小説 「桜子ねえさんと千鶴子」7
他には、指先の手入れも抜かりがない。仕事柄マニキュアはしていないが、爪の甘皮やささくれなど見たことがない。足の爪には、薄っすらとした桜色のネイルが塗られている。ペットボトルに巻き付いているラベルを剥がす時は、爪ではなく鋏を使う。何をするにも美しい仕草で、だからといって仕事が遅いわけではない。恐ろしいほど効率的な動きをするのだ。それにねえさんは真面目で几帳面だ。調味料に付いているベルマークは、ちゃんと切り取って集めている。世の中に役立つことは、どんなに小さなことも見逃さないのだ。心根が美しい、桜子ねえさんとはそういう女だ。 そんなねえさんのことを私はいつも陰から見ている。そして、ねえさんの秘密を知ってしまっている。それは、ねえさんの日記だ。私はその日記をこっそりと読んでいる。毎晩、遅くまで居間でテレビを観ている私の隣で、ねえさんは真面目な顔でノートを開く。その姿に初めの頃は私も、「仕事の日誌でも書いているのだろう」そう思って特別な関心も持っていなかった。しかし、ある晩そのノートを机に置いたままねえさんは風呂に入ったのだった。開かれたままのノートに、私はふと目をとめてしまった。盗み見ようとしたのではなく、偶然…… 。お茶を入れようと立ち上がった瞬間、ノートに書かれた文字が私の目の中に飛び込んできたのだ。あまりの衝撃的なその単語に、私の体は固まってしまった。あの穏やかで美しい桜子ねえさんが、こんな言葉を知っているとは信じられなかった。私は興奮した。その日から、私はねえさんの日記が気になって仕方なくなったのだ。