(短篇。)


奏が自分で帯を解こうとしたので、俺は慌てて、その手を取った。
(待てよ。お楽しみをとるなんて、許さない。)
しゅるっ。
衣擦れの音をさせて袷を開く。
(誰にも、触れさせたくない。)
素肌に聴診器を押し当てて、頬を紅色に染めて俯く君を観察する。心音も速くなって、
(…まるで、苺大福…)
ふと頭を過ぎった言葉に、自分でも馬鹿だなぁと思ってしまう。

自分でも気付いていないんだろうけど、上目遣いで花見に行きたいだなんて、ヤバ過ぎるし、
今だって、俺の質問に真っ赤になって震えているのが、どうしようもなく可愛い。
短い口づけをして唇を離した後、吐息を感じてとても、安心した。
何でも知りたい、勿論本心だ。
だけど…今、投薬の副作用が無いかそれが心配だった。
ー誰にも触れさせたくない。
ー君を切りきざみたくない。
花見に行くと約束したが、彼女は桜を見ることが出来るだろうか。
いや、君と出会った暑い誕生月を待てるだろうか。
彼女の白い一重の寝着が時々、とてつもなく怖く感じることがある。
手で触れていても、気付いたら向う岸に渡ってしまっているんじゃないかって…

いいや、ー…大丈夫。初めての約束は、前世のそのまた前世にした。
だから、絶対
来世でも、その次の来世でも、
必ず探し出すし、必ず結ばれる。

「花見に行くなら、いつもの大福作れよな。奏。」
そう言いながら、ベッドに落ちてしまった綺麗な色の羽織りで、華奢な身体を包みこんだ。





                              ハッピーエンド。 。