今年最後のレース、龍勢!!
11月12日(土曜日)
無機質な薄暗い研究室の奥に、屈強な支柱のごとく垂直に立つ円柱型培養装置が、青白い燐光のような淡い光を放っていた。
培養液の中には体中にチューブを接続された、ある人物の裸体が胎児のように身体を丸めて浮かんでいる。
「なんと美しい・・。」
変態同盟の隊長が恍惚とした表情で培養装置を眺めていた。
「サムライ、お前を最強のド変態にしてやるぞ!
・・エロクナールKOHを注入!!」
隊長は傍らにいる、助手の妻に命じた。
彼女が装置を操作すると、ピンク色をした薬品が渦をまいてチューブ内を駆け巡り・・培養液内のサムライの体内に注入されていった。
サムライの身体がびくんと痙攣し、肢体をくねらせ、どんどん顔が変態になっていく。
「心拍数、急上昇!ポラールの心拍計では測りきれないわ!このままではサムライがもたない!!
あなた!実験を中止して!!」
「いや、ならん!!もうすこしで究極の変態が完成する!!裏切り者のアイツに天誅を・・!」
隊長は妻を押しのけ、薬品の注入量を調節するダイヤルをさらにひねった。
培養液の青白い光が、隊長の狂気に染まった顔を浮かび上がらせたのも束の間だった。なぜか隊長の顔がみるみる血の気を失っていく。
「やめろっつてんだろが!!」
隊長の妻の強靭な腕が彼の頸動脈を締めあげ、がっちりとチョークスリーパーを極めていた。
「あなた達は今のままでも十分、ド変態で素敵よ。」
彼女は開放したサムライと、気絶した夫を両手で抱きしめた。
2人の変態は、まるで赤ん坊のように純粋無垢な表情で眠っていた。
11月13日(日曜日)
龍勢ヒルクライム会場で、俺は某自転車系SNSのメンバーと話をしていた。
「そうなんだ・・まっちゃんはレースに出ないんだね・・残念だね。
じゃあ、お大事にね。」
俺は今回、レースに出ることはない。
昨日、落車した時に腕の打ちどころが悪かったようだ。
変態同盟のサムライは、原因不明の体調不良でレースの出場を見送った。
「そろそろ出走か・・じゃ、メガネの上官と隊長の応援に行こうか?」
「うん・・そうしようか。」
サムライは一眼レフのデジカメをぶら下げ、俺は今日は走らない愛機を押して、仲間の応援をするために会場を後にした。
空は青く晴れ渡り、黄色く色づいた山々が金色に輝いている。
まるで、今年最後のヒルクライムレースの選手全員に、金メダルをあげたいものだな・・とでも言うように。