昨年、上野で開催された岡本太郎展のブースで動画が流れていた時の一幕で、岡本太郎自身の肉声でこの言葉を聞いた。


 「自分を大事にしたら自分を無くしますよ」


 岡本太郎の力強い声色で、自分の耳に入った時から今日まで、ずっと離れることが無かった。

 岡本太郎は自分を大事にすることで生じてしまうことの、とてつもない恐ろしさを実感として持っていた。自分を大事にしようとする自分自身と決別する闘いの連続だったのだろう。


 今日の世間では、自分を大事にすることが、とても大切なこととして求められている。心身を整えたり、養生は確かに大切だ。だが、どうもそれ以上の過ぎた、自分への可愛さを追求しているように思える。

 楽な方、甘い方へと自分を逃がそうとして、それの後ろめたさを、「自分を大事にする」ことの都合の良い意味だけをすくい取って、蓋をしている。いや、後ろめたさなど感じていない方が今や多数か。まるで絶対的で当然である権利かのように。