「中原さん!上じゃ!」

喜多川の声が聞こえる。

石段を駆け上がる中原の心臓は破れそうだった。

「喜多川さん!どこや!?」

ごぉ…

一陣のつむじ風が中原の目の前を駆け抜けた。

ずざ…

人影が倒れた。
まるで棒杭かなんかがぶっ倒れたような堅い倒れかただった。

「だ、誰や…喜多川はんか?」

くっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっくっ…

女の忍び笑いが聞こえる。

だ、だれや…?

くっくっくっくっ…

だれや?
チクショウ…

中原は急いでまわりを見渡した。

あちらでひとり…

こちらでひとり…

諏訪衆が倒れている。
両腕をピシッと脇につけ、足を揃え、体を硬化させたまま倒れこんでいる。

「ぎゃあああああ!」

また諏訪衆の声が聞こえた。

そしてまたひとり硬化したまま倒れ込む。

「うわああああ!」

喜多川は?緑川は?有田は?

諏訪衆が次々に倒れている。

全滅する…

中原は戦慄した。

「中原さん。こっちや」

すぐ近くで呼ぶ声が聞こえる。
まるで耳のすぐうしろでささやかれたような…

中原は反射的に振り向いた。

「なかはらさん、こっち」

シャアー

中原のすぐ後ろに女が立っていた。
いつのまに来ていたのか。
まるで気配を感じさせなかった。

まるで蛇…

「あっ!」

見てしまった。

中原は…
その目を…

その赤い光を…

中原のからだに電流が走った。
恐怖が神経を伝達する。
体温を奪い、筋肉は硬化を始める。

しまった…

中原はそのまま後ろに倒れた。

ズルズルズルズル。

中原はとぐろにまかれた。
「かしまさん」の長い体の中心に中原はいた。


つづく。