空座町・墓地。
ある一つの墓の前で立ち尽くす一人の女性。
長いストレートの茶髪と薄くピンクに色付いたスカートが風でふわりと舞う。
少しばかり乱れた髪を手櫛で整え、女性は腰をかがめた。
幼い頃の面影はあまりない。
あのあどけない笑顔もあの日以来失ってしまった。
幼いながらに自分達はあまり恵まれない環境に置かれていることには気が付いていた。
……両親が殺されたのだ。
それぞれ学校から帰ってきており、偶然にも家の前で兄妹全員が鉢合わせした。
いつものようにただいま、と玄関の扉を開けた。
中からいつもおかえりと返してくれる母の姿はない。声もない。
あったのは鉄のような匂い。
具合が悪くなるようなその匂いが家中を満たしていた。
口元を押さえ、3人リビングに向かえばそこには倒れた両親の姿。
町医者をしている両親、白衣とナース服の二人が倒れていた。
それも、真っ赤な血を流しながら。
強盗だったらしい。
荒された部屋からは金目のものがごっそりと無くなっていたと聞いた。
両親は元々結婚を反対されていたらしい。
それを駆け落ちしてこの街まで来たものだから、親戚なんて聞いたこともなかった。
これから孤児院に行くことになる、両親の葬式が終わった後に警察から聞いた。
だが兄は断った。
自分はもう高校生なのだから、学校をやめて二人を自分で育てる。
そう言いきったのだ。
刑事は反対した。子供の君に何が出来ると。
それでも兄は頑として聞き入れようとしなかった。
刑事は諦め、一応の連絡先と自分の携帯電話の番号を渡し、帰って行った。
その時から兄と妹との3人暮らしが始まった。
兄が、必死に自分達を大切に育ててくれていたのも知っていた。
まだ十五だった兄は全てを棄てた。
通い始めたばかりの学校も、友達も、自由も全て。
全てを棄ててまで自分達を育ててくれた。
だから、だろうか。
双子の妹と約束したことがあった。
後にも先にも約束はそれ一つ。
「早く自立してお兄ちゃんが楽できるようにしよう」
「早く大人になろう」
どちらが言いだしたのかは覚えていない。
それでも兄の力になりたかった、護られているだけでは嫌だった。
ゆっくりと墓標を指でなぞる。
黒文字で、刻み込まれたそれには、大好きだった両親、そして、
大好きだった兄と妹の名前。
その瞬間、あの時の光景が鮮明に思いだされた。