琥珀を生み出した古代の森…いのち溢れて | 無精庵徒然草

無精庵徒然草

無聊をかこつ生活に憧れてるので、タイトルが無聊庵にしたい…けど、当面は従前通り「無精庵徒然草」とします。なんでも日記サイトです。08年、富山に帰郷。富山情報が増える…はず。

 アンドリュー・ロス著『琥珀―永遠のタイムカプセル 』(城田 安幸【訳】、文一総合出版)を読了した(今日は、リサ・ランドール著『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く 』(向山信治/監訳 塩原通緒/訳、日本放送出版協会)も読了。こちらに付いては、改めて感想を書くかどうか未定)。


 本書『琥珀―永遠のタイムカプセル 』については、「植物由来の宝石・琥珀の魅力 」で若干のことを書いている。
 今日は違う趣向でメモしておきたいことがある。


2007_0927070924tonai0012

→ 9月24日、都内某所にて。何艘もの屋形船が係留されている。画像で見ると、なんだか不思議な雰囲気が漂ってくる。…こんな絵を描けたらいいな ……。



 小生は数年前、誰もいない森についてやや叙情的というか、むしろ感傷的な文を綴ったことがある(「石橋睦美「朝の森」に寄せて 」より):

 森の奥の人跡未踏の地にも雨が降る。誰も見たことのない雨。流されなかった涙のような雨滴。誰の肩にも触れることのない雨の雫。雨滴の一粒一粒に宇宙が見える。誰も見ていなくても、透明な雫には宇宙が映っている。数千年の時を超えて生き延びてきた木々の森。その木の肌に、いつか耳を押し当ててみたい。
 きっと、遠い昔に忘れ去った、それとも、生れ落ちた瞬間に迷子になり、誰一人、道を導いてくれる人のいない世界に迷い続けていた自分の心に、遠い懐かしい無音の響きを直接に与えてくれるに違いないと思う。
 その響きはちっぽけな心を揺るがす。心が震える。生きるのが怖いほどに震えて止まない。大地が揺れる。世界が揺れる。不安に押し潰される。世界が洪水となって一切を押し流す。
 その後には、何が残るのだろうか。それとも、残るものなど、ない?
 何も残らなくても構わないのかもしれない。 きっと、森の中に音無き木霊が鳴り続けるように、自分が震えつづけて生きた、その名残が、何もないはずの世界に<何か>として揺れ響き震えつづけるに違いない。 それだけで、きっと、十分に有り難きことなのだ。

2007_0927070924tonai0007

← 同じく9月24日、増上寺脇を通りかかったので…。



 実は、アンドリュー・ロス著の『琥珀―永遠のタイムカプセル 』を読んでいて、どうにも気になる頁に出くわした。


 といって、別に感心するほど名文というわけではない。


 ただ、その頁の記述を読んで小生は、上掲の小生の過度に感傷的な文章は少々視野が狭すぎるんじゃないの、誰もいない森は動植物などの生命に満ちていることにもっと思い至らないと、せっかくの森の命の豊穣さを見過ごすことになり、勿体無いんじゃないと、やんわり窘められているような気がしたのだった。

 せっかくなので、その頁を自戒(?)の念を篭め、書き写しておきたい(文中にある「内包物」とは、「植物や昆虫や気泡など、琥珀の中に含まれるもの」で、通常の宝石だとキズ扱いされる。が、本書では内包物があるが故に琥珀は古代の生態研究などの点で貴重なのである):

Im21872

→ 琥珀の内包物…「琥珀の中に閉じこめられたクジムカシホソナガコバチ」 (画像は、「琥珀 ~永遠のタイムカプセル~ 」より)

