都心での用事を済ませた帰り道、僕は新幹線に乗っていた。すると「マザーテレサ」のような修道女のおばあちゃんがやって来て、僕のとなりに座ってきた。

 見たところは90歳くらいだろうか、小さな体に清潔なグレーの修道服を着ていて、おそらく講演でお話しするものなのか、原稿の束を膝の上に置いて読んでいた。

 

 僕は宗教には詳しくはないので、失礼があるかもしれないが、仮にこの方を「テレサおばあちゃん」と呼ぶことにする。

 テレサおばあちゃんは僕のとなりの席で、膝に原稿用紙を開いて読んでいたのだけれど、とても疲れているのか、うとうとし始めて、やがて僕の腕のあたりにもたれかかって眠ってしまった。

 そして走行中、列車が揺れたり車内アナウンスが流れたりするたびに、ふっと目が覚めては「ごめんなさいねぇ」と、申し訳なさそうに僕に謝るのだ。

「いいえ、大丈夫ですよ」と、僕は笑顔で答えた。

 原稿を手にしたテレサおばあちゃんはまたすぐに、こっくりこっくりと眠りに落ちると、僕の腕に頭をのせてすーすーと眠ってしまう。

 

 僕は自分の腕を動かさないようにして、テレサおばあちゃんを起こさないようにじっとしていた。

 

 なんというのだろう、こんな時の感情はまったく不快なものではなくて、なぜか僕は穏やかな優しい気持ちになれるのだった。

 

 電車が仙台に着いた。最後に起きたときテレサおばあちゃんはまた僕に謝った

 

「すみませんねぇ・・ご迷惑をおかけして・・」

 

 いいえ、謝ることなんかないのですよ、おばあちゃん。あなたが僕にもたれて眠っている間、僕はとても穏やかな、優しい気持ちになることが出来たのだから。

 

心からありがとうと言いたいです。

長生きしてくださいね、テレサおばあちゃん。