舞台演劇「遺伝子レベルの恋」
作者:小唄 楼

金剛……女性(18)
柳瀬川……男性(18)
初音……(23)



○屋上
金剛と柳瀬川が昼食をしている。
照明をつける。


金剛「妊娠したの」


沈黙。
柳瀬川が頭をかく。


柳瀬川「……金剛ちゃん」

金剛「何?」

柳瀬川「俺達、セックスしたことあったっけ?」

金剛「ちょ!違うわよ!妊娠したのは私の姉!」

柳瀬川「なんだ。それはめでたいじゃない」

金剛「ええ。だから急遽結婚も決まって、今うち大騒ぎなの」

柳瀬川「あー真面目そうだもんなぁ。金剛ちゃんの家」

金剛「えぇ。……それにしても、まさか初音姉さんが出来ちゃった婚をするとは

思わなかったなぁ……」

柳瀬川「ちょっと待て!今なんて言った!?」

金剛「え、だからまさか出来ちゃった婚なんて……」

柳瀬川「その前その前!」

金剛「初音姉さんの事?」

柳瀬川「そう!初音って名前でここら辺に住んでるんだとしたら、初音さん以外

いないよな……」

金剛「初音姉さんの事知ってるの?」

柳瀬川「あぁ、……俺の初恋相手だよ」


暗転。
金剛が退場。


○裏道
二年前に遡る。
ボロボロの柳瀬川がよろよろとしている。
照明をつける。


柳瀬川「……たく、これだからケンカは嫌なんだ。あー痛っ」


必死に立ち上がろうとする柳瀬川。
しかし中々立ち上がれない。


柳瀬川「畜生、体が動かねぇー……」


そこに初音が通りがかる。


初音「あら、貴方大丈夫?」

柳瀬川「あっ、大丈夫ですよ。ご心配なく」

初音「嘘をついたら駄目よ」


初音が柳瀬川の腕を触る。


柳瀬川「痛っ!!」

初音「やっぱり。でも骨が折れてたりはしないみたいね。……顔擦り傷だらけだ

から絆創膏あげる」


初音が鞄から絆創膏と消毒液を取りだし、柳瀬川の治療をする。


柳瀬川「……なんでですか?」

初音「何が?」

柳瀬川「なんで初対面の、それも俺みたいな不良に優しくするんすか?」

初音「そんなの決まってるじゃない」


初音の顔が柳瀬川の顔に近づく。


柳瀬川「ちょ、ちょっと!」

初音「困ってる人がいたら助ける。私はそうやって生きてるの」

柳瀬川「優しいんですね」

初音「違うわ。私はただ無器用なだけ。貴方も無器用そうだから、私みたいに生

きると楽かもね」

柳瀬川「それは……」

初音「はい、手当ておしまい。それじゃ、じゃあね」


初音が立ち去ろうとする。


柳瀬川「あの!」

初音「何?」

柳瀬川「……な、名前を聞いても良いすか?」


初音が微笑む。


初音「……初音よ。それじゃあね。ケンカは程々に」


初音が退場。


柳瀬川「初音さん……」


暗転。
貼った絆創膏を剥がす。


○屋上
金剛が登場。
照明をつける。


金剛「へぇ、如何にも初音姉さんがしそうな話ね」

柳瀬川「そうだな。あの時の事は今でも鮮明に覚えてるよ」

金剛「……なんだか、ちょっと嫉妬しちゃうな」

柳瀬川「……ふふ、あははは!」

金剛「ちょっと!私は真剣に!」

柳瀬川「大丈夫だよ金剛ちゃん。俺は遺伝子レベルで金剛ちゃんの事が好きみた

いだから」

金剛「また恥ずかしい事を言って……」


恥ずかしそうに顔を背ける金剛。


柳瀬川「ははは。……初音さん、どうかお幸せに」


暗転。