琥珀を生み出した古代の森

 琥珀から発見される昆虫はほかの内包物から、古代の森の生物たちの生態がどのようなものであったかがわかります。このような研究を古生態学と呼びます。バルティックやドミニカの琥珀を作り出した森の古生態については、おかのものよもよりくわしく研究されています。図87に示したように、現在知ることができる事実をもとに、私たちは、古代の森がどのようなものであったかを想像することができます。
 亜熱帯のバルティックの森には、針葉樹と顕花植物が入り混じって生息していました。マツの木からは豊富な樹脂が分泌され、幹を伝って流れ落ち、鍾乳石のように連なり、樹皮の上に固まりました。オークの木は花を咲かせ、花の花粉や毛がそよ風に乗って漂っていきます。森の中には、動物たちや昆虫たちが忙しそうに動き回っています。チョウやガの幼虫やコオロギやナナフシが、葉っぱをむしゃむしゃ食べています。雄のコオロギが結婚相手を求めて鳴いています。一列に並んだアリマキたちが小枝にいます。樹液を吸うために、長い口吻を木の皮に突き刺しています。アリたちが来て、アリマキの蜜を集めます。アリたちは、アリマキがクサカゲロウから攻撃されるのを防ぎます。アリたちが隊列を組んで、森の木の上を行ったり来たりしているのが想像できるでしょう。
 森には、とてもたくさんの生き物たちがすんでいます。古い木が倒れて、そこが開け、古い木が朽ち始め、その周りには日光を求めてほかの植物たちが競争し合いながら生育しています。ワラジムシやハサミムシ、甲虫たちやシロアリやアリ、ゴキブリ、ダニ、コナチャタテ、ヤスデ、トビムシ、シミやイシノミなど、多くの分解者たちが朽木の周りに集まり、林床で樹皮や積もった葉を食べています。ある種の甲虫たちは、朽木の中に入りこみ、穴をあけています。その甲虫たちを見つけようと、ヒメバチが触角を動かしながら、幼虫たちの居場所を確かめています。木の中の幼虫たちに卵を産もうとしているのです。
 朽木や林床に生えているキノコや菌は、キノコバエの幼虫の絶好のエサとなります。ハエやアブは交尾のために群れて飛び、ハナアブは降り注ぐ光の中を飛んでいます。ハナバチやカリバチは花粉を集めるため、花の周りを音を立てながら動き回っています。クモたちは、次の獲物を巣網の上で待ちかまえています。一方、ムカデやイトトンボやザトウムシやカマキリや、大きなアブなど捕食者たちは、次のエサを求めて活発に動き回っています。
 鳥やトカゲやカエル、ほ乳類もおそらくいたと思われます。彼らセキツイ動物たちは、さまざまな昆虫や植物を餌にしていましたが、反対にカやブユ、ヌカカ、アブ、サシチョウバエ、ノミやシラミには血を吸われていました。一時的にできる水たまりや森の中の小川には、イトトンボの幼虫がすんでいました。イトトンボの幼虫は、ほかの水生昆虫の幼虫を食べていたことでしょう。それらの池や小川にはトビケラやカゲロウやカワゲラの幼虫がすんでいて、流れの中の植物やゴミで、移動できるすみ家を作っていました。カゲロウが羽化し、その池の周りで群飛し、交配し、卵を産み、死んだ一日もあったことでしょう。
 ドミニカの琥珀を作り出した森にすんでいた動物や植物は、バルティックの森にすんでいたものとは種類は異なりますが、同じようなことが起きていたと思われます。最も異なる点は、ドミニカは熱帯で、より暑く、湿度が高いため、より多くの生物の種が繁栄していたということです。主な植物たちは顕花植物で、それらにはコケなどの着生植物が生えていたと思われます。バルティックの森に比べて、ドミニカの森ではアリやシロアリがたぶんずっと多かったと思われます。バルティックに比べて少なかったのは、アリマキのような昆虫たちです。 (p.36-37)
 


 本書には、この頁に「バルティックの琥珀を作り出した森の想像図」が付せられているのだが、さすがに転記は小生にはできかねる。

Tirasi1

← 『生態学が語る不思議な世界-生物の多様性ってなんだろう? 』のチラシ。チラシの頁の隅っこに、「人間活動は生態系に大きく影響してきました。「人間活動と多様性」は展示テーマの一つです。トンボなどの生物が暮らしていけるような河川がありつづけることを願います」とある。



 古代の森というわけにはいかないが、代わりに、「CERの森の生き物たち 」(「CERの森 」より。「CER」とは、「京都大学 生態学研究センター Center for Ecological Research, Kyoto University 」の略称)を覗くのもいいだろう。

京都大学 生態学研究センター Center for Ecological Research, Kyoto University 」では、下記の企画展を開催中 だ:
生態学が語る不思議な世界-生物の多様性ってなんだろう?