京都駅ビル合間の京都タワー


映画館に行かなくなって久しい。
決して映画嫌いでは無い?
わざわざ映画館まで足を運んで
観てみたい映画が無いのである。
困ったものである!

2018年8月16日、
惜しくもこの世をさってしまった「ソウルの女王」
アレサ・フランクリン(1942-2018)。
彼女のドキュメンタリー映画が存在するのは知っていたが、
技術的な問題で公開される事は無かった幻の映画だ。

 



ドキュメンタリー映画『アメイジング・グレイス』
アレサ・フランクリンが1972年1月にロサンジェルスにある
ニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で
2日間にわたって行ったライブは
アルバム『Amazing Grace』として発表され、
ゴスペル・アルバムの不朽の名盤として今なお多くの人々に愛されている。

その公開録音の映像が編集上の問題点を解決して、
2年ほど前に日本でも公開されていた。

何が何でも映画館のスクリーンで観るつもりでいたが、
コロナ禍に入ってしまい、
コロナが収まればと思いながら二年が経ってしまった。

すでに映画館に回って来る状況では無いので、
仕方なくツタヤで借り事にした。
ところが大体レンタル屋は音楽関係の映像作品は少なく、
そのツタヤでもスパークリー監督のドキュメンタリー映画、
デヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』は3本もあるのに、
『アメイジング・グレイス』はたった1本、それも貸出中であった。


残る道は動画配信サービス。
しかしこれは基本的に私にとっては危険な行為。
映像と音楽は好きなので、他の事をそっちのけで
際限なく観てしまう恐れがある。
なので一ヵ月の無料サービスが限界。
すでにこの行為を四回も繰り返している( ´艸`)。

少なくとも『アメイジング・グレイス』と
同じ頃に発表されたソウル系の『メイキング・オブ・モータウン』
を所有している動画配信を検索、何故かツタヤの動画配信がヒット。


録音録画は通常の教会施設で、
一般市民参加で二日間に跨って行われた。
ゴスペルとは黒人専用教会から発祥した福音音楽、
聖書、讃美歌を基本としているが、
そこには奴隷制度、差別、公民権運動など、
新大陸アメリカの発展とアフリカ系アメリカ人黒人の
多くの矛盾と問題を抱えながら発展してきた音楽の一ジャンル。

ベースは理不尽な奴隷制度、劣悪な差別環境から生まれた、
黒人霊歌、ワーク・ソング、所謂ブルースと呼ばれるものだ。
と言ってもこのゴスペルはソウル、R&B、ロック、
パンク、ニューウェーブ、ヒップホップ、ラップなど、
現在世界の共通語の音楽のルーツであると言っても過言ではない。
ビートルズもローリングストーンズも
元は黒人のR&Bに憧れ、コピーして世界に飛びだっている。
だからゴスペルは現在の共有できる世界音楽のルーツとも言える。

恐る恐る観た感想は、
最初は少し違和感を感じた、何故なのか?
1972年のアメリカの黒人専用の教会の独特の雰囲気が、
日本人の私の身体では理解できないでいた。

【第一夜】
「On Our Way」
「Wholy Holy」
「What a Friend We Have In Jesus」
「How I Got Over」
「Precious Memories」
「You’ve Got a Friend」
「Precious Lord Take My Hand」
「Amazing Grace」

知っている曲も殆ど無い。
マーヴィン・ゲイの「Wholy Holy」。
キャロル・キングの「You’ve Got a Friend」
後はアメリカの第二の国歌と言われている「Amazing Grace」

概ね日本人に馴染みのないゴスペル。
それも黒人宣教師が讃美歌を独自の解釈で、
誰にも解りやすく、覚えやすい節回しとリズム、
神を敬うより、時には親しみやすい友として、
苦しむ周りの人達をブラザー、シスターと呼びかける。

第一夜の最後に「Amazing Grace」が唄われる。
しかしそれが聴き覚えのある「Amazing Grace」とは
かなり違っていた?原曲とは大きく異なる独特の節回し、
ところが少し進むとこれこそがアレサのソウルだと身体で解る。

 


傍らでピアノで伴奏していた恰幅の良いジェイムズ牧師が、
途中で涙が止まらなくなり、後ろに退席する。
私も小さな24インチスクリーンを観ながら嗚咽していた。
やはりこれは映画館に観に行かなくて良かった( ´艸`)。



【第二夜】
「Mary Don’t You Weep」
「Climbing Higher Mountains」
「Old Landmark」
「Never Grow Old」

ゴスペルを初めての方は、
おそらく一回観ただけでは解りにくいと思う。
少なくとも二回、それでも解らない、感じられなかったら三回。
これでも解らない、感じられなかったら、
残念ですが、ゴスペルは諦めて下さい( ´艸`)


基本私は名作でも二回観ないのだが、
これはつい観てしまった。そして嗚咽した( ´艸`)。
第二夜ではローリング・ストーンズも聴衆に紛れていて、
若かりし頃のミックジャガーを捉えていた。

最後の曲の「Never Grow Old」は

高台にイエスによって建てられ家

それは魂の美しい家

私たちが年を取ることのない土地

私たちが決して死ぬことのない国

そこですべてが終わり、

私たちの苦しみと試練は、もう少し、

すべての悲しみは終わり、声が混ざり合い、

先立った愛する人達と巡り合う。。。


これはまるで仏教の西国浄土、極楽浄土の世界?
感極まった年老いたご婦人が思わずステップを踏み出す。
周りの人達は取り押さえようとするが、
アフリカ大地の鼓動を感じリズムを刻む、イエスの導き、
アレサのゴスペルが昇華と導く、カタルシス。
それは伝説のダンス音楽番組の「ソウル・トレイン」にも通じる。
アメリカに新天地の夢と富を求めた大英帝国と多くの資本家。
そこには紛れもなく故郷を失い、
家畜同然の生活を強いられたアフリカ人と略奪された先住民がいた。
何の希望も見いだせない、人間としての完全否定の差別。
それに手を差し伸べ、希望に導いたゴスペルがあったのは、
黒人にとっては唯一の救いであったような気がする。

アレサのゴスペルは絶望の崖っぷちのシスター、ブラザーを救い、

勇気を与え、そこには底知れない愛情が感じられる。

今世紀の経済、資本のグローバル化が生み出した端的なモノに環境破壊、

かつてない貧富の差があるが、その逆にゴスペルから派生した世界音楽は、

自然、愛情、共生、地球を大切に想う、

本来目指すべきグローバルリズムがそこにあるのではないかと感じてしまう。


音楽関係のドキュメンタリー映画は人一倍好きだが、
これまでライ・クーダーがプロデュース、
ヴィム・ヴェンダース監督の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
が最高と思っていたが、それに並ぶ作品に出合えた。