「中原さん!立て!」
完全に怖じ気づいた諏訪衆たちの前にすっくと立った者がある。
藤田健吾。
鹿島流師範。
「このままでは全滅する。力を貸してくれ」
しかし…
中原は情けなさそうな目で藤田健吾を見つめた。
諏訪の氏神。
ミジャグジ。
その力は圧倒的で、諏訪一族は長きにわたり、この古代神を封じてきた。
いや、中原とてミジャグジの本体に遭遇するのは初めてのこと。
その力は圧倒的だ。
「このままではみな石にされるぞ…」
「で、でも…」
「奴を封じるのにはどうしたら良いのだ?」
「もう、手遅れだ…」
「ん?」
「諏訪衆の残りは4人。今となっては封じ札も松ヤニも効かんだろう。全滅じゃ。もう終わりじゃ」
「そんなものやってみなければわからんだろう?」
「葵星女様じゃ」
中原は吐き出すように言った。
「50年前は葵星女様の超能力によって封じたんじゃ。だか今はそれも叶わぬ。我々は無力じゃ」
「そうだったかな。私はそういう風に聞いておらんが……葵星女は生け贄にされた筈…」
「え?」
ゴオオン!
重い金属の音が聞こえた。
それは極めて低く、悪意を持った音にきこえる。
藤田健吾は顔を上げた。
「鐘か…」
「鐘の音…」
「中原さん。美浜寺には鐘があるな?」
「そりゃあ寺だから…」
藤田健吾はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「吉備津の釜か…?
いかにも蛇らしい…」
■■■
藤枝一馬が片目をあけた。
油断。
身を起こした。
呼吸するたびに激痛が胸を襲う。
肺に骨がささったか?
握りしめた木刀を眺めた。
神木、鉄刀木が真っ二つに折れている。
さすがは最強邪神ミジャグジ。
一馬は立ち上がった。
目がかすむようだ。
戦えるか…?
やっとのことで立ち上がるも、口のなかはヌラヌラと生温かい血の味が広がる。
「あ、あの…」
背後から声をかける者がいる。
一馬が振り返ると、錫杖を持った青年がいる。
誰だったか?
そうだ。葵星女と一緒に現れた青年。
「…あ、あなたなら…」
青年の声はかすれている。
急展開に精神状態がギリギリなのだろう?
「こ、これを使える…」
古屋和彦は錫杖を一馬に差し出した。
「それは?」
「葵星女…さんが、これで身を守れ…と」
一馬は錫杖を眺めた。
「葵星女…やはりアレはニセモノか?」
「そう思います。少なくとも僕が最初にお会いした葵星女さんは口の悪いひとだが、人間らしい心を持ったひとだ。どこかでいれ代わったんだ」
一馬は錫杖を受け取った。
ズシリとした重みが力を感じる。
「ありがとう。使わせてもらう」
一馬は錫杖のスイッチを入れた。
~スタンバイ~
電子音声が呼応する。
■■■
「おお…鐘が落ちとる」
鐘楼に釣られた鐘は見事に地に着いていた。
重さ数百キロはあろう鐘は鋳物と銅の塊だ。
誰が鐘を降ろしたか?
藤田健吾は鐘に耳をつけた。
「むう…」
ああっ…
その時である。
中原が情けない声を上げた。
「か、影があ!」
シャシャシャシャシャシャシャシャ!
衣ずれのような音が迫る。
藤田健吾はカッと目を開いた。
「お前は見るな!目を閉じろ!」
藤田健吾は背中に手を回すと、背にしょった円盤状のものを二枚取り出した。
それは直径30センチほどのドーナツ型のものである。
外周には刃がつけてあり、丸ノコギリを連想させる。
~スタンバイ~
藤田健吾がスイッチを入れたのであろう。
電子音声とともに円盤は恐ろしいスピードで回転を始めた。
法輪。
別名チャクラム。
法輪とは釈迦の説法の根幹だが、その名から人々はストレートに輪を連想した。
インド国旗には中央にこの法輪がデザインされ図案化されている。
藤田健吾は二枚の法輪を投げた。
法輪は影に向かって突き進む。
~ストームホイール~
唸りをあげて法輪は空を切った。
つづく。
〔画像〕
法輪
kashima magic industry社製。
「spinning Sricer」