その日は普通に営業するつもりだった。
その前の営業は、八尾での「おわら風の盆」に絡む応援要員としての、やや過酷なものだったので、少しまったりした業務にしようと思っていた。
(辛いといっても、慣れれば、どちらかというと、割のいい仕事なのである。自分が新米だというだけのこと。)
二回ほど、お客さんを乗せ、メーターで半分になっていたガスを給油した直後、会社から電話が入った。
観光タクシー(営業)をやってみないか、仕事が舞い込んできた、というのだ。
七月末、三回忌の直前のある日、コンベンションタクシーの講習会を受講したことがある。
これも、会社の打診でのこと。
この講習を受講したことで、観光タクシーの営業の資格を得たことになっていた。
でも、そんな仕事は舞い込んでこないと思っていた。
観光タクシー利用のお客さんがいても、どのタクシー会社に振られるかわからないし(たぶん、順番)、わが社に順番が回ってきても、観光タクシー営業の資格を持つ人は何人もいる(はず)。
不意に舞い込んだ仕事。
消極的な性格の小生、自ら名乗り出ることは、まず、ない。
が、せっかく舞い込んだ仕事。思い切って受けることにした。
観光タクシー!
富山市内(場合によっては富山県内)をお客さんを乗せて、観光して回るわけである。
一時間半から数時間のものまで、各種のコースがあり、定額である。
時間と額が決まっているので、メーターを気にする必要はない(つまり、貸切)
。
観光タクシーなのである。
お客さんを乗せて、単に移動するだけではない。
お客さんの希望する観光地へ案内し、場合によっては、観光案内も果たす必要が生じる。
車内では、お客さんの質問に答えないといけない。
が、である。
そもそも小生は高校を卒業してすぐ県外に出た人間である。
盆や正月には帰省していたものの、富山市もだが、富山県内も観光したことなどめったにない。
帰省の折に、親戚の者や友人と手軽なドライブで遊んだことはあるが、富山の有名な観光地で訪ねたことのある場所はほんのわずか。
富山についての知識は、数年前に帰郷して、あるいはタクシー稼業に携わって得たわずかなもの。
富山県の歴史、なんて本も二度ばかり通読したことはある。
富山関連の観光パンフレットなどは必ず手にする。
テレビなどで富山の話題が出ると、耳をそばだてる。
まあ、その程度である。
そもそも小生は対人関係が苦手なほう。
それでも、自分にはやや重荷な仕事をやり通した。
車中ではずっと富山の話題に終始。
いろんな質問が飛び出る。
一つだけ、ヒヤッとしたことがあった。
それは、呉羽山の展望スポットでのこと。
立山連峰の立山って、どの山ですかね、って問われた。
咄嗟に言葉に詰まった。
立山なんて山、ないはず。
でも、いまひとつ自信がない!
あとで調べて確認したのだが、「立山は、飛騨山脈(北アルプス)北部の立山連峰に位置する山で、雄山(おやま、標高3,003 m)、大汝山(おおなんじやま、標高3,015 m)、富士ノ折立(ふじのおりたて、標高2,999 m)の3つの峰の総称である。雄山のみを指して立山ということもあるが、厳密には立山連峰に立山と称する単独峰は存在しない 」のである!
今度、同じ質問が出たら、自信を持って答えたい!


