四季を感じる暮らしをとても気に入っている。春になると山は膨らんで青くなり、

秋には美しい紅葉へと移り変わる。冬は真っ白い雪景色が見られるし、季節に合わせていろんな鳥たちがやって来る。

 

 田植えが始まるころ一斉に田んぼに水が張られて、そこからは秋の収穫まで稲の成長を眺めることが出来る。

 そんな景色を見るのも好きだし、田畑で働く農家の人々を眺めるのも好きだ。僕らが日々食べているお米や野菜は、この人たちが守ってくれているのだと実感できてありがたい。

 都市部では米というのはただ袋に入って並んでいるものだから、なかなか本当のありがたみを感じ得ない。

 

 都会の暮らしでは季節の移ろいというのは少し味気ない。木や草花の変化も、わずかにある公園や街路樹に見られるくらいだ。暮らしの中で日常目にする虫たちも、例えばゴキブリや蚊、ハエ、ハチなど、人間にとって歓迎されない存在だったりする。

 

 僕は特にクモが嫌いだった。顔にクモの巣でもかかろうものなら、叫び声をあげるほど大嫌いだ。

 

 震災のあと津波の瓦礫を片付けている頃、ふと思ったことがある。生き物を見かけないのだ。普通なら見るような小さな昆虫を見かけなかった。津波にみな流されてしまったのだろうか。虫がいなかったから、それを餌にしている小鳥も見かけなかった。見かけたのはカラスの群れくらいだ。

 そんなある日、いつものように瓦礫を片付ける作業をしていると、何かの陰から小さなクモがぴょんと飛び出してきた。以前ならびっくりして飛び退いたけど、この時は本当に嬉しかったのを覚えている。

 

「おまえ、どこで生きていたんだ」と、愛しくさえ思えた。

 

 それ以降、僕はクモが平気になったし、どんな虫でも可愛く思えるようになった。