落車萌え！「萌」Tシャツと定峰峠！！

１１月１２日（土曜日）

AM９：００

東武東上線の終点「寄居」駅前は、色あせた看板を掲げるスーパーが一軒だけそびえ建ち、地面を枯葉が風に乗って渦を巻いているだけといった、なんとも寂れた佇まいを見せていた。

「実にいいねぇ・・この寂寥感たっぷりな感じ！

我々の出発にふさわしい！！」

俺は駅舎から降り立ち、上機嫌でゴミ袋に包んだロードレーサーを組み立て始めた。

「実に・・これはヒドイ。」

チャリ仲間の若者が、こちらを見ながらつぶやいた。

「なぜ俺を見る・・？ああ、このゴミ袋リンコーのこと？確かに見た目は悪いけど、荷物を減らせるからさ。」と、陽気に手をひらひらと振る俺。

だが、彼が言いたいのは・・眼の前の男が、本当にゴミにしか見えないロードを持ち、荷物を減らしたいとか言いながら、巨大なリュックにホイールをぶら下げたものを背負い、丸ハゲをカモフラージュするためのピンク色の帽子をかぶり、そして・・

極めつけは、大きく「萌」とプリントされたTシャツに、ダボダボの短パンという、あまりに斬新すぎるスタイルをしているということだ。

（今日は現地集合、山練ということにしておいて・・本当に良かった。）

と若者は心の底から思った。

今回はしらす君が引いた楽しい変態コースということで、後をついて行ったのだが・・どこかでコースを間違えてしまったらしく、我々は迷走し始めた。

枯葉が降り積もり、道はどんどん細くなっていく。

どう考えてもこれは違うだろう・・と思い、引き返して行ったその時だった。

先頭を走っていた若者が、眼の前でぬかるんだ路面に滑って転倒した。

（我が防衛本能よ、全力で玉突き衝突事故を回避せよ・・！！緊急ブレーキ作動・・！！）

急ブレーキで愛機は一瞬で減速した。

・・しかし！！ぬかるみで自分自身も滑った！！

まるで竜巻でも起こったかのように、２機のロードレーサーが路面を激しくローリングした。

身体が地面に叩きつけられ、無防備な皮膚が引き裂かれる音が、静かな林道に響いた。

打ちつけた利き腕・・左腕は控えめに言っても死ぬほど痛かった。

我々は予定のコースに戻り、先を行く。

「そういえば、もうすぐクリスマスですねぇ・・どうなってるんですか？」と、若者が。

「どうもならねぇ・・いつも通り、クリスマスなどとは無縁な場所へ・・善も悪もない、純粋無垢な世界・・

イノセントワールドへ旅立つのさ。」

そう答え、冷めた眼で愚問を投げてきた相手を見返すと、彼はさらに深い哀愁を漂わせて俺を見てくる。

「俺も旅に出るんですよ・・男同士で九州へ・・。」

「そうか・・。」俺は打ちつけた腕と、胸の奥にも痛みを感じた。

緩やかな上り坂を上り、茶屋のある「定峰峠」に到着した。

峠の茶屋の中に入ると、何とも「萌」なステッカーがあるではないか・・。

俺はそのステッカーを痛く気に入り、巨大バッグ「かたつむり君」にぺたりと貼りつけた。

我々はさらに林道の奥へと進み、３ｋｍ先の「白石峠」へとやってきた。

さらにこのまま進むと、山の尾根伝いに続く「奥武蔵グリーンライン」だ。

しかし、我々はこのまま山を去ることにした。

翌日はヒルクライムレース・・にも関わらず・・

落車して怪我したし！！俺のバカ！！

帰りの電車の中のことである。

若者が、俺の肩を叩いて自分のケータイ画面を見せた。

「前に座ってる♀が、あんたを見てますよ・・」とメール画面に文が打ってある。

その言葉に心躍り、ちらりとその♀を見た。

すると、♀はあわてて眼をそらした。

確かに俺を見ているが、どうも様子がおかしい。

なんだか、俺のことを見ているというより・・

若者が、また肩を叩いた。

「いやいや！「萌」の変なTシャツの事が気になるようです。」

俺はその文を見るなり、首をぐったりと垂れてしまった。

だが、そのすぐあとには「萌」Tシャツを見せびらかすようにして、ニヤリと変態チックに笑っていた。

今週のうらやましい！！


定峰峠の下にある売店。

雨の日は休みます！！俺も声を大にして言いたい。