相手の逆
なるほど、大島の凄さが分かってきた。でも、それなら彼に対して厳しく寄せに行き、彼から出るパスを制限すればいいのではないか。
そう。その通りなのだ。
我が軍の試合を見ていると大島の元には多くの来客がやってくる。
「おい、その女(ボール)俺のもんなんだけど。手、出さないでくんね?」と言わんばかりに。
そんな来客に対して大島はこう答える。
「だったら取り返してみろよ。」と。
…おっと失礼。これはサッカー小説「サッカーボールが恋をした」のワンシーン、元ヤンのCB香田健斗が昔の悪仲間に彼女を紹介した際のシーンだった。
実際の大島は、次のような魔法をかける。
まず、寄せてきたDFと対峙した際の大島の"目線"に注目して欲しい。
彼は一切ボールを見ていない。彼が見ているのは"相手の足"である。
次に、2人の体と足の向きに注目して欲しい。
大島の体の向き。若干左側、相手から見たら右側に傾いている。
対面した状況で体が左に傾いていれば、DFは間違いなくこう思う。
「右に来る!」と。
その為、左に傾いた大島に対してDFは右足を出し、ボールを奪いにいく。
ここまではよくあるサッカーの"1対1"の攻防だ。そして、大島が凄いのはここからだ。
そう。彼は左足の内側にボールを置いている。
これのどこが凄いのか。想像してみて欲しい。
左足で内側にあるボールに触ると、ボールは右側、つまり相手の「左側」に転がっていく。
相手DFは、大島が「自分の右側にくる」と思い重心を右側に倒して守備に行った。
大島はそれを"待っていた"。
相手の重心が右側に傾いたことを確認すると、彼は自身の右側、つまり相手の「左側」にボールを運ぶ。
写真のように、大島は相手の重心を「操り」その逆を取り、常にフリーになる。
相手の重心の逆を突ける選手は、プロレベルにもなれば多く存在する。
しかし、彼は相手の重心を"操る"ことが出来る数少ない選手なのである。
彼の元には毎試合多くの来客がやってくるが、彼はこのように魔法をかけることでフリーで、ストレスなくプレーできる環境を自分で作り出しているのである。
このプレーは1つであり、もっと彼の本気が現れる試合はそう珍しくはない。
タッチ、視野、感覚、タイミング。
学べることは多い。