男の流儀~人生の達人~-ファイル0241.jpg

「中原さん!立て!」

完全に怖じ気づいた諏訪衆たちの前にすっくと立った者がある。

藤田健吾。

鹿島流師範。

「このままでは全滅する。力を貸してくれ」

しかし…

中原は情けなさそうな目で藤田健吾を見つめた。

諏訪の氏神。
ミジャグジ。

その力は圧倒的で、諏訪一族は長きにわたり、この古代神を封じてきた。
いや、中原とてミジャグジの本体に遭遇するのは初めてのこと。
その力は圧倒的だ。

「このままではみな石にされるぞ…」

「で、でも…」

「奴を封じるのにはどうしたら良いのだ?」

「もう、手遅れだ…」

「ん?」

「諏訪衆の残りは4人。今となっては封じ札も松ヤニも効かんだろう。全滅じゃ。もう終わりじゃ」

「そんなものやってみなければわからんだろう?」

「葵星女様じゃ」

中原は吐き出すように言った。

「50年前は葵星女様の超能力によって封じたんじゃ。だか今はそれも叶わぬ。我々は無力じゃ」

「そうだったかな。私はそういう風に聞いておらんが……葵星女は生け贄にされた筈…」

「え?」

ゴオオン!

重い金属の音が聞こえた。
それは極めて低く、悪意を持った音にきこえる。

藤田健吾は顔を上げた。

「鐘か…」

「鐘の音…」

「中原さん。美浜寺には鐘があるな?」

「そりゃあ寺だから…」

藤田健吾はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「吉備津の釜か…?
いかにも蛇らしい…」

■■■

藤枝一馬が片目をあけた。

油断。

身を起こした。
呼吸するたびに激痛が胸を襲う。

肺に骨がささったか?

握りしめた木刀を眺めた。
神木、鉄刀木が真っ二つに折れている。

さすがは最強邪神ミジャグジ。

一馬は立ち上がった。
目がかすむようだ。
戦えるか…?
やっとのことで立ち上がるも、口のなかはヌラヌラと生温かい血の味が広がる。

「あ、あの…」

背後から声をかける者がいる。
一馬が振り返ると、錫杖を持った青年がいる。
誰だったか?

そうだ。葵星女と一緒に現れた青年。

「…あ、あなたなら…」

青年の声はかすれている。
急展開に精神状態がギリギリなのだろう?

「こ、これを使える…」

古屋和彦は錫杖を一馬に差し出した。

「それは?」

「葵星女…さんが、これで身を守れ…と」

一馬は錫杖を眺めた。

「葵星女…やはりアレはニセモノか?」

「そう思います。少なくとも僕が最初にお会いした葵星女さんは口の悪いひとだが、人間らしい心を持ったひとだ。どこかでいれ代わったんだ」

一馬は錫杖を受け取った。
ズシリとした重みが力を感じる。

「ありがとう。使わせてもらう」

一馬は錫杖のスイッチを入れた。

~スタンバイ~

電子音声が呼応する。

■■■

「おお…鐘が落ちとる」

鐘楼に釣られた鐘は見事に地に着いていた。
重さ数百キロはあろう鐘は鋳物と銅の塊だ。
誰が鐘を降ろしたか?
藤田健吾は鐘に耳をつけた。

「むう…」

ああっ…

その時である。

中原が情けない声を上げた。

「か、影があ!」

シャシャシャシャシャシャシャシャ!

衣ずれのような音が迫る。

藤田健吾はカッと目を開いた。

「お前は見るな!目を閉じろ!」

藤田健吾は背中に手を回すと、背にしょった円盤状のものを二枚取り出した。
それは直径30センチほどのドーナツ型のものである。
外周には刃がつけてあり、丸ノコギリを連想させる。

~スタンバイ~

藤田健吾がスイッチを入れたのであろう。
電子音声とともに円盤は恐ろしいスピードで回転を始めた。

法輪。

別名チャクラム。

法輪とは釈迦の説法の根幹だが、その名から人々はストレートに輪を連想した。
インド国旗には中央にこの法輪がデザインされ図案化されている。

藤田健吾は二枚の法輪を投げた。
法輪は影に向かって突き進む。

~ストームホイール~

唸りをあげて法輪は空を切った。

つづく。

〔画像〕
法輪

kashima magic industry社製。

「spinning Sricer」