私の尼崎の実家には書籍と言われるものが一冊も無かった。
これには謎が存在していたのだが、
実際小説を読んだのは、受験に失敗して浪人を余儀なくされ、
二つ上の姉が隠し持っていたフランツ・カフカの『変身』だった。
奇妙な内容だな~と思ったが、その後短編集の『流刑地にて』等、
受験勉強そっちのけで長編『審判』『城』『アメリカ(失踪者)』を
読み漁り、迷宮の徘徊者とになり、現実社会に戻るのに3年を要した。



フランツ・カフカは今では、
ジェイムズ・ジョイス、マルセル・プルーストと並ぶ、
20世紀の文学を代表する作家なので映画化、舞台化されているが、
オーソン・ウェルズ監督の1962年作『審判』、
これが最も早い映画化だったと思う。

 



勿論、タイムリーに観る事は出来なかったが、
ちょうどカフカにハマりかけていた頃にテレビ放映されいた。
高校時代から好きだったアンソニー・パーキンス主演、
最も傾倒していたカフカ、何かと話題の監督オーソン・ウェルズ。
あまりにも情報量が多すぎて内容を殆ど憶えていない。

それから半世紀が過ぎてしまったが、
それきりカフカの作品は読み返す事も無かった。
それでもオーソン・ウェルズ監督『審判』、
若き日のアンソニー・パーキンスはもう一度観てみたかった。

 



昔観た自分にとって名作映画は
これだけネット配信が進んだ今でも観れない事が多い。
Amazonprime、ネットフリックス等、数ある配信サービスの中で、
初めて契約を結んだのは結局、宅配のツタヤディスカス。
所蔵数は知らないが、他の配信サービスが扱わない作品がダントツである。
だから契約前にオーソン・ウェルズ監督『審判』のチェックしていた。
それでもツタヤディスカスでも所有していない、
今になって観たい映画が数多くあるが、

アンソニー・パーキンスはこの2年前に
ヒッチコック監督の『サイコ』でノーマン・ベイツ役で、
サイコパスな俳優のイメージが定着しつつあったが、
そのイメージを払拭したい為に
ヨーロッパに逃れていた時に巡り会った作品だ。

映画の筋書きを要約すると、
ある朝、身に覚えのない罪で逮捕を宣言されるヨーゼフ・K。
隣室に住む二流の踊り子役のジャンヌ・モローと関係を持つ。
しかし拘束される事は無く、就業時間後開かれる審理に出席。
傍聴人すら仕込まれてそうで、
以前訳の分からない強迫観念だけがヨーゼフ・Kを追いつめる。
叔父マックスが優秀な弁護士を紹介、解決策が見出せそうになるが、
結局弁護士は解雇され、自ら真理を追究し奮闘する。
ヨーゼフ・Kは弁護士の女中、ロミー・シュナイダーとも関係を結ぶ。
結局は告訴先も罪状も判らないまま、いつしか刑事達に連れ回され、
郊外の石切り場でヨーゼフ・Kの処刑は執行される。



カフカは34歳で結核を発症し、40歳で亡くなっている。
これは死の直前に撮られた写真

 

 

 

 





アンソニー・パーキンスをカフカの作品登場させたのは、
オーソン・ウェルズの才覚の様な気がする。
ヨーゼフ・Kとはおそらくカフカ自身の事で、
この難しい役どころを演じられるのは俳優は、
アンソニー・パーキンス以外、居ないのも確か。

 

 

 

 





50年前に観た時は名女優のジャンヌ・モロー、
ロミー・シュナイダーが出ていたとは知らなかった。









一般的にカフカの作品は不条理として捉えられているが、
オーソン・ウェルズは近未来、それを匂わす装置を提供している。









モノクロだが映像は表現力豊かで全く色褪せしていない。

 

 

 

 

 



まるで長谷川等伯が描く21世紀の障壁画、

 


又、狩野探幽が今世紀に甦り描く、
一幅の水墨画を観ているようでスコブル気持ちが良い。










審理に出席して不当な告訴を雄弁に語るヨーゼフ・K。











来るべき超管理社会の仕事風景。











映画『審判』には監督の独特の脚色がなされているが、
会社内を叔父と連れ立つこの場面では、
スーパーコンピューターの先を見越す言葉を発している。





















又、古典的な建物とこの当時の最先端の
モダニズム建築の対比もオモシロい。











こんな女優も出ていたが、名前は分からない。










美しい女性が多く出演しているが、
若き日のアンソニー・パーキンス、トニーはやはり美しい。










ロミー・シュナイダーも、











カラー作品では無いが、自然と色彩が浮かんでくる。











買いたくもない絵画を買わされ、迷路を駆けずり回るヨーゼフ・K。







真理を追究しているのか、何モノから逃げているのか、



挙句の果て、ヨーゼフ・Kは刑事達に連れ回され、
郊外の石切り場でダイナマイトで爆死する。


原作はKは郊外の石切り場に連れて行かれ、
そこで心臓を一突きにされ、Kは処刑人に見守られながら、
「犬のようだ!」と言って死んでいく、
まさしく浮かばれない犬死。

 



『審判』『城』『アメリカ(失踪者)』の孤独の三部作は、
実際はカフカの死後、友人によって発表された長編小説で、
カフカは生前、友人には全て破棄して欲しいと伝えていたが、
友人はカフカとの約束を破って、世に送り出してしまった。
それ故に作品としては完成しておらず、
不可解な展開は纏め切れていない証拠でもあり、
最終的に自身が納得出来ていない未完の三部作でもある。
その謎めいた設定、展開は一層、
カフカの不条理感を際立たせているのも事実である。



50年ぶりに観た率直な感想は映像が鮮烈で俳優陣がキレイ。
70年前にこの感覚の映画は作り得たのは、
作家フランツ・カフカ、監督オーソン・ウェルズ、
そしてアンソニー・パーキンスの三位一体が成しえた奇跡のコラボ。