戦後、マセラーティは一九五O年に始まったF1マシンを市販する。有名な250Fである。おそらくF1マシンを市販したのは、後にも先にもマセラーティだけであろう。そのフォーミュラだけでなく、マセラーティはスポーツカーでも名だたるレースのほとんどを制覇している。一九三七年の初勝利以後、タルガ・フローリオ四回、一九五0年代にはニュルブルクリング一OOOMレース、セプリング十二時間レース、数えればキリがない。そして偉大だが、経営が安定しない点も、ミストラルは、レーシング・スポーツカー300Sのローアストン・マーティンによく似ている。ドバージョン、3500GTの後継車なのである。これとてDB6と同じく二十年ほど前の車である。大きな期待はできなかった。DB6のコンディションのよさは奇跡に近かった。オークション当日、そのDB6で会場に出かけていった。今度は「鑑定」ではなく、「見学」だ。オークションが始まってしばらくすると、コンディションは相当よさそうである。しかし会場にいた買い手たちはミストラルなどあまり知らない様子だった。
車離れって深刻なんです