バルガは作業用クレーンであり、ただデカいだけの置物だとか仏像、開発費の無駄遣いなどと散々言われてきた人型クレーンだ。

実際に現場で使用されたことも無く、リフトで地上に上げる時は大体基地一般開放時の展示程度。動かすにも特殊免許が必要でパイロットの数も非常に少なく運用に難あり、バルガはそんな代物である。

────だが。

現在ではエルギヌス級に対する有効な兵器として日々戦線に降り立ち、プライマーやクルールを文字通りちぎっては投げちぎっては投げと大活躍している。
その機体にもバリエーションが増え専用機のフォースター、人類が持つ最強兵器アーマメントバルガという物も誕生した。

そして今日、

「バルガにレクイエム砲だぁ?!」


「ああ、ついでに……そうだな大型のブラストホール・スピアも搭載したいんだが」


「ダン少尉、アンタとは長え付き合いだがな………俺ぁそういうバカな仕事を待ってたぞ!!野郎共仕事だ!!パンドラの整備は後回しだ!!!!」


「班長!!パンドラは明日までに仕上げないとヤバいんですよ!!?」


「待たせとけ!!おもしれえ仕事が優先だ!」


「大丈夫ッスよ副班長。どーせ、これやんねえと何も進まねえッスから」


「あ゙あ゙あ゙もう……仕方ない………」


もう一機、頭のおかし────とんでもないバルガを作ろうとEDFの愛すべきバカ達────使命感に満ちた男達はやるべき仕事を放りだしてまで作業を開始した。


「さてダン少尉よ!武装はレクイエム砲とブラストホール・スピアだけで良いのか?!」


整備班長が既に運び込まれているダン少尉専用機『バルガ·フォースター』を見上げながら言うと、ダン少尉は「そうだな」と呻いて


「両肩にミサイルも欲しい所だな。後は両足にも付けて欲しい」


ロマン溢れる追加注文を出した。

両肩、両足にミサイルはロマンだ。間違いなく。


「いいねぇ〜!この際だ取り外し出来るようにするか!!おい小僧!!ネグリングの砲台むしってこい!!4つだ!!」


「無理ッス」


「何ィ⁉」


テンション爆上げの整備班長に反して、小僧と呼ばれた若い整備士は愛用のキャビネットの上に載せたノートパソコンを眺めながら答えた。


「積むのは簡単ッスけどバルガには射撃管制システムが無いッスよ班長」


「!!」


若い整備士に言われて班長とダン少尉は互いに顔を見合わせた。

バルガはクレーンであり攻撃手段は打撃のみ。射撃という方法は無いのでそれを管制するシステムは無い。

カスタム機であるフォースターも例外なく射撃管制システムは搭載されていない。

例外であるアーマメントには当然ながら搭載されてはいるが、アレはもはや別格なので種類が違う。

「なんてこったい……」

「仕方ない……では、ブラストホール・スピアだけにするか……」


ロマンが溢れすぎて現実を見ていなかった。

その二人ががっくり肩を落としながら呟くと若い整備員は二人を見ながら「やりようはあるッスよ」と言ってキャビネットごとノートパソコンの画面を二人のほうに向けた。

画面には複雑な計算式や回路の設計図やプログラムらしきものが複数表示されており、一般人が見れば何が何やらと混乱しそうな状態だ。


「ニクスの射撃管制システム流用すれば良いッス。コレこの前デプスに積んでみたら使えたんで少しイジれば動くと思うッス。
あと、ネグのミサイルランチャー積むなら重量ヤベーんで足周りの改造が必要ッスね。
ついでにブラストホール・スピアの使用を想定すると、腕周りの強化も必要だと思うッス」


若い整備士がノートパソコンの画面を指しながら滔々と語った後「まあその辺は俺の専門外なんスけど」と付け加えた。

で、それを見た班長と整備士達は──


「足周りか。よし、それならアーマメントの予備部品で何とか出来そうだな」

「腕はまるごとブラストホール・スピアにしようぜ!」

「これだと出力が足りなくなりそうですね」

「足りねえなら足せば良いだろが!!アーマメントのジェネレーター積むぞ!!ついでだ!カッパー砲とチラン爆雷も積め!!」

当然こうなる。

で、ビークル整備場はEDFの技術屋の溜まり場でもあるので、こんな面白そうな事が始まれば、


「お前らだけで楽しむなよ!俺等にも手伝わせろ!!」

「まずは四脚化!!話はそれからだ!」


デプスクロウラーの整備班や、


「ニクスのような洗練されたビジュアルも必要だと思うんだが」

「スマートさもな、デザインは私に任せろ」


コンバットフレームの整備班なんかも次々加わってくる訳で。

こうなるともはや歯止めは効かない。
新たなパーツがどんどん作られ、奇抜な武器や謎の金属で作られた装甲、どこに付けるのかドリルなんかも作られていく。


そして─────




「クソッ!!この局面でエルギヌスだと!!」

「っ!?大尉!見てください!!」

「なんだぁありゃあ!!?バルガかぁ!!?」

「い、いや、バルガにしてはなんというか………ストーム1が呼んだ……のか?」

「違う、そうじゃない、そんなわけないだろ、バカ言うな」

「ストーム1はニクスアサルトを呼んで居たハズだが………なんなんだコレは………」



アッと言う間に完成したそれはすぐに実戦投入された。ストーム1が要請したニクスアサルトを強制キャンセル(物理)し、整備班とダン少尉でカスタムしたそのバルガは届けられた。もちろんパイロットごと。


『待たせたなストーム隊。エルギヌスは俺とこのバルガクロウラーニクスZXRに任せろ』


地鳴りと共に降りたったバルガクロウラーニクスZXR。

その圧倒的なビジュアルを言葉で説明するのは非常に難しいのだが、あえて説明すると


バルガの胴体の上にニクスの頭が搭載され、両腕部分には巨大なブラストホール・スピアが二つ、そして両肩にはネグリング自走ロケット砲がまるごと2両積まれている。

背部にはカッパー砲が4門と、よく見るとチラン爆雷の投射口らしきモノも見える。

そして下半身は大きさこそ違えどデプスクロウラーと同じ四脚。

しかもそれぞれの足には『おまたせしました凄いやつ』『ロマン一筋五十年』『濃厚爽やかこってり風味』『岡島命』と、やけに達筆で書かれている。


まあ、なんというかこの姿は


「キモイ」

そう、ただただキモイ。

あの無感情で無表情なストーム1が明らかに表情を曇らせている位のビジュアル。
なんならエルギヌスも「ええ……なんやコイツ…キッショ……」と言いたそうにしている。

というか、明らかにストーム1や大尉達をチラ見している。

まるで「自分ホンマにこんなんと戦わなアカンの?オタクら正気なん?」と言っているようだ。

「エルギヌスが気の毒になってきたな……」

「そうですね………今ほど可哀想だと思ったことは無いです……」

「おーいエルギヌス!!逃げんなら今だぞ!!!!」


こちらを見ているエルギヌスに大尉達が身振り手振りで「帰ったほうが良い」と伝えるとエルギヌスは目の前の激キモバルガをチラッと見た、そして再び大尉達の方を見ると「ほな、さいなら」とでも言っているかのように軽く手を上げて会釈し、物凄い早さで来た道を戻っていった。

『逃さんぞエルギヌス!!バルガクロウラーニクスZXRの機動力を舐めるな!!』


そしてバルガクロウラーニクスZXRがその後をシャカシャカ歩いて追いかけるのだった。


後日、その姿がクラーケンやクルール以上にトラウマになると本部に大量のクレームが届いたのは、また別のお話。