縄文土偶 | 旅行、美術館、書評

縄文土偶


子供が産まれるというのは祖先の誰かが帰って来たということ
「衣」という字は人に依りかかるんではなくて、人に魂を移すという意味


以下、 
呪いの思想 白川静 + 梅原猛 より
殷と日本 P168 -

梅原
縄文の土偶は、全部妊婦なんです。成年の女性で、腹が大きい。
これが一つめの特徴です。
二つめは顔がみな異様な形をしているということです。
ミミズク形とか円筒形とか。いずれにしてもこの世の人の顔ではない。
三つめは腹に縦一文字の筋がある。
四つめはみんな手足や胴体がバラバラになっていて、完全なものは一つもない、壊してある。
最後はすべてに当てはまるものではありませんが、丁寧に埋葬してあるものもある。
この五つの特徴がある。



その土偶の意味が長い間解らんかったんですが、ハル婆ちゃんにアイヌの葬法について聞きますと、
妊婦を埋葬するのがいちばん難しいと言うんです。
というのは、子供が産まれるというのは新しく生まれるのではなくて、祖先の誰かが帰って来た
ということなんです。だから子供が出来ると、あの世のA家とB家の祖先が相談して、
誰を帰すか決める。で、決まったら妊婦の腹に入って、月が満ちて生まれて来る。
とすると、妊婦が死ぬとせっかく祖先の人がこの世に帰って来たのに、閉じ籠められて
出られないということになる。
これは大きなタタリになる。ですから妊婦が死ぬといったん葬り、後に霊を司るお婆さんが
墓に行き、妊婦の腹を割いて胎児を取り出し、妊婦にその子を抱かせて葬るということを聞いたんです。

そういうアイヌの話から土偶を見ると、「妊婦」「異様な顔」(死者の顔)
「腹を縦に割く」(赤子を取り出す)
「バラバラにする」(この世で不完全なものはあの世で完全という思想)
「丁寧に埋葬されている」という条件が総て当てはまる

遮光器土偶


「目」というのは重要ですね。遮光器土偶とういのがありますが、こんな大きな目をしているのに
中は堅くつぶれている。やはり死んだ人間なんです。
ではどうして大きな眼窩をしているのか。
これは『ユーカラ』を読んでて解ったんですが、目のある死人と目のない死人が出てまして、
目のある方は再生可能な死人を意味する。だから再生可能を示すために大変大きな目を付けた。
目は再生のシンボルなんですよ。


白川
「衣」はね、魂の受け渡しをやるという信仰がある。魂寄せ。
 ・・・

大体「衣」という字は人に依りかかるんではなくて、人に魂を移すという意味です。
真床襲衾(まどこおぶすま)と同じです。 憑依、大嘗祭と一緒です。
殷と日本は衣に対する観念が似ていると思いますよ。



* アイヌの口承文芸の一つ。火や風などの自然神や人間の始祖神が語る「神々のユーカラ」と
半神反人のヒーロー(ヒロイン)の物語である「人間のユーカラ」に二分される。