犬の鼻腔内腫瘍 | 経堂どうぶつ病院

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 こんにちは、経堂どうぶつ病院です。

 

 今回は「犬の鼻腔内腫瘍」についてお話ししたいと思います!

 

 犬の鼻腔・副鼻腔腫瘍の発生頻度は全腫瘍中の約1~2%程度と低いですが、呼吸器系腫瘍の中では59~82%と比較的多くを占めています。発症年齢の中央値は10歳齢ですが1歳齢でも報告があるので若くても注意が必要ですビックリマーク

 

 

 鼻腔内腫瘍の大部分が進行性の悪性腫瘍であり、眼窩、口蓋、皮下あるいは頭蓋内など局所に浸潤する傾向が強いです。

 

 

 診断時には遠隔転移を認めないことが多い(診断時の転移率は0~12.5%)が、ステージの進行とともに転移率は上昇していき、死亡時においては40~50%に転移が認められています。転移する部位は所属リンパ節や肺が一般的ですが、骨、腎臓、肝臓、皮膚そして脳への転移も稀に報告されています。

 

 

 発生する腫瘍の種類は腺癌を含む癌腫、扁平上皮癌、未分化癌が全体の2/3を占めており、残りは線維肉腫、軟骨肉腫、未分化肉腫、骨肉腫などの肉腫が占めています。

 

 

 一般的な症状は鼻出血粘液性または血様性の膿性鼻汁くしゃみ逆くしゃみいびき、鼻涙管閉塞による流涙や眼脂などですが、これは他の疾患でも見られる症状なので症状で腫瘍を鑑別することは困難です。抗菌薬や消炎剤などの対症的な内科治療を行うとしばしば症状が一時的に軽減あるいは消失することがありますが、休薬することで再発を繰り返す場合は腫瘍との鑑別を実施することが推奨されます。

 

 

 鼻腔内腫瘍は進行すると隣接組織に浸潤して眼窩浸潤による眼球突出、鼻骨や上顎骨破壊による顔面変形、鼻咽頭浸潤による軟口蓋の膨隆などを引き起こし、さらに篩板と呼ばれる鼻の奥の骨を破壊して腫瘍が頭蓋内に浸潤すると痙攣などの中枢神経系の症状を発現することがあります。

 

 

 鼻腔内腫瘍の確定診断には組織生検が必要になります。

 鼻腔内の採材には内視鏡生検、ストロー生検、鋭匙鉗子による生検、外科的な採取などがありますが、いずれにしても全身麻酔下での処置が必要になります。また、鼻腔内腫瘍のステージ分類や今後の放射線治療のための治療計画を決定する際にCT検査による画像診断が有用になるため、全身麻酔下でCT検査を実施し病変を確認したらそのまま組織生検を行い診断を行います。

 

 

 各種検査で鼻腔内腫瘍と診断された場合の治療方法は主に放射線治療となります。

 鼻腔内腺癌に対して無治療の場合、生存期間中央値は95日と報告されていますが、放射線治療や外科的切除と放射線治療の併用により生存期間中央値を1~2年程度に延長すると報告されています。

 

 

 他の腫瘍と同じように外科治療や化学療法による治療も試みられていますが外科手術のみでは生存期間が延長しないと報告されており、また、化学療法に関しても少数の治療報告はありますが確立された化学療法はありません。

 外科治療が難しい理由としては、腫瘍が発見された時点でステージが進行していることが多く、外科手術で切除を試みても周囲の切除できない骨に浸潤していたり、眼に見える被膜が存在しないなど完全に腫瘍を切除することが難しいためと考えられています。

 

 

 鼻腔内腫瘍に対して積極的に治療を実施する場合は放射線治療が必須になります。放射線治療装置は大学病院などの二次診療施設に設置されており受診にはかかりつけ病院からの紹介が必要になります。

 当院では院内での診断・治療だけでなく二次診療施設への紹介も行っておりますが、病気になったわんちゃんねこちゃんの状況や一緒に生活しているご家族の状況によって選択できる治療法も異なってきます。そのため可能な限り複数の選択肢を提案し、ご家族が納得して治療法を選択出来るよう心がけて診療を行っています。セカンドオピニオンも受け付けておりますので心配なことがあれば一度当院にご相談ください。

 

 

記事担当 院長