようだ。つまり、山本氏は『空想科学読本』を過大評価しすぎである。

結局、この『こんなに~』も『空想科学読本』の人気に便乗した亜流、類似本の一つと言えるだろう。
そしてメディアでは空想科学の話では相変わらず柳田氏への評価が定着しており、ラヂオやテレビでSFを科学的に考える企画をする際、柳田氏が起用されることはあっても、同じ話で山本氏の「分析」を聴くメディアはどうも見当たらない。そういうものである。



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