浮浪児のような暮らしをしていた中学生の頃、夕暮れ時の都心の公園でベンチに腰掛けていた。行くところもないしお金もないし、このままベンチで寝ればいいかな。そんな風に思いながら、大きな木に集まったカラスを数えたりしていた。
ひとりの薄汚れた格好のおじさんが近寄って来て、僕に話しかけて来た。
「おい坊主、そこはわしの椅子だぞ」
おじさんはいかにも、その日暮らしをしている恰好で、とても汚れた服を着て、足には左右ちがう靴を履き、なんだかすごい臭いまで漂わせている。
「おじさんは乞食なの?」
と訊ねた。
「そう、乞食じゃよ」
怒られるかと思ったけれど、おじさんはむしろ堂々と胸を張って僕にそう答えた。
「今夜このベンチで寝ようと思って」
と言うと、おじさんは首を横に振り、この公園のベンチは全て寝る人が決まっていると説明してくれた。
僕が困って黙りこんでいると、おじさんは少し優しい顔になって、
「一日なら貸してやらんでもない、一日だけだぞ」
と、その夜ベンチを使うことを許してくれた。
公園には何人かのホームレスが住んでいた。あっちのベンチには片足のおじさん。そっちのベンチは誰よりも将棋が強い先生と呼ばれるおじいさん。
夜になると繁華街に出て食べ物をもらい、公園の噴水で水浴びをするという。
「おまわりによく叱られるよ」
と笑っていた。
カラスが集まっている巨木はクスノキだと言っていた。夕方になると集まって来て、大勢で木にとまって眠るのだという。
フンが落ちて来るから気を付けた方が良いと、おじさんは教えてくれた。
「なんでおまえはここにいるのだ?」
と聞かれ、お金が無いからと僕は答えた。
「お金が欲しければ働け、働きたくなければお金を我慢しろ。みなそうして生きている」
ポケットから取り出した拾いタバコを吸いながら、まじめな顔で僕に話す。
おじさんはどこから来たのかと聞くと、笑顔で言っていた。
「わしの生まれはお母さんのお腹だよ。お前さんだって同じ、みんな母のお腹から生まれて来る」
翌朝、約束どおり僕は公園を出て、おじさんに教えてもらった日雇い仕事に向かった。
それから公園には戻ってない。