Kは赤ちゃんの時、卵と牛乳にアレルギーがあることがわかり、治療を受けていた時期がある




アトピー性皮膚炎の漢方治療も小学校の中学年まで受けていた




知り合いの紹介で国立市にある個人病院まで、電車で月に一度通った




娘を実家に託し、Kと二人で通った道のり

母子二人の幸せで楽しい時間だった




先生は中国人のおばあちゃん先生




先生からは、食事にとても厳しい指摘が入り、スナック菓子はもちろん、添加物の多い加工食品は食べさせてはいけない

昔ながらの和食を心がけるようにと指導された




私も元々食べ物にはうるさい方で、食品を購入する時は原材料、産地、添加物などは気にしていたのだが、先生はその道の専門化で筋金入りだった




お陰さまでKのアトピーの症状は大分落ち着き、コントロール可能になってきたところで、漢方治療は小学校中学年までで卒業となった




病院は子どもや赤ちゃん連れの比較的に軽い風邪のような症状の患者さんから、車椅子で体が硬直しているかのような、とても重症に見える方まで、沢山の患者さんでいつもいっぱいだった




親子三代でこちらにお世話になってるという患者さんもいた




私は先生のことをふと思い出し、命に関わるこんな病気になってしまったKだけれど、先生に診ていただけないだろうか、迷惑だろうかと心配しつつ、まだ他に何か出来ることがあるかもしれないと思い直し、恐る恐る先生に電話をかけた




先生は私とKのことをよく覚えていて下さった

先生に事情を話して返事を待つと、こちらの心配をよそに「見せてください。連れて来られますか?」と、あっさりと言って下さった



その言葉に勇気付けられ、早速、Kをセカンドオピニオンと同じ扱いで先生のところに連れていくことになった




MRI画像や治療の経過についての資料はS大病院の主治医のY先生がお忙しい中、快く用意して下さった




国立の病院に着くと、Kを車椅子から降ろし、旦那がおんぶして病院の入り口にやっとのことで入った




体重が既に60キロ近くなっていたKをおんぶして歩くのは大変なことだった




駐車場から入り口まで砂利が敷いてある道と段差のきつい公道を越えなければならなくて、車椅子では無理だった




先生はまず、放射線治療については難色を示した

化学療法は仕方ないとしても、放射線治療は将来のある子どもにはやらせたくない治療だと

自分の孫が同じ状況なら反対すると




食事については絶食

出来なければ、玄米菜食で肉は禁止




昔ながらの和食を中心にして、米はすぐに玄米に、乳製品は一切摂らないように(牛成分は体に一つも入れない)

野菜は丸ごと皮まで食べる



とにかく「命のないものは口に入れてはいけない」と強く言われた




漢方薬については抗がん剤に影響がないものを勧められた




絶食には驚いた

「絶食?!」と私も旦那も開いた口が塞がらないくらいに




治療中のKにとって唯一の楽しみは食事だったし、薬(ステロイド)の影響で(この時は単なる成長期の食欲としか思わなかったのだが)爆発的な食欲のKに絶食を強いることは到底出来るとは思えなかった




先生から言われた食べてはいけないものは、よく注意しないとそれとは気付かず口に入ってしまうほど、現代人の生活に普通に溶け込んでいるものだ




帰りの車の中で「先生って一体何を食べてるんだろうね…」と旦那がポツリと言った




西洋医学と東洋医学

難病の子を持つ私達夫婦は対処の仕方が真っ向から異なる医学の狭間で途方に暮れた




絶食では今のKでは多分、治療に耐えられない

元々はどちらかと言うと食が細い方だったが、今では四六時中食べ物の話しかしないくらい激しい食欲なのだ




ステロイド治療(デカドロン)の大量投与による外的な副作用も見るも無惨なものだった




一月ですっかり別人に変わってしまった息子

親の私達から見れば、可愛く愛しい赤ちゃんのような姿形も、赤の他人から見れば化け物の様に見えただろう




先生は変わり果てたKに驚いた様子もなく、熱心に淡々とKの体を診察してくれた




ステロイドや抗がん剤の副作用を軽減し、ガン細胞に効果があるとして、先生に紹介していただいた漢方薬は、カイジ(槐耳)というもの




槐(エンジュ)の老木に生える茸だそう




中国ではこれをガンの治療薬として国家が認めているらしい




これは本当に驚く程の値段だった

いつまで支払いが出来るのか不安を感じつつ、直接輸入会社に連絡して、毎月購入した




苦く、まずいらしかったが、Kは文句も泣き言も言わず、私に言われるまま黙々と飲んでくれた




漢方薬は防己黄耆湯と扁せき

健康食品としては、不老仙、松寿仙、マコモ




玄米は皮ごとまるごと食べるものなので、有機栽培、無農薬でないと意味がないと言われ、農家から直接取り寄せた




玄米菜食は私自身、身体にすぐに影響があった

まず、疲れにくくなり、排便、生理が軽くなり体がずっと楽になった




ただ、成長期のKにとっては物足りなかった




先生からは肉はダメと言われていたが、牛肉以外ならと毎月29日をにくの日として、解禁してあげていた




Kは「今日はママがハンバーグ作ってくれるよ!」とか「焼肉だから早く帰っておいで~」とパパにメールしたりして、この日をとても楽しみにしていた




私は飲み水は全てナチュラルミネラルウォーターにし、ジュースは青汁と濃縮還元ではないストレートのもの、野菜もなるべく有機野菜を摂るように心掛けた




放射線治療についてはやはり危険だと言われたことで、それまではより早い時期の開始を希望していたが、気持ちの上では振り出しに戻った形になった




先生の言うことを聞いて、絶食にしていたら、Kは助かったのか




でも、当時はそんなむごいことはどうしても出来なかった




でも、先生はKの病気が治ると信じてくれていたと思う




覚悟、覚悟と何度も言われ、だれからも諦められていたかのように思われたのに



私たち家族にとって、先生の存在は、希望そのものだった