1970年(2)――消える魔球、打たれる

『巨人の星』KC16巻、文庫9~10巻「きのうの英雄きょうの敗者」で左門豊作がやったスイング。星飛雄馬の投げたボールが本塁上に届くまでに10往復以上やっていた。

 

 

また、投手と捕手の間はKC17巻、文庫10巻「運命の対決」で「十八・四四メートル」とあるので、本塁上まで18mと假定。

 

 

 

ボールがマウンドから本塁上に届く時間は、作中でかかった時間を時計の秒針で計っても無意味なので、速度から計算する。
野球漫画で速球(速い直球)と呼ばれる時速140km、あるいはハンマー投げの室伏広治選手が野球の始球式で見せた時速130[km]前後を基準とする(それでも室伏の始球式では「速い球」と形容された)。消える魔球の場合、ボールはそれほど速くなくてもいいだろう。

 

 

 

130[km/h]=130×000[m]/(60[分]×60[秒])=130000[m]/3600[s]=36.111……≒36[m/s]
36[m/s]のボールが18[m]進むには2秒かかる。

 

 

 

ちなみに時刻140km(=140[km/h])だとするとこうなる。

 

 

 

140[km/h]=130×000[m]/(60[分]×60[秒])=140000m/3600s=38.888……≒39[m/s]
39[m/s]/18[m]=21.666……≒2.17[s]
39[m/s]のボールが18[m]進むには2.17秒かかる。

 

 

 

左門の身体からバットの先まで1[m]とし、1回のスイングで180度、戻るときに180度として、1往復で合計360度回轉すると假定(厳密には右打者の場合上から見て反時計回りで+180度、次に時計回りで-180度)。
半径が1[m]だから直径2[m]。圓周は2×3.14=6.28[m]。
10往復だと 6.28×10=62.8 で、バットの先が約63m。15往復では約94m動いた。
10往復だとバットの先の速度は63/2=31.5[m/s]、時速にすると113.4[km/h]。
15往復だとバットの先の速度は94/2=47[m/s]、時速にすると169.2[km/h]。

 

 

 

鉄道の在来線の速さのようなものだ。

 

 

 

これを後頭部に食らった伴宙太はだいじょうぶだったのか。

 

 

 

少なくとも、オズマの見えないスイングはこれより速いはずである。

 

 

 

圓周は2πrで、半圓であればπr、90度の扇形の弧はπr/2になる。
半径が1であれば圓周は2πで、半圓はπ、90度の扇形は弧の長さがπ/2=1.57になる。
弧度法は半圓180度を1とする角度の表し方た。

 

 

 

打者がボールを打つとき、ミートまで1メートルのバットを90度回轉させるとする。
ボールが打者の手前に来るまで約2秒、その中間で球種を見定めてスイングを開始するとすれば、角速度は1秒で90度、ω=(πr/2)[rad/s]になる。
バットの先は1秒でπ/2=1.57メートル動く。1秒で1~2メートルといえば歩くようなもの。
時速になおすと5652メートル=5.652キロ。

 

 

 

つまり、普通のバットスイングと左門の地面薙ぎ拂い(ぢめんなぎはらい)スイングの速さの差は、人が歩く速さと鉄道の在来線の違いのようなもの。
左門は九十九里浜で百目蝋燭と波頭を相手にスイングして猛スピードのスイングを会得(ゑとく)した。人間が速く走る訓練をして電車に追いつくようなものだ。

 

 

 

後楽園での非公式の対戦において、原作では花形と左門が先を譲り合っていたが、これは不自然に見えた。アニメでは逆で、花形と左門がどちらも自分が先に打つと主張し、バットを投げて落ちたときの向きで決まった。
アニメでは雑誌に載ったスクープ写真がストロボ映像のようになっていて、球筋に沿ってボールがいくつも写っていた。むしろ、2秒の間にカメラマンが何度シャッターを切ったかが気になる。すさまじいプロの技だが、どう考えてもビデオカメラのほうがよかった。『巨人の星』の時代、ビデオ映像は「分解写真」と呼ばれていた。
もっとも、設定上、牧場春彦の漫画が掲載されている漫画雑誌の誌面なので、ボールの変化の図はカメラマンが撮った写真と記憶によるイラストの合成かも知れない。

 

 

 

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2008年10月 10/29