どんっ、と私の机に何かぶつかった。
私はあまりにアンケートに集中していて、何が起きたかわからずハッと我に返った。見上げると
「あ~、ごめん。」
寿くんが振り返って謝った。
友達とふざけていた彼は、後ろを見ずに後ずさったので私の机にお尻をぶつけたらしかった。


私はさっき驚いた拍子に、握っていたシャーペンの芯をプチっと折り、更に左手で押して消しゴムも落としていた。
「やぁ、すまんすまん」
と、消しゴムを拾って私に渡し、軽く平謝りし、彼はまた笑いながら友達と去っていった。


「…」


今さらながらに、"いいよ"とか、"ありがとう大丈夫"の一言も言わずに、頷いて返しただけの自分を後悔した。話せばよかったな…

うなだれて、自分の手に目を落としました。
…朝クリーム塗ってきたけど、なんか荒れてるな。

ふと、庇うように手を擦り合わせる。
そう、私が片思いしてるのは寿くんだ。誰にも話してないから、誰もしらない。
友達の裕子ちゃんにも、好きな人はいないって言ってある。


寿くんは賑やかなグループにいる人だけど、その中でも優しそうな雰囲気で、結構人気があった。
対して私は…、
あまりに地味だった。
口数も少ないし、寿くんと会話もしたことなんてない。
しかも、さっき消しゴムを受け取ったこの手は、こんなカサカサだ。


ああ。
気持ちをアンケートに戻した。

そうそう、好きな作家は誰を書こう。
色々浮かんで、西加奈子さんを書いた。
彼女の作風は、読んでいて暖かくなると、紹介めいた一言を添えた。


もう少し、スペースがあるから…


"太宰治"
と思う。
でも、そう書いてアンケートを渡した繋木くんが見て何て思うだろうか。
見る人によっては、太宰の代表作人間失格は、重い作品だ。
地味な私がダサイストと知れば、みんなに引かれないだろうか。
私の他にも、太宰をあげる人は多いだろうか。


でも大好きな作家だし、有名どころだから書いてもいいじゃないかと思い直し、シャーペンを握り直した時点で、チャイムが鳴った。