この通路では
どんな思想も観念もしめ出されているので、
外にある物事だけに関わっていなければならないのですが、
実際的な事柄の理解は少しも損なわれていないので、
心が完全に沈黙したままで、
他人の言うことに耳を傾けることができることに気がつきました。

ついで、哲学書などはだめですが、
思考を要求しないような本を読むことができることが分り、
図書館中の登山の本を読みあさったものです。

その上ついには、
沈黙した心のままで会話もできることが分りました。

ただし言葉が何も考えずにその場で出て来る場合だけで、
はじめは実際的な事柄に限られて、
しかもごく短いものでしたが、
そのうちにこういう心の外での会話が楽にできるようになりました。

後で次第に分ってきたことですが、
私のこの沈黙の心は、
通常のいろいろ思いめぐらす心よりはるかによいと感じました。



バーナデット・ロバーツ

自己喪失の体験 